15 合同合宿 其四
防壁の上での軽いランニングを終えてテントに戻ると早速、三年生の副班長を務めているメイさんがエイドリアンから預かった制服を差し出した。
「リーダーがさっき持って来たんだけれど ”リアンに渡せば分る” って言っただけだから」
「すみません。相変わらずの不愛想で。さっき防壁の上で会った時に聞いています。お手を煩わせてしまいすみません」
エイドリアンは仲間といる時でも自分から無駄話をする事はほとんどなく口数も少ない。特に異性に対しては必要最低限の事しか会話しない。そこがクールで良いというファンも多いのだけれどリアンにとって上級生となる人達への兄のフォローには大変気を遣う。
受け取った制服を早速チェックする。やはり脇のところが大きく綻んでいる。他には目立った綻びは無い様なので持って来た携帯裁縫セットで手際よく補修していく。
携帯セットと言ってもそんな気の利いた物を少ない収入で態々購入することは無い。自分で作った小さな袋に必要最低限の道具を入れて携帯しているのである。
出来上がった制服を持って朝食準備の為にグループのテントに向かう。
宿営地でのグループ分けはそれぞれのグループ全体で見た能力が均等になるように人員が分けられているのでリアンの仲間達は五つのグループそれぞれに振り分けられている。よって合宿中の団体行動は普段一緒にいる仲間とは別行動をとる事になる。学年主席の者も被る事無く分けられているので制服を届けにエイドリアンのテントへと向かった。
エイドリアンを見つけて声を掛ける。
「リーダー、頼まれてた物、出来たから持って来たよ」
「おお、サンキュー。早かったな」
「他に色々やることあるからね。急いで片付けて来た」
そう言って手渡すと急いで自分のグループキャンプに向かう。下っ端一年生なので朝の仕事は山ほどあるのだ。
そんな光景を偶々目にしたシリルは何故か胸の奥がざらりとした。
合宿の説明会の場で彼を見つけた時、北の森の合宿で最前列、おそらく優秀な生徒だろうという事が想像できた。
そして今朝、防壁の上で再会した時に挨拶しながら微笑むライラックの瞳を目にして何故か不思議に心が躍った。
街で出会った時の 正義感が強そうで相手に臆する事無い行動や屈託のない物言いに、こんな友人を欲していたのかもしれないと思った。
自分はこの合宿では異質な存在だ。他の貴族学園からの参加者の殆んどは実力が伴わず王城騎士団への入団を諦めた者達だ。
自分は学園の騎士科三年の首席。自身が望めば王城騎士団への入団は保証されている。しかし一つ上の兄が既に王城騎士団に所属している。
嫡男である兄と競って肩身の狭い思いをしてまで同じ騎士団に所属する意味は無い。
それに剣の腕を生かす場としては国同士の争い事の無い今の時代、王都警備騎士団の方が都合が良い。そう思って一年の時に特別に参加を申し出た。
その合同合宿の場で再会したエイドリアン・リトレー。
声を掛けられて相手が名乗るまで忘れていた存在。文具店でこちらから声を掛けた時は ”ジョゼフィーヌ” 嬢にばかり気を取られていた。
彼の人物としての印象は今まで見る限りリーダーとして優秀なのだろう。周りの信頼も厚い様だ。しかし防壁の上でのやり取りを見ているとあのリアンという少年と特別に親しそうだった気がする。
あの屈託のない性格と優秀さが人を惹きつけるのだろうか。年下でも親しくなりたいと思う者が他にいてもおかしくない。
そんな気持ちが落ち着かなくさせるのかシリルがその日の魔物討伐実習でイラつく気持ちで魔物に切りかかる。その勢いを目にした負けず嫌いのエイドリアンが競うように剣を振るう。
その日の一班の魔物討伐実習は合同合宿始まって以来、討伐された魔物の数が多かった。
森の外円付近で中、小の魔物討伐実習を行った一、二年生のグループも例年より積極的に討伐参加する生徒も多く、騎士団と森に入った三年生も現れる魔物を次から次へと薙ぎ倒して魔物の山を築いた。
尤も実際魔物を倒した生徒の数はどちらのグループも数人ずつであった。
中にはやはり例年に漏れず最初から最後まで青い顔で蹲っている生徒も見受けられたが ”この現状では仕方のない事だ”と引率の教師が納得したのであった。




