14 朝トレ
「おはようございます」
「やあ、おはよう。リアン君…で良かったかな?先日は世話になったね。改めまして、私はシリル・リンゼイ。ご存じかと思うけど貴族学園騎士科の三年だ。」
えっ、この人が、と思ったが顔には出さない。ニコッと微笑むだけに留める。
”君” 付けで呼ばれたがリアンにとってはわざわざ否定する程の事では無いのでそれもスルーしておく。
「・・・いいえ、大してお役に立ててないです。お気になさらないで下さい」
「そうでもないけど…助かったよ。君もこれから走り込み?」
「はい。早起きし過ぎちゃって。まだみんな寝てるから他にする事も無いし」
リアンも準備運動を始めながら答える。
「結構余裕だね。大体みんな疲れ果てて起こされるまでぐっすり寝入ってるのに」
「他にも余裕のある人達がいますよ」
シリルの後ろに目をやりながらリアンが言った言葉にシリルが振り向く。
遠くに見えていた人影が幾つか近づいて来た。
「ホントだ。今年の参加者は猛者揃いなのかな?」
シリルの言葉に ”猛者” なのは貴方では?と笑みが零れる。
「猛者なんて言い過ぎですよ」
近付いて来た面々はリアンの予想通りのメンバーだった。
「あっ、リアンおはよう」
仲間がシリルを気にしながら口々に朝の挨拶をして立ち止まった。
「おはよう。こちらシリル・リンゼイさん。皆もこの前会ったでしょ」
「やあ、先日は世話になったね」
「おはようございます。あんな事、気にしないで下さい」
「リーダー、おはようございます」
リアンが後ろから遅れてきたエイドリアンにも声を掛ける。
「リンゼイ伯爵令息、おはようございます。リアンもおはよう。知り合いだったのか?」
「リトレーさん、おはようございます。先日広場で絡まれている所を助けて頂きました」
エイドリアンの疑問にシリルが答えリアンが補足する。
「三年の先輩が数人で貴族学園生三人相手に絡んでたんです」
「そうなのか? うちの奴らがご迷惑をおかけして申し訳なかったです」
「いや、中等部まで一緒だった連中だから色々因縁が有るみたいで。あなた方が気にする事ではありませんよ」
「そう言って貰えると助かります。そうだ丁度いい。リアン、裁縫道具持って来てるか? ちょっと解れたとこを縫ってほしいんだが」
「針と糸位なら持って来てるけどそれをここで言う?」
リアンの発言の意図を汲みエイドリアンが伴走して来た面々に念を押す。
「ああ、分かってると思うがリアンに ”俺の服の綻びも直してくれ” なんて言うなよ。お前ら自重ってモノを知らないからな」
「えー、リーダーだって公私混同してるんじゃないっすか?」
「この位はそんなの関係ないだろ」
「冗談っすよ」
やり取りを聞いていたシリルは準備運動も終わったので
「じゃあ、また」
と手を挙げて走っていった。
「俺はもう上がるから後でテントに持って行く」
「しょうがないなあ。誰かに預けといてください」
「わかった」
そう言うとエイドリアンは階段を降りて行った。
「ジェド達はまだ走るんでしょ?」
「ああ、まだ一往復しただけだから。ところで何話してたの?」
連れ立って走り始めながら話しを続ける。
「今来たところだからあいさつ程度」
「そっか。世間は広い様で狭いよね。彼、至って普通の人って感じだったね」
「そうそう。普通の人だったよ」
「嬉々として魔物討伐してるって感じじゃなかったな」
「今回もキラーウルフとか飛び出してくるのかなあ」
リアンの疑問に先にエイドリアンと走り込んでいたメンバーが答える。
「今リーダーに聞いたんだけど、あの年は偶々合宿時期がずれて丁度ウルフの繁殖期で気が立ってたらしい。今年は多分大丈夫だろうってさ」
「そうなの?」
「がっかりだよな」
「ジンはサプライズ、期待してるんだ」
「目立つチャンスだぜ?」
「いやいや、そんな事無くても十分目立ってんじゃない?」
途中でシリルとすれ違ったのでみんなで揃って軽く会釈した。
それを何回か繰り返した。
「俺らもう上がるけどリアンはどうする?」
「僕もエド兄から補修頼まれてるからテントに戻るよ」
ちょっと物足りない気もするけど合宿中は体を動かす事が多いからこの位で丁度良いと皆と一緒に切り上げる事にした。途中で別れてそれぞれのテントに戻って行った。




