10 街の食堂
鼻腔を刺激され生唾を飲み込む。
火を囲んでいた皆が顔を見合わせ、そして一斉に串焼きを手にする。
ガブリッ、とかぶりつき暫く無言で噛みしめる。
「んん~! やっぱこうやって直火でシンプルに焼いたのが一番だよな」
「おお。香草と塩が良い仕事してるぜ!」
「いやー、ひと仕事終えた後の串焼きは最高だぜ~」
「おっさんか!?」
「思ったより簡単に捕獲出来たね。この分だと東の森の合宿って
楽勝なんじゃない?」
「ホーンラビットやレッドバジャーなんかは一年でも簡単に狩れそうだよな」
結構ボリュームのある一本をあっという間に平らげた。皆リュックから水筒を取り出し水を飲んで塩気で乾いた喉を潤す。その間にジェドが学食で昼食用にと貰って来たロールパンを取り出した。ナイフで切り込みを入れて一人一人に手渡していく。
そして手渡されたパンに各々が串を外した肉を挟んで頬張る。素朴な味のパンに中和されてマイルドになった塩味と香草の効いた肉の味のバランスが何とも言えず美味で絶品だ。久しぶりのストレス解消と美味いご馳走にありつけた遠出に皆お腹も心も満たされた。
残った肉や素材を幾つかに分けて持って来た大きな油紙に丁寧に包んでリュックに仕舞う。
使った串などを火にほり込み灰になるまで燃やしきる。その間に役に立つ素材が無いか付近を探して歩き回る。先ほど見つけた香草とサンシュの実、更にニッケイジュの木の葉を見つけて適量を採取した。
そうして夕方には街に戻れるように出発した。帰りも来た時と同じように賑やかにそして早歩きで進む。街に戻ると宿舎ではなく街はずれにある一軒の食堂へと向かった。
「こんにちは」と言って暖簾を潜る。夕方の営業が始まったばかりで
未だ客の姿は無い。
「いらっしゃい…おや、今日はこんな時間にどうしたんだい?」
と、年老いた女将さんが厨房から顔を出した。
「前にボアのあばらの塊が手に入ったら薫製を作りたいって言ってたから
持って来たんだけど」
「えっ、ボアの肉?」
「そう。今日皆でバーベキューするのにファングボアを狩ったんだけど食べきれなかった余り物なんだ。だから使い道に困ってたらシズ婆ちゃんの事思い出して持って来た」
「ファングボアを狩ったのかい。怪我とかは無かったかい?」
「大丈夫。田舎にいる時から良く狩っていたから。あと、香草やらニッケイジュの葉なんかも採って来たから一緒に置いてくね」
「せっかく狩ったのに貰っても良いのかい」
「俺ら腹いっぱい食べたし寮じゃ料理できないし」
「それに明日から合宿でまた魔物狩るしね」
「いつも大勢で場所借りて助かってるから気にしないで」
「そんな気を遣ってくれなくて良いのに。いつも賑やかで婆も一緒に楽しませて貰ってるよ」
「薫製作るの大変だから反って迷惑になるかもだし」
「いやいや、そんなことは無いよ。作る楽しみってのも有るからね。じゃあ遠慮なく貰っとくよ」
「うん。そうしてくれると僕らも助かるから」
店主のシズ婆と出会ったのはリアン達が王都へ来て間もない頃である。
リアン達がみんなで集まろうと待ち合わせ場所に決めたのは
王都の町の一画で月一回行われている朝市の立つ広場だった。バラバラと集まってきた仲間が広場の隅で沢山の荷物を背負って動けなくなっているお婆さんを見つけた。
仲間達は皆、人が困っているのを見つけると躊躇わずに声を掛ける。
その時も誰とは無しに声を掛けたのだが事情を聞くと食堂を夫婦で営んでおり
月に一度の朝市で調味料などを買い溜めする為に夫婦で来ていたが
爺さまが膝を悪くして前回から一緒に来れなくなってしまったそうだ。
前回は一人で持てるだけ買ったのだが、在庫の余裕が無くなってきたので
今日は無理して買い過ぎてしまい背負いきれ無くなってしまったらしい。
それならば今日集まってからの予定も決まっていないから皆でお店まで荷物を持って行こうという事になった。
店に着くと 「今日は定休日だからゆっくりお茶でも飲んで行って」 と言わるままにお婆さんと自分たちの近況など話して過ごした。
それからは毎月市場の立つ日に仲間と広場で待ち合わせて
シズ婆さんの買い物を手伝いがてら割り勘で昼食の材料を買い揃え
シズ婆さんの食堂で談話しながら昼食を摂る事が集いの日の日課となった。




