探す時間
「……ないな」
ユルンが工房の中で立ち止まった。
手には何も持っていない。
棚を見て、作業台を見て、
もう一度棚を見る。
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「どうした」
ノルが聞く。
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「小さい刃だ」
ユルンが答える。
「さっき使ったやつ」
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オルナが棚を指す。
「そこじゃないか」
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「ない」
ユルンは首を振る。
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グラドが作業台を覗く。
「こっちもないな」
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イセラが布を持ったまま言う。
「昨日、動かした」
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少しの沈黙。
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「……増えたな」
ノルが言う。
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棚。
作業台。
手元。
置く場所が増えた分、
探す場所も増えている。
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子どもが近づいてくる。
「それなら、ここ」
作業台の奥を指す。
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ユルンが覗く。
「あった」
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「なんでそこに」
オルナが聞く。
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子どもが答える。
「使ったあと、そのまま」
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ユルンが少し笑う。
「悪くないが、
探したな」
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グラドが言う。
「流れすぎた」
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イセラが静かに言う。
「戻らないと見えない」
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イルロは作業台に手を置きながら言う。
「……一度だけ戻す場所を決めましょう」
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「一度だけ?」
ノルが聞く。
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「はい。
使ったあと、最初に置く場所です」
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オルナが頷く。
「起点だな」
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グラドが言う。
「そこから動く」
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ユルンが笑う。
「戻り先じゃなくて、
出発点か」
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イセラが言う。
「それなら迷わない」
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子どもが小さく頷く。
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一つ、小さな場所が決まる。
棚でもない。
作業台の端。
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「ここに一度置く」
ノルが言う。
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午後、
道具はそこに集まる。
そこから、
また動く。
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ユルンが言う。
「探さなくていいな」
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オルナが頷く。
「見れば分かる」
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グラドが言う。
「流れが戻った」
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イセラが布を畳む。
「動いても、見える」
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イルロはその場所を見ながら呟く。
「……増やすだけではなく、
一つ決めると整いますね」
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場所は増えた。
だが、
起点ができたことで、
迷いは減る。
動きながら、戻る。
その繰り返しが、
工房の中に自然に残った。




