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村人の日々  作者: 昼の月
413/415

戻らない位置

音がした。


軽い金属が触れる音。


工房の奥で、何かが転がった。


*****


イルロが入ると、

床に小さな工具が一つ落ちている。


拾い上げて、棚を見る。


一つ、空いている。


「……戻っていませんね」


*****


ノルが後ろから入ってくる。


「揃っていないか」


「いえ、逆です」


*****


オルナが近づく。


「場所が違うな」


*****


グラドが言う。


「元の位置じゃない」


*****


ユルンが笑う。


「今度は戻らないか」


*****


イセラが静かに棚を見る。


「置く場所が分からない」


*****


少し前の「揃える」動きとは違う。


今度は――


迷っている。


*****


子どもが入口に立っている。


前と同じ子だ。


*****


「どうした」

ノルが聞く。


*****


子どもは答える。


「……どこに戻せばいいか分からない」


*****


イルロは工具を一つ持つ。


そして、棚に戻さず、

作業台に置く。


*****


「ここでも使います」


*****


オルナが頷く。


「動く道具だな」


*****


グラドが言う。


「固定しない」


*****


ユルンが笑う。


「全部棚に戻さなくていいか」


*****


イセラが言う。


「使う場所に近いほうがいい」


*****


子どもはその様子を見る。


少し安心した顔。


*****


イルロは言う。


「戻す場所は一つではありません」


*****


棚にあるもの。

作業台にあるもの。

手元に残すもの。


*****


ノルが言う。


「揃えるのも、

 分けるのも、どちらも使うか」


*****


オルナが頷く。


「動くものは動かす」


*****


グラドが言う。


「流れだな」


*****


子どもは一つ道具を持ち、

少し考えてから、

作業台の端に置く。


*****


ユルンが笑う。


「いい場所だ」


*****


イセラが静かに言う。


「使いやすい」


*****


棚は少し空いたまま。


だが、

不完全ではない。


*****


イルロはその様子を見て呟く。


「……戻すことも、

 動かすことも、

 どちらも整え方ですね」


*****


揃えるだけでは足りない。


戻すだけでも足りない。


その間にある形が、

少しずつ見えてきていた。


棚は少し空き、

作業台は少し賑やかになる。


その変化は、

無理なく広がっていった。

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