揃えた手の理由
棚の前で、イルロは手を止めた。
また揃っている。
持ち手の向き。
刃の角度。
置き方まで同じだ。
一度崩したはずなのに、
戻っている。
「……繰り返していますね」
後ろからノルが言う。
「気づいたか」
「ええ」
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しばらく二人で棚を見る。
整っている。
だが、どこか落ち着かない。
「誰がやっていると思う」
ノルが聞く。
「使っていない人です」
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そこへオルナが入ってくる。
「まだ揃ってるな」
グラドも続く。
「昨日より揃ってる」
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ユルンが笑う。
「上手くなってるな」
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イセラが棚の端に触れる。
「迷わない並びではない」
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少しの沈黙。
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「試すか」
ノルが言う。
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イルロは一つの道具を、
わざと分かりやすく崩して置く。
向きを逆にする。
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しばらくそのままにする。
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戻ってくると、
また揃っている。
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ユルンが低く笑う。
「確定だな」
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オルナが言う。
「見ている」
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グラドが頷く。
「使っていない者が」
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そのとき、
入口の影がわずかに動いた。
子どもだ。
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ノルが声をかける。
「入れ」
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小さな足音が近づく。
一人の子どもが立っている。
少しだけ緊張した顔。
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「お前か」
ノルが聞く。
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子どもはうなずく。
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「どうして揃える」
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少し間があって、答える。
「……きれいだから」
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ユルンが笑う。
「それは分かる」
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オルナが続ける。
「だが、使うときは違う」
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グラドが言う。
「手に合わせて置く」
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イセラが静かに言う。
「戻しやすい形がある」
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子どもは棚を見る。
少し考える。
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イルロは一つ道具を手に取り、
使って、戻す。
自然な向きで。
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「この形は、
次に使う人のためです」
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子どもはゆっくり頷く。
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その後、
棚は少しずつ変わる。
完全には揃わない。
だが、
ばらばらでもない。
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ノルが言う。
「間を取ったな」
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ユルンが笑う。
「きれいで、使える」
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オルナが頷く。
「ちょうどいい」
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イルロは棚を見ながら静かに言う。
「……整え方にも、理由が必要ですね」
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揃えることも、
崩すことも、
どちらも間違いではない。
ただ、
誰のためかが変わるだけだ。
その違いが分かったことで、
棚の形は落ち着いた。




