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村人の日々  作者: 昼の月
412/415

揃えた手の理由

棚の前で、イルロは手を止めた。


また揃っている。


持ち手の向き。

刃の角度。

置き方まで同じだ。


一度崩したはずなのに、

戻っている。


「……繰り返していますね」


後ろからノルが言う。


「気づいたか」


「ええ」


*****


しばらく二人で棚を見る。


整っている。

だが、どこか落ち着かない。


「誰がやっていると思う」

ノルが聞く。


「使っていない人です」


*****


そこへオルナが入ってくる。


「まだ揃ってるな」


グラドも続く。


「昨日より揃ってる」


*****


ユルンが笑う。


「上手くなってるな」


*****


イセラが棚の端に触れる。


「迷わない並びではない」


*****


少しの沈黙。


*****


「試すか」

ノルが言う。


*****


イルロは一つの道具を、

わざと分かりやすく崩して置く。


向きを逆にする。


*****


しばらくそのままにする。


*****


戻ってくると、

また揃っている。


*****


ユルンが低く笑う。


「確定だな」


*****


オルナが言う。


「見ている」


*****


グラドが頷く。


「使っていない者が」


*****


そのとき、

入口の影がわずかに動いた。


子どもだ。


*****


ノルが声をかける。


「入れ」


*****


小さな足音が近づく。


一人の子どもが立っている。


少しだけ緊張した顔。


*****


「お前か」

ノルが聞く。


*****


子どもはうなずく。


*****


「どうして揃える」


*****


少し間があって、答える。


「……きれいだから」


*****


ユルンが笑う。


「それは分かる」


*****


オルナが続ける。


「だが、使うときは違う」


*****


グラドが言う。


「手に合わせて置く」


*****


イセラが静かに言う。


「戻しやすい形がある」


*****


子どもは棚を見る。


少し考える。


*****


イルロは一つ道具を手に取り、

使って、戻す。


自然な向きで。


*****


「この形は、

 次に使う人のためです」


*****


子どもはゆっくり頷く。


*****


その後、

棚は少しずつ変わる。


完全には揃わない。


だが、

ばらばらでもない。


*****


ノルが言う。


「間を取ったな」


*****


ユルンが笑う。


「きれいで、使える」


*****


オルナが頷く。


「ちょうどいい」


*****


イルロは棚を見ながら静かに言う。


「……整え方にも、理由が必要ですね」


*****


揃えることも、

崩すことも、

どちらも間違いではない。


ただ、

誰のためかが変わるだけだ。


その違いが分かったことで、

棚の形は落ち着いた。

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