残さない基準
朝、工房の前に新しい籠が置かれていた。
昨日とは違う実。
少し色が濃く、
指で押すとわずかに柔らかい。
イルロはそれを見て言う。
「……進みましたね」
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オルナが頷く。
「昨日より後だ」
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グラドが一つ持ち上げる。
「水分もある」
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ユルンが袋を置く。
「そのままでもいけるな」
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イセラが布を持って言う。
「色も安定している」
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少しの間、
皆がその実を見る。
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「混ぜるか?」
ノルが聞く。
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ユルンが首を振る。
「そのままでいい」
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オルナが言う。
「もう足りている」
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グラドも頷く。
「強くない」
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午前中、
新しい実はそのまま使われる。
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ユルンが一口食べる。
「甘い」
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オルナが頷く。
「ちょうどいい」
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グラドが言う。
「水に入れなくてもいい」
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イセラが布を染める。
「重ねなくてもいい」
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だが――
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イルロは少しだけ考える。
そして言う。
「……混ぜる必要がないときは、
混ぜないほうがいいですね」
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ノルが笑う。
「やりすぎるところだったな」
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昼前、
工房の前に人が集まる。
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ユルンが言う。
「昨日は混ぜた」
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オルナが続ける。
「今日はそのまま」
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グラドが言う。
「使い分けだ」
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イセラが頷く。
「状態で変える」
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午後、
新しい実はそのまま使い切られる。
混ぜない。
足さない。
削らない。
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夕方、橋の上。
ユルンが言う。
「そのままでいいときもある」
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オルナが頷く。
「手を入れないのも一つだ」
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グラドが川を見ながら言う。
「流れに任せる」
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イセラが布を畳む。
「触りすぎない」
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イルロは空の籠を見ながら呟く。
「……加えるだけでなく、
引くことも基準になりますね」
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セレン村の初夏は、
混ぜることだけでなく、
そのまま使うことも
自然に選び始めていた。
足りないときは混ぜる。
足りているときは触らない。
その違いが、
暮らしを整える。
明日もまた、
違う状態のものが来るだろう。
そのたびに、
少し考える。
それで十分だった。




