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村人の日々  作者: 昼の月
408/417

まだ早い味

朝、工房の前に小さな籠が置かれていた。


中には青い実。


まだ熟していない。


イルロはそれを見て、

一つ手に取る。


「……少し早いですね」


*****


そこへ畑番のオルナが来る。


「持ってきた」


「早くないですか」


「分かってる」


*****


水路番のグラドも覗き込む。


「固いな」


指で押しても、

ほとんどへこまない。


*****


ユルンが袋を抱えてやってくる。


「食べるのか?」


オルナが肩をすくめる。


「試す」


*****


イセラが布を持って近づく。


「色はきれい」


「味はどうだ」

グラドが聞く。


*****


オルナが一つ割る。


中はまだ青い。


ユルンがかじる。


「……酸っぱい」


*****


ノルが笑う。


「顔に出てるぞ」


*****


皆で少しずつ口にする。


「固い」

「酸い」

「まだだな」


*****


イルロは静かに言う。


「……でも、味はありますね」


*****


オルナが頷く。


「来てる」


*****


午前中、

その話が村に広がる。


「もう出たのか」

「まだ早いだろ」

「でも食べられる」


*****


昼前、

ユルンが焼き場から戻る。


「火に通したらどうだ」


*****


イセラが言う。


「柔らかくなる」


*****


オルナが少し持ってくる。


焼き場で軽く火にかける。


*****


再び味見。


「……違う」

ユルンが言う。


*****


グラドが頷く。


「少し甘い」


*****


ノルが笑う。


「さっきよりいい」


*****


イルロが言う。


「早いままでも、

 使えますね」


*****


午後、

その実は少しずつ分けられる。


全部食べるわけではない。


だが、

少しずつ試す。


*****


夕方、橋の上。


ユルンが言う。


「まだ早いが、

 悪くない」


*****


オルナが頷く。


「今しかない味だ」


*****


イセラが言う。


「色も今だけ」


*****


イルロは籠を見ながら呟く。


「……季節は、

 途中のものも残しますね」


*****


セレン村の初夏は、

完成していないものさえ、

暮らしの中に取り入れていく。


熟す前の味。

少し足りない甘さ。


だが、

それもまた季節の一部。


明日はもう少し変わるだろう。


その変化を、

また少しずつ確かめる。


それで十分だった。

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