まだ早い味
朝、工房の前に小さな籠が置かれていた。
中には青い実。
まだ熟していない。
イルロはそれを見て、
一つ手に取る。
「……少し早いですね」
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そこへ畑番のオルナが来る。
「持ってきた」
「早くないですか」
「分かってる」
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水路番のグラドも覗き込む。
「固いな」
指で押しても、
ほとんどへこまない。
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ユルンが袋を抱えてやってくる。
「食べるのか?」
オルナが肩をすくめる。
「試す」
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イセラが布を持って近づく。
「色はきれい」
「味はどうだ」
グラドが聞く。
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オルナが一つ割る。
中はまだ青い。
ユルンがかじる。
「……酸っぱい」
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ノルが笑う。
「顔に出てるぞ」
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皆で少しずつ口にする。
「固い」
「酸い」
「まだだな」
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イルロは静かに言う。
「……でも、味はありますね」
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オルナが頷く。
「来てる」
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午前中、
その話が村に広がる。
「もう出たのか」
「まだ早いだろ」
「でも食べられる」
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昼前、
ユルンが焼き場から戻る。
「火に通したらどうだ」
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イセラが言う。
「柔らかくなる」
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オルナが少し持ってくる。
焼き場で軽く火にかける。
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再び味見。
「……違う」
ユルンが言う。
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グラドが頷く。
「少し甘い」
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ノルが笑う。
「さっきよりいい」
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イルロが言う。
「早いままでも、
使えますね」
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午後、
その実は少しずつ分けられる。
全部食べるわけではない。
だが、
少しずつ試す。
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夕方、橋の上。
ユルンが言う。
「まだ早いが、
悪くない」
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オルナが頷く。
「今しかない味だ」
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イセラが言う。
「色も今だけ」
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イルロは籠を見ながら呟く。
「……季節は、
途中のものも残しますね」
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セレン村の初夏は、
完成していないものさえ、
暮らしの中に取り入れていく。
熟す前の味。
少し足りない甘さ。
だが、
それもまた季節の一部。
明日はもう少し変わるだろう。
その変化を、
また少しずつ確かめる。
それで十分だった。




