影の長さ
朝、橋の下には印が一つだけ残っていた。
昨日よりもずっと少ない。
イルロはそれを見て、
静かに頷く。
「……これでいいですね」
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見回り役のノルが橋を渡る。
「今日は静かだな」
「ええ」
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オルナが畑から戻る。
「今日は当てない」
グラドが川を見ながら言う。
「見る」
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ユルンが袋を抱えて笑う。
「競わない日か」
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イセラが布を広げながら言う。
「影をそのまま使う」
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午前中、
誰も印を増やさない。
ただ、
影の動きを見ている。
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子どもたちも静かだ。
「どこまで行く?」
「昨日より長い?」
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イルロは橋の下に立ち、
影の端を見つめる。
「……今日は長いですね」
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ノルが言う。
「昨日より暑い」
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オルナが土を触る。
「乾きも早い」
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グラドが川を見て言う。
「水も軽い」
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昼前、
影はゆっくり伸びる。
昨日と同じ場所を越え、
さらに先へ。
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ユルンが言う。
「昨日より進んだな」
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イセラが布を持ちながら言う。
「日が高い」
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残っていた一つの印に、
影が触れる。
そして、
すぐに通り過ぎる。
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誰も声を上げない。
ただ、
それを見る。
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「……足りないな」
オルナが言う。
「何がだ」
ノルが聞く。
「昨日の印では足りない」
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イルロが言う。
「季節が進んだ分ですね」
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午後、
影はさらに伸びる。
橋の下を抜け、
外へ出る。
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子どもたちが言う。
「こんなに長いの?」
「昨日よりずっと!」
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夕方、橋の上。
ユルンが言う。
「当てるより分かるな」
オルナが頷く。
「長さで見える」
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グラドが川を見ながら言う。
「水の量と同じだ」
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イルロは影を見て呟く。
「……影は、
季節の長さを見せますね」
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セレン村の初夏は、
遊びから一歩進み、
変化そのものを受け取る時間へと
静かに移っていた。
影は動く。
そして伸びる。
その長さの違いが、
日々の違いになる。
明日はまた、
違う長さになるだろう。
それを見て、
少し話す。
それで十分だった。




