影が動かされた日
朝、橋の影はいつもより少しずれていた。
イルロは木片を置こうとして、手を止める。
「……昨日と違いますね」
*****
見回り役のノルが橋を渡る。
「動いたか?」
「動いたというより、
ずれています」
*****
オルナが畑の方から来る。
「昨日はあそこだったな」
指した先に、
影はない。
*****
グラドが橋の下から言う。
「早いな、今日は」
「いや、違う」
ノルが首を振る。
「位置がおかしい」
*****
ユルンが袋を抱えて現れる。
「誰か動かしたんじゃないか」
「影をか?」
オルナが眉をひそめる。
*****
イセラが布を持って言う。
「ありえない」
「だが、昨日と違う」
グラドが言う。
*****
午前中、
村の中で妙な話が広がる。
「影がずれている」
「いつもと違う」
「早すぎる」
*****
子どもたちが走ってくる。
「動かした!」
「誰かが動かした!」
ノルが止める。
「誰だ」
*****
子どもたちは口々に言う。
「石を置いた!」
「昨日の場所に!」
*****
全員が橋の下を見る。
そこに、
小さな石が並んでいる。
*****
オルナが言う。
「目印か」
グラドが笑う。
「昨日の影を残したな」
*****
イルロが石を一つ拾う。
「影を動かしたのではなく、
影の“跡”を残したんですね」
*****
ユルンが笑う。
「それで勘違いしたのか」
*****
イセラが布を広げながら言う。
「昨日の場所に固まってた」
*****
ノルが頷く。
「見ていなかったな」
*****
昼前、
皆で石を少しずらす。
「残すか?」
「残さない」
「混ざる」
*****
昼、
橋の下で人は自然に散る。
石に縛られない。
影に合わせて動く。
*****
子どもたちが笑う。
「動いてる!」
「影のほうが強い!」
*****
夕方、橋の上。
ユルンが言う。
「影は動く。
石は動かない」
オルナが答える。
「どっちを見るかだな」
*****
グラドが川を見ながら言う。
「水も同じだ」
*****
イルロは石を一つ手に取り、
静かに呟く。
「……残すものと、
流すものを間違えないことですね」
*****
セレン村の初夏は、
便利な目印でさえ、
固めすぎると動きを止めることを
軽く教えていた。
影は今日も動く。
そして人も、
それに合わせて動く。
少し笑いながら。
それで十分だった。




