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村人の日々  作者: 昼の月
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影を巡る取り合い

朝、橋の影は細く、短かった。


イルロが木片を手に持ったまま立っていると、

後ろから声がした。


「今日は、早い者勝ちだな」


振り返ると、ユルンが笑っている。


*****


「何の話ですか」

イルロが聞く。


「影だ」


そこへオルナが割り込む。


「今日は暑い。

 いい場所は限られる」


*****


グラドも橋の下から顔を出す。


「昨日より動きも早い」


ノルが腕を組む。


「つまり――」


「場所取りだな」

ユルンが言う。


*****


イルロは少し考えてから、

静かに言った。


「……では、

 測りますか」


*****


午前中、

村の動きはいつも通り早い。


だが、

誰もがどこか急いでいる。


「昼前には行く」

「先に入る」

「今日は譲らん」


*****


昼前、

橋の下に最初に入ったのはユルンだった。


「ここだな」


ちょうど影の中心。


「早いな」

オルナがすぐ後ろに来る。


*****


グラドが影の端に立つ。


「ここも悪くない」


「いや、そこは動く」

ノルが言う。


*****


イセラが布を持って入ってくる。


「そこ、風が弱い」


ユルンが笑う。


「じゃあ代わるか?」


「いいえ、そこがいい」


*****


気づけば、

橋の下に人が詰まる。


少しだけ、近い。


*****


「……暑いな」

ユルンが言う。


「影はあるのに」

オルナが答える。


「集まりすぎだ」

グラドが言う。


*****


子どもたちもやってくる。


「入れない!」

「狭い!」


ノルが苦笑する。


「こうなるか」


*****


イルロは木片を持って、

少し離れた場所に立つ。


「こちらにも影があります」


*****


全員が一度そちらを見る。


ほんの少しずれた場所。


影はある。

だが、

誰も見ていなかった。


*****


ユルンが立ち上がる。


「……そっちのほうが涼しいな」


オルナも動く。


「広い」


*****


グラドが笑う。


「取り合う必要なかったな」


*****


イセラが布を広げる。


「分かれていい」


*****


気づけば、

人は自然に分かれていた。


影は一つではない。


*****


子どもたちが笑う。


「こっち空いてる!」

「広い!」


*****


昼の時間は、

昨日より静かに流れる。


誰も押し合わない。


*****


夕方、橋の上。


ユルンが言う。


「取り合いは無駄だったな」


オルナが頷く。


「見てなかっただけだ」


*****


ノルが橋の中央で言う。


「一つに集まると、

 狭くなる」


グラドが続ける。


「分けると広がる」


*****


イルロは木片を見ながら呟く。


「……影も、人も、

 一つとは限りませんね」


*****


セレン村の初夏は、

思い込みを少し外すだけで、

暮らしが広がることを

静かに教えていた。


影は足りていた。


ただ、

見ていなかっただけだった。


明日もまた、

誰かが少し違う場所を見るだろう。


それで十分だった。

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