影の目印
朝、橋の影はすでに細く伸びていた。
昨日よりも、動きが早い。
イルロはその先端を見て言う。
「……追うだけでは、
少し分かりにくいですね」
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見回り役のノルが橋を渡る。
「昨日は動いたな」
「ええ」
「今日はどうする」
「目印を置いてみます」
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畑番のオルナが近づく。
「目印?」
水路番のグラドも橋の下から顔を出す。
「影にか」
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イルロは工房から細い木片を持ってくる。
「ここです」
朝の影の端に、
軽く差し込む。
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ユルンが袋を抱えて言う。
「動いたらどうする」
「動いた分だけ、
分かります」
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イセラが布を広げながら言う。
「影の跡が見える」
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午前中、
影は少しずつ動く。
木片はその場に残る。
「離れたな」
ノルが言う。
「これだけ動く」
グラドが頷く。
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昼前、
橋の下に人が集まる。
昨日と同じように、
影に合わせて少しずつ動く。
だが今日は違う。
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オルナが振り返る。
「さっきはここだったな」
木片を見る。
「もうずれてる」
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ユルンが笑う。
「追いかけるより分かりやすい」
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イセラが布を持ちながら言う。
「影の動きが見える」
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昼、
橋の下での移動は少し落ち着く。
目印があることで、
位置がはっきりする。
「ここからここまでか」
「今日は広いな」
「風も違う」
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午後、
影が長くなり始める。
木片との距離が縮まる。
グラドが言う。
「戻ってくる」
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夕方、
橋の上に人が集まる。
ノルが木片を抜く。
「今日はここまでだな」
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ユルンが言う。
「残してもいいんじゃないか」
オルナが首を振る。
「毎日変わる」
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イルロは木片を手に取り、
静かに言う。
「……目印は、
置いても残さないほうがいいですね」
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セレン村の初夏は、
動きを止めるためではなく、
動きを知るために
小さな工夫を使っていた。
影は動く。
人も動く。
だが、
その動きが見えるだけで、
迷いは減る。
明日もまた、
影は同じように動くだろう。
そして人は、
少しだけ迷わず動ける。
それで十分だった。




