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村人の日々  作者: 昼の月
399/417

動く影に合わせる

朝、橋の影は昨日よりも早く動いていた。


川の上を滑るように流れ、

少しずつ短くなる。


イルロはその変化を見て言う。


「……止まりませんね」


*****


見回り役のノルが橋を渡る。


「影は動く」


「ええ」


「昨日の場所、

 昼まで持たないかもしれん」


*****


畑番のオルナが土を踏みながら言う。


「じゃあ、動くしかない」


水路番のグラドが頷く。


「影に合わせる」


*****


ユルンが袋を抱えてやってくる。


「影を追うのか」


イセラが布を持って言う。


「布も動かす」


*****


午前中、

村の動きはいつも通り早い。


だが、

視線は時々空や影へ向く。


*****


昼前、

橋の下に人が集まる。


昨日と同じ場所。


だが――


少しずれている。


*****


ノルが言う。


「もう動いたな」


グラドが影を指す。


「こっちだ」


*****


皆が少し移動する。


ほんの数歩。


それだけで、

涼しさが戻る。


*****


ユルンが笑う。


「動くだけで違う」


オルナが頷く。


「止まるより楽だ」


*****


イセラが布を広げ直す。


「影に入ると、

 色も落ち着く」


*****


昼、

橋の下では小さな移動が続く。


誰も大きく動かない。


だが、

影に合わせて少しずつ位置を変える。


*****


「こっちだな」

「もう少し」

「そこがいい」


言葉は短い。


だが、

皆同じものを見ている。


*****


午後、

影が長くなり始める。


自然と人は動きを止める。


もう追う必要はない。


*****


夕方、

橋の上に人が戻る。


風が通り、

光が柔らぐ。


*****


ユルンが言う。


「今日はよく動いたな」


オルナが答える。


「影に合わせただけだ」


*****


ノルが橋の中央で言う。


「決めないほうがいいな」


グラドが頷く。


「動けるようにしておく」


*****


イルロは橋の影を見ながら呟く。


「……夏は、

 止まらせませんね」


*****


セレン村の初夏は、

動くものに合わせて

人も少し動くことで、

無理のない形を作っていた。


固定しない。

追いかける。

そして、また止まる。


その繰り返しが、

暮らしを軽くしていく。


明日も影は動く。


それに合わせて、

人もまた少し動くだろう。


それで十分だった。

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