影の場所
朝、橋の影はまだ長かった。
川の上に細く伸び、
揺れながら形を変えている。
イルロはその影を見て、
静かに言った。
「……今日は短くなりそうですね」
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見回り役のノルが橋を渡る。
「昼はきついな」
「光が強いです」
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畑番のオルナが土を踏みながら言う。
「朝のうちに終わらせる」
水路番のグラドが頷く。
「昼は動かない」
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ユルンが袋を抱えてやってくる。
「焼き場も朝で終わりだ」
イセラが干し場から言う。
「布も午前で終える」
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午前中、
村の動きは早い。
だが、
皆どこか同じことを考えている。
「昼をどうする」
ノルが言う。
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工房の前に人が集まる。
オルナが言う。
「橋の下はどうだ」
グラドが川を見て答える。
「風はある」
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ユルンが笑う。
「影もある」
イセラが頷く。
「光が来ない」
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イルロは静かに言う。
「場所を決めますか」
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昼前、
何人かが橋の下に入る。
涼しい。
風が通る。
川の音が近い。
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ノルが言う。
「ここだな」
オルナが頷く。
「昼はここに来る」
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ユルンが座り込む。
「悪くない」
グラドが水に手を入れる。
「水もある」
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イセラが布を少し広げる。
「影の中でも乾く」
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昼、
村の通りは静かだ。
だが、
橋の下には人がいる。
話し声がゆっくり流れる。
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「ここ、いいな」
「風が通る」
「音も落ち着く」
誰も長く話さない。
だが、
離れもしない。
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午後、
影が動き始める。
少しずつ、
場所が変わる。
ノルが立ち上がる。
「動くか」
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夕方、
いつものように橋の上に人が集まる。
昼とは違う空気。
明るく、
風が軽い。
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ユルンが言う。
「昼は下、
夕方は上だな」
オルナが笑う。
「分かれてきた」
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イルロは橋の影を見ながら呟く。
「……夏は、
場所を分けますね」
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セレン村の初夏は、
時間によって居場所を変えながら、
無理なく過ごす形を作っていた。
朝は動き、
昼は影に入り、
夕方は橋に集まる。
それは誰も決めていない。
だが、
自然にそうなっていく。
明日もまた、
影を探すだろう。
それで十分だった。




