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村人の日々  作者: 昼の月
397/425

残っていくもの

朝、遠くの音は変わらず続いていた。


コツ、コツ、コツ。


一定で、揺れない。


イルロは工房の前でその音を聞き、

何も言わずに頷いた。


*****


橋の上には、

いつものように桶が置かれている。


水は多すぎず、少なすぎない。


誰が置いたのかは分からない。


*****


見回り役のノルが橋を渡る。


「今日もあるな」


「ありますね」


ノルは手を入れる。


「ちょうどいい」


*****


水路番のグラドが川を見ながら言う。


「流れも同じだ」


畑番のオルナが続ける。


「土も同じだ」


*****


ユルンが袋を抱えて橋を渡る。


「焼きも同じだ」


イセラが布を広げながら言う。


「色も同じ」


*****


だが、

“同じ”は昨日と同じではない。


少しずつ違い、

少しずつ整っている。


*****


午前中、

村の音はそれぞれ違う。


広げる者。

詰める者。

崩す者。


そして、任せる者。


*****


イルロは木を削る。


シャッ、――シャッ、シャッ。


昨日とは違う間。


だが、迷いはない。


*****


昼前、

工房の前に人が集まる。


「今日はどうだ」

ノルが聞く。


オルナが言う。


「広げた」


グラドが言う。


「詰めた」


*****


ユルンが笑う。


「崩した」


イセラが静かに言う。


「任せた」


*****


イルロが頷く。


「残っていますね」


「何がだ」

ノルが聞く。


「昨日の選び方です」


*****


午後、

村は静かに動く。


風が通り、

橋が揺れ、

水が減る。


すべてが、

少しずつ変わりながら続いている。


*****


夕方、

橋に人が集まる。


子どもたちの声、

大人の声、

水の音。


すべてが混ざる。


*****


ノルが言う。


「増えたな」


グラドが頷く。


「残ってるからな」


*****


オルナが橋を踏む。


「支えも馴染んだ」


ユルンが笑う。


「水も続いてる」


*****


イセラが布を畳む。


「場所もできた」


*****


遠くの音は、

変わらず続いている。


コツ、コツ、コツ。


*****


イルロは橋の欄に手を置き、

静かに呟いた。


「……残るものは、

 大きなことではありませんね」


*****


橋に入れた一本の支え。

夕方に置かれた水。

揺れを話した日。

外した間。

外から来た音。


どれも小さい。


だが、

どれも残っている。


*****


セレン村の初夏は、

積み重ねた小さなことを、

そのまま暮らしに変えていた。


何も変わらないようで、

確かに深くなっている。


それを確かめる必要もない。


ただ、

続いている。


それで十分だった。

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