影の一番いい場所
朝、橋の下に残っていた石は少しだけ減っていた。
全部ではない。
だが、並びは崩れている。
イルロはそれを見て言う。
「……混ざりましたね」
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見回り役のノルが橋を渡る。
「残す者もいれば、
動かす者もいる」
「ええ」
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オルナが畑から戻る。
「今日は暑くなる」
グラドが川を見ながら言う。
「影は争いになるな」
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ユルンが笑う。
「昨日は混ざったが、
今日はどうだ」
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午前中、
村の動きはいつもより少し速い。
誰も言わないが、
皆、同じことを考えている。
「早めに行くか」
「昼前に入る」
「今日は譲らない」
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昼前、
橋の下に最初に入ったのはオルナだった。
「ここだ」
影の中心。
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すぐにグラドが来る。
「そこか」
「いいぞ」
オルナが言う。
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ユルンがやってくる。
「早いな」
「今日は早い」
オルナが答える。
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イセラも入る。
だが、少し離れた場所に立つ。
「ここでいい」
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ノルが全体を見る。
「……詰まってるな」
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子どもたちが走ってくる。
「ここがいい!」
「そこは暑い!」
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少しだけ、
声が重なる。
「そこは昨日の場所だ」
「今日は違う」
「動いてる」
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イルロは少し離れた場所に立つ。
そして静かに言う。
「……今日は、
一番いい場所を決めてみますか」
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「決める?」
ユルンが笑う。
「どうやってだ」
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イルロは木片を三つ置く。
「ここ、ここ、ここ」
影の中に、
少しずつ違う場所。
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「順番に移動します」
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最初の場所。
「涼しい」
「だが風が弱い」
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次の場所。
「風がある」
「だが日が当たる」
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三つ目の場所。
「ちょうどいい」
「だが狭い」
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全員が一度、考える。
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オルナが言う。
「……一番はないな」
グラドが頷く。
「全部少しずつ違う」
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ユルンが笑う。
「選べないなら、
分かれるしかない」
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イセラが静かに言う。
「それでいい」
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気づけば、
人は自然に散っている。
影の中に、
いくつもの場所ができる。
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子どもたちも分かれる。
「こっち!」
「いやこっち!」
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昼の時間は、
昨日より広くなる。
誰も押さない。
誰も取り合わない。
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夕方、橋の上。
ノルが言う。
「一番を決めようとしたな」
オルナが笑う。
「決まらなかった」
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グラドが川を見ながら言う。
「それでよかった」
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イルロは橋の影を見て呟く。
「……一つに決めないほうが、
広く使えますね」
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セレン村の初夏は、
競うことすら、
広がるきっかけに変えていく。
一番を決めない。
だから、
場所は増える。
明日もまた、
影は動き、
人は分かれる。
それで十分だった。




