合わせるということ
朝、遠くから音が聞こえていた。
コツ、コツ、コツ。
昨日よりもはっきりしている。
イルロは工房の戸口で立ち止まる。
「……朝でも分かりますね」
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見回り役のノルが橋を渡りながら言う。
「近く感じるな」
「風の向きですか」
「それもある」
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水路番のグラドが川を見ながら言う。
「水の音と混ざらない」
「一定だからな」
オルナが応じる。
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ユルンが袋を抱えてやってくる。
「昨日より聞きやすい」
イセラが布を広げながら言う。
「音が揃ってる」
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午前中、
村の中で小さな変化が起きる。
畑で鍬を入れる音。
水門を開ける音。
布を叩く音。
それぞれが、
少しだけ揃っている。
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オルナが言う。
「鍬の間を、
合わせてみた」
グラドが頷く。
「水門も、
ゆっくり一定にした」
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ユルンが笑う。
「焼き場もだ」
「火の強さか?」
ノルが聞く。
「入れ方を揃えた」
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イルロは作業台で木を削る。
削る音も、
自然と一定になる。
シャッ、シャッ、シャッ。
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昼前、
工房の前に人が集まる。
「今日は静かだな」
ノルが言う。
「音が揃ってるからだ」
グラドが答える。
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イセラが布を畳みながら言う。
「揃うと、
疲れにくい」
ユルンが頷く。
「分かる」
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午後、
風が少し強くなる。
だが、
音は崩れない。
遠くの音も、
近くの音も、
続いている。
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夕方、
橋に人が集まる。
水に手を入れながら、
皆が少しだけ静かに話す。
「今日は違うな」
「落ち着いてる」
「整ってる」
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ノルが言う。
「合わせると、
余分な音が減る」
オルナが答える。
「必要な音だけ残る」
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遠くから、
あの音が届く。
コツ、コツ、コツ。
橋の揺れも、
川の流れも、
その中に収まっていく。
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イルロはその音を聞きながら呟く。
「……合わせることで、
見えないものが整いますね」
*****
セレン村の初夏は、
音を通して、
人の動きまで整え始めていた。
誰も指示していない。
誰も決めていない。
だが、
自然に揃っていく。
明日もまた、
音は続くだろう。
そして村も、
少しずつそれに合わせていく。




