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村人の日々  作者: 昼の月
395/409

少し外す

朝、遠くの音は変わらず続いていた。


コツ、コツ、コツ。


一定で、揺れない。


イルロは工房の前で立ち止まり、

その音を一度受け取る。


「……揃っていますね」


*****


見回り役のノルが橋を渡りながら言う。


「昨日より揃ってる」


「揃いすぎているかもしれません」


ノルは少しだけ足を止めた。


*****


畑番のオルナが畑から声をかける。


「鍬を入れる間、

 昨日と同じにした」


水路番のグラドが続ける。


「水門も同じだ」


*****


ユルンが袋を抱えて言う。


「焼き場もだ」


イセラが布を広げながら言う。


「布も揃えた」


*****


午前中、

村の音はきれいに揃っている。


だが――


どこか、少しだけ詰まっている。


*****


イルロは作業台で手を止める。


「……少しだけ、

 外しましょう」


*****


「外す?」

ノルが聞く。


「ええ。

 ほんの少しだけ」


*****


オルナが鍬を一度止める。


「間をずらすか」


グラドが水門の手を緩める。


「少し遅らせる」


*****


ユルンが笑う。


「焼きも一拍外す」


イセラが布を揺らす。


「風に任せる」


*****


音が変わる。


コツ、コツ、コツ――


に、

少しだけ隙間が生まれる。


*****


午前の終わり、

工房の前に人が集まる。


「どうだ」

ノルが言う。


オルナが答える。


「楽だ」


*****


グラドが頷く。


「流れが戻った」


ユルンが笑う。


「呼吸がある」


*****


イセラが言う。


「揃いすぎると、

 息が詰まる」


*****


午後、

遠くの音は変わらない。


コツ、コツ、コツ。


だが、

村の音は少し揺れている。


*****


夕方、

橋に人が集まる。


水に手を入れ、

ゆっくり話す。


「今日は軽いな」

「昨日よりいい」

「少し外しただけだ」


*****


ノルが橋の中央で言う。


「合わせて、

 外すか」


オルナが頷く。


「そのほうが続く」


*****


イルロは遠くの音を聞きながら呟く。


「……一定は基準で、

 揺れが暮らしですね」


*****


セレン村の初夏は、

揃えることと、

少し外すことを

自然に使い分け始めていた。


音は続く。

だが、

人はそのままにはしない。


合わせて、

外して、

少し残す。


それが、この村の形だった。


明日もまた、

音は続く。


そして村は、

その中で自由に揺れる。

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