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村人の日々  作者: 昼の月
393/409

音のもとへ

朝、空気はすでに温かかった。


だが、

皆の意識は同じところに向いている。


「行くか」


見回り役のノルが言う。


「行きますか」

イルロが頷く。


*****


水路番のグラドが橋の下から顔を出す。


「遠くはない」


「丘の手前だな」

オルナが言う。


ユルンが袋を肩にかける。


「歩ける距離だ」


*****


イセラも布をまとめて近づく。


「昼までに戻る」


「昼は避ける」

ノルが言う。


*****


五人は橋を渡る。


朝の光が少し強い。


村の外へ出る道は、

まだ涼しさが残っている。


*****


歩きながら話が続く。


「一定の音だった」

「止まらなかった」

「人の手だな」


イルロが言う。


「間が正確でした」


*****


やがて、

丘の手前で音がはっきりする。


コツ、コツ、コツ。


止まらない。


*****


木陰の中に一人の男がいた。


木材を叩いている。


一定の間隔で、

何度も。


*****


ノルが声をかける。


「何をしている」


男は手を止めずに答える。


「整えている」


*****


グラドが近づく。


「夜もやっていたな」


「夜のほうが分かる」


「何がだ」


「音だ」


*****


イルロが一歩前に出る。


「刻んでいるのは、

 溝ですね」


男は初めて手を止める。


「分かるか」


「はい。

 合わせています」


*****


オルナが木材を覗く。


「これ、何に使う」


「水を流す」


グラドが頷く。


「溝か」


*****


ユルンが笑う。


「橋の次は水だな」


男は小さく息を吐く。


「流れを整えたい」


*****


イセラが言う。


「夜のほうが分かるの?」


「音でズレが分かる」


男は木材を軽く叩く。


コツ。


*****


イルロが静かに言う。


「……一定ですね」


「一定にしないと、

 水が乱れる」


*****


しばらく、

皆で音を聞く。


コツ、コツ、コツ。


規則的で、

揺れない。


*****


ノルが言う。


「手伝うか」


男は首を振る。


「一人で合わせる」


グラドが頷く。


「それがいい」


*****


帰り道、

皆は少し静かだった。


ユルンが言う。


「音の正体は、

 音そのものだったな」


*****


橋に戻ると、

いつもの空気がある。


だが、

少しだけ違う。


オルナが言う。


「夜の音、

 意味があったな」


*****


夕方、

橋に人が集まる。


誰かが水に手を入れる。


誰かが川を見る。


そして――


遠くから、

また音が聞こえる。


コツ、コツ、コツ。


*****


イルロはその音を聞きながら呟く。


「……村の外でも、

 整えている人がいますね」


セレン村の初夏は、

外の営みもまた、

村の中に響かせていた。


橋があり、

水があり、

音がある。


すべてが、

どこかでつながっている。


明日もまた、

あの音は続くだろう。


それを、

もう誰も不思議には思わなかった。

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