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村人の日々  作者: 昼の月
367/409

軽いまま、深く

朝、工房の前に最初に立ったのは見回り役のノルだった。


「イルロ、今日は少し長く話せるか」


「ええ。

 手は空いています」


ノルは腕を組み、通りを一度見渡してから言った。


「軽い日が続いてるだろう。

 それでな、

 少し踏み込んだことを考えてる」


*****


そこへ水路番のグラドが加わる。


「踏み込む?」


「橋の補強だ」

ノルが言う。

「急ぎじゃない。

 だが、今ならできる」


イルロは頷いた。


「重くないうちに、

 少し手を入れる」


「そうだ」

グラドが応じる。

「水の流れも安定してる」


*****


畑番のオルナもやって来る。


「橋か。

 畑からの荷も増えてるしな」


「増やすか?」

グラドが笑う。


「いや、

 増やさない。

 ただ、支えを足す」


イルロは作業台に手を置いた。


「軽いまま、

 深くする話ですね」


*****


パン焼きのユルンが袋を抱えて加わる。


「橋がしっかりしたら、

 焼き場までの道も楽になる」


「焼きすぎるなよ」

オルナが冗談めかして言う。


「半分だけ覚えてる」

ユルンが笑う。


*****


午前中、工房の前では具体的な話が交わされる。


「木材はどれを使う」

「水の高さはどうする」

「荷車の幅は足りるか」


誰も急がない。

だが、話は具体的だ。


染め物のイセラも加わる。


「橋が整えば、

 染めた布も運びやすい」


「色は増やすか?」

グラドが聞く。


「増やさない。

 でも、

 重ねるかもしれない」


*****


昼前、

イルロは棚から木材を一本取り出した。


「これなら、

 軽くて強い」


ノルが木目を確かめる。


「深くするが、

 重くしない」


グラドが頷く。


「今の村に合ってる」


*****


昼過ぎ、それぞれが持ち場へ戻る。


「夕方、また寄る」

「橋の寸法、測ってくる」

「水の流れ、確認する」


声が自然に交わされる。


*****


夕方、再び工房の前に集まる。


「測った」

「流れは安定」

「畑からの道も問題ない」


イルロは静かに言う。


「では、明日から少しずつ」


「少しずつだな」

ノルが応じる。


*****


人々が散り、

工房の前に穏やかな静けさが戻る。


イルロは木材を棚に戻し、

戸を半分閉めた。


「……春は、

 軽いまま、

 深くさせますね」


急がず、

無理せず、

だが確実に。


セレン村の春は、

軽やかな対話の上に、

少しだけ踏み込む勇気を

育て始めていた。


明日は橋の話が、

さらに形になる。


それもまた、

混ぜて、戻して、少し残した

春の続きだった。

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