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村人の日々  作者: 昼の月
368/409

測りながら、笑う

朝、工房の前にはすでに木材が二本置かれていた。


「早いですね」

イルロが言うと、


「考える前に持ってきた」

見回り役のノルが答える。


その横で、水路番のグラドが木の端を持ち上げる。


「軽いな」


「軽くないと困る」

ノルが笑う。

「深くするが、重くしないんだろ」


*****


畑番のオルナが縄を持って現れる。


「寸法、もう一度測るか」


「昨日測っただろ」

グラドが言う。


「昨日は“話しながら”だ。

 今日は“作るつもりで”だ」


イルロは頷いた。


「測る理由が変わると、

 数字も変わります」


*****


橋のたもとに移動すると、

パン焼きのユルンが通りがかる。


「お、始めてるな」


「まだ測ってるだけだ」

ノルが言う。


「測るのが一番長い」

ユルンは袋を肩にかけ直す。

「焼く前もそうだ」


「焦ると固くなる」

オルナが笑う。


*****


グラドが水の流れを見ながら言う。


「支えはここだな。

 流れを邪魔しない位置」


「畑からの荷はこの幅だ」

オルナが縄を引く。


「重さは分散させる」

ノルが木を持ち直す。


イルロは全体を見渡し、

静かに言う。


「足すのは一本でいい」


「一本か?」

グラドが聞く。


「ええ。

 二本にすると、

 重くなる」


*****


昼前、染め物のイセラが布を抱えてやってくる。


「橋、広げるの?」


「広げない」

ノルが答える。


「支えを足すだけだ」


イセラは川面を見て頷いた。


「それなら、

 景色は変わらない」


「景色は変えない」

イルロが言う。

「通りだけ、整える」


*****


昼過ぎ、

皆で木材を仮に当ててみる。


「少し高い」

「いや、これでいい」

「荷車は通る」


意見は細かく交わされるが、

声は穏やかだ。


ユルンが戻ってきて言う。


「焼き場も似てるな。

 火は足すが、

 煙は増やさない」


「混ぜて、戻して、少し残す」

オルナが笑う。


「橋も同じだ」

グラドが応じる。


*****


夕方、

支えの位置は決まった。


まだ固定はしていない。

だが、

皆の足取りは軽い。


「今日はここまでだな」

ノルが言う。


「焦らない」

イルロが答える。


「軽いまま進める」


*****


人々が散ったあと、

イルロは橋のたもとに残った。


川は変わらず流れている。

景色も、昨日と同じだ。


だが、

明日、一本の支えが加わる。


「……春は、

 測りながら進ませますね」


一気に変えない。

だが、

止めもしない。


セレン村の春は、

話し、測り、笑いながら、

少しだけ未来を整えていく。


橋はまだ変わっていない。

だが、

村の中ではすでに

次の一歩が共有されていた。


明日、その一本が

形になる。

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