閑話 メルのプレゼント
クリスマス用の話にしましたが……。
「嗚呼、もうダメです……。ベガちゃん」
「しっかりするのじゃ、メル!」
メルの手には赤い液体が付いており、服と頬がそれらによって汚れている。
辺りを見渡せばそこは戦場でありせわしなく働く兵たち。
業火がうなりを上げ、汗を垂らしながら一生懸命にもがく彼らは時間に追われながら、さらなる任務に耐える。
誰もが自分のことで精一杯であり、メルを見ている余裕などない。誰よりも速く駆けるレオジーナも重圧に押しつぶされそうになっているスレインも……。
そして、良い奴から倒れていくのは当然でありさっきまでいたスコットはもう既に……動かなくなっていた。
「わ、私の代わりにベガちゃん……。後は……頼みましたよ……ガク」
力尽きたメルは安らかに眠った。
フルフルと抱いたメルを震わせるベガ。
それは余りの理不尽に対しての怒りとメルが背負った業のせい。
たった一人が抜けるだけでも負担はかなり増大し、それだけ余裕がなくなる。流石のベガでもこの状況は不味く、冷や汗をかくほど。
辺り一面に飛び散り、散らかった部屋を見て――。
「何故じゃ? 高々ケチャップをかける作業だけで……どうしてこうなる?!」
厨房にいる兵士たちは今まさに、空腹の子供と戦っているのだった。
「皆さん。子どもたちに料理をプレゼントしましょう!」
良く晴れた空の下。
外で食事をするのは偶にはと言う気まぐれとメルの提案によって。
中庭で布を広げて食べているメンバーはメルを含めて、ベガ、レオジーナ、スコット。
加えて呼ばれたシフォンとスコット。
食事は質素なもので肉の入ったスープとパンだけ。
「なるほど……クリスマスイベントじゃな」
「? どうしました? ベガちゃん」
「いや、なんでもない」
メタ的な発言をしたベガであったが、突っ込むものはいなかった。
ベガの発言はスルーされる形でメルは話を続ける。
「戦争で両親や家を失った子たちが沢山います。その子たちの為に何かしてあげたいんです……」
「なるほどのぅ」
「分かりました」
「流石です。メルちゃん」
三者が答え、レオジーナはメルの優しさを褒めスレインは騎士として当然の義務だと了解した。
コクリと無言で頷くのはスコットで彼らと反対に――。
「その気持ちは分かったよ。でも、食料はどうするんだい?」
「……あ」
「周辺にいる子どもたちだけにしても……とてもではないけど、この監獄にある食料だけでは足りないよ」
まあ、現実はそうである。慈善活動としては良くある活動なのだが如何せん今は戦争中。
備蓄している食料も少なく、かつ飢えている子どもは平時に比べ遥かに増えている。
「で、でも……」
「「「……」」」
反論しようとしているメルとそれを見つめるレオジーナ、スレイン、スコットはどうにかできないかと思考する。一生懸命に考えるメルに助け舟を出したくなるのはメルをそれだけ可愛がっているからであり自分たちもその気持ち――子どもたちを救いたい――という理由も少なからず持っているから。
それでもこのままでは話は無しになってしまうので。
「かかか、食料の事ならば問題は無いかもしれぬぞ?」
「え?!」
「……」
視線は一気にベガへと向けられ、その発言に注目がいく。
驚きの表情をする者が大半であるが、その中で一人睨みつけるような視線をベガに向けたものがいる。
「子どもは苦手か? シフォンよ」
「別にそういうわけではないよ。……ベガちゃん」
表情を元に戻すシフォンに対して扇子で口元を隠しているベガは笑う。
それはシフォンがなぜメルの提案を反論するのか知っているからであり。
「シフォンの危惧も分かるぞ? 今は戦時であり“こんなこと”をしている余裕が無いと思っているからじゃろう?」
「……」
「分かるぞ。その気持ちは、しかし我はメルに就く身じゃ。お主の言葉を真っ向から叩き潰してやろう」
ゆらりと笑うベガはそのままチョンチョンとメルの服を引っ張り――。
「というわけで、メルの出番じゃ」
「え、えーーーー!」
驚くメルはそのまま立ち上がってしまう。
反射的な行動であったが、そのせいで発言権を得てしまったのだ。
怒っているような視線を向けるシフォンにと目が合い、ゴクリとつばを飲み込んだメルではあったが。
「わ、私は戦時中だからこそ、やる必要があると思います」
「……なんで?」
「シ、シフォンさんは……人を殺したこと……ありますよね……?」
「……」
沈黙が雄弁に答えを言っていた。
何人殺したのか?
数えきれないほど。
どうやって殺したのか?
魔法によって、魔術によって。
なぜ殺したのか?
……。
「私は“直接”、人を殺したことがありません。だから……皆さんの気持ちは分かりません。ですけど」
サラリと頬を風が流れ、メルの髪が流れる。
力強い瞳が木と空を背景にシフォンを見つめた。
「こんな時だから、こんな時代だから、私は――人を殺す理由を確認したいのです」
「……」
しばらく見つめ合う二人は一体幾つの言葉交わしたのだろう。
目は口程に物を言う。たった数十秒間の沈黙と意思の確認は――。
「はあ、分かったよ。ボクの負けだよ」
「あ、ありがとうございます!」
ぺこりと頭を下げるメルに対して疲れたシフォンはため息をつく。
完全に場の流れはメルにあり、加えて真剣なメルの言葉を遮れるものなどこの場にいない。
こうなったメルを止められないのは勿論、シフォンが一番理解していることであり。
そして。
「ズルいなぁ」
「かかか、我はチーターじゃぞ? むしろそれは誉め言葉じゃよ」
ベガの発する言葉よりもメルの情が効果的なのは誰もが理解していること。
事実、シフォンの弱点はメルに甘いことであった。
「嗚呼、ズルい。本当にズルい」
扇子で口を隠し、目を細めて笑うベガに対してシフォンは諦めを感じたのだった。
季節感がやばい。
サービス回も兼ねています。




