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英雄とは

これでこの章は終わりです。

遅くなってすいません。

 その者は一度世界を否定した。

 過ぎた力が、財力が、人生を狂わせその思考に至ったのだ。

 友と呼べる存在も頼ることもできる存在もいないまま平和な世界を生きた。


 嗚呼、この世界は偽善と無関心で溢れている。


 親から引き継いだ会社を守りながら秘書と部下を引き連れる。

 弱さを見せず、間違えを見せず。

 その者はただ先頭を歩き他者を導いてきた。

 孤独にただ前を見つめるその者の隣に立つ者はいない。

 だからなのだろう。

 もう一人の自分を仮想空間に作ったのは。


 自分にはできなかったこと求めよう。友を作り仲間を作り思う存分、世界を楽しもう。


 英雄とは孤独であり、誰も寄せ付けない強さを持つ者という解釈もできる。

 確かにその者は英雄たり得る資格を持っていたのかもしれない。

 けれどもそれは平和であるこの世で証明ができないことであった。

 自分は英雄であるか、否か。

 それは正しく、平和が崩れた時に分かることなのだ。




「さあ、ベガちゃん! 私と共にこの英雄譚を紡ぎましょう!」


 金髪は風になびき、虚ろな目のベガはメルを見上げる。

 眩しく尊いメルの光にノイズは鬱陶しく乱れ、メルを否定するように荒立つが。


「ベガちゃんがいくら否定しても私はベガちゃんを肯定します。その力には屈しない。そのチートには屈しない。だってそれが英雄姫だから!」


 ビクリとノイズは揺れた。

 それが心地よくて初めての言葉だから。力に屈しない、真っ直ぐに自分を見つめてくる言葉は自然とベガの元へ届く。

 ノイズは焦りながら命令する。

 影たちにメルを殺せと。

 ベガが目覚める前にこの者を殺せと。

 だが。


『……っ!』


 動かない。

 ジャンヌは、独眼の竜は、影たちは動けないでいた。

 命令しているはずだ。だからこそ理解できる。

 ノイズに抵抗してベガも動き出していることが。

 ノイズは苦しみながらもこの場から、メルから逃げようとしていた。

 けれどもその心は、“ベガ”は逃げることを許さなかった。


「今やっと、私にとっての英雄が見えました」

『……』

「皆と共に歩み夢を実現する者。それが私にとっての英雄です」


 あやふやなままに英雄へと祭り上げられたメルは今やっと、英雄について理解した。それは人によって異なるかもしれない。人によってそれは否定するものかも知れない。だけど、メルの描く英雄とはそれなのだ。

 

 不可能を可能にする。皆が描く夢を現実に変える。

 そう言った力をメルは持っている。


 だから、ベガちゃんを救ってこの戦争を終わらせます。

 小さな声で呟いた言葉。

 ベガに聴こえたかどうかは分からないが、ノイズが動揺しているのが分かる。


 メルはそっと馬から下り、ベガの元へ近づいた。

 影たちは主に寄り添いメルを迎えるように頭を垂れ、ひび割れた空間も今は静まり返る。


 この術はメルにとっても初めてであり謎の多い術であった。

 何一つ分からないメルはそれでもやるしかなく。

 その上で一番参考にしたのは建国紀であった。


「ベガちゃん……」


 目をつぶりそっと抱きしめる。

 建国紀にはそう書いてあった。ここガルマン廃城は初代王とその妃となる女性が奇跡を起こしたことで有名な場所。


 命を落とした王にそっと口づけをする。


 物語としてはありきたりで古典的なもの。

 特別なことは無く、もしかした嘘かも知れない可能性を――メルは信じた。

 理屈も無く、理由も無く。それがロマンチックでありメルが知っている唯一の方法だから。

 ただそれが起きると一身に信じて。


 ――目を開け唇をそっと離す。

 ジリジリとノイズが走り、見知った顔からノイズが消えた。

 頬についた涙も今は無視する。


「『……腐乱臭がして』酷い物じゃ」

「ええ」

「ムードも景色も『酷いものじゃな』」

「そうですね。でもこれが現実です」

『かかか』

 

 所詮は物語であり、現実とは違うことも多々ある。

 現実とはそういうものであり、都合よくないもの。

 ロマンチックだけではできていない。


 でも、奇跡は起きる。


「奇跡……おきましたね」

「メルは英雄姫じゃぞ? それくらいできて当然じゃろ?」


 クスリと笑い、英雄譚を称えた。それに応えるのは真っ直ぐな笑顔と黄金のメルの瞳だ。


 扇子で隠し赤くなった頬を隠す。

 それは丁度、夜が明けて新しい日の出が登った時だった。

 ノイズは消え去り空間のひび割れは徐々に小さくなる。

 背景は崩れ去った廃城と足元に小さく咲く野花。

 ベガの耳と頬が紅みかかったのは日の出のせいか、それとも別の要因であったのかは定かではない。

 正しく、読者の想像に任せようと思う。




「親父……」

「アレク……」


 満身創痍のアガレスは足を引き摺りながら門をくぐった。

 後に続くのは彼の騎士団とその兵士たち。

 そして。


「……なるほど、俺たちは負けたのか」

「……」


 登場するのはベガを含めたメルの騎士団。

 武器を取り上げられ、傷跡残る彼らを捕縛していないのはこれ以上の抵抗は無意味だから。

 出迎えるアレクとソフィアの横から一人の――赤髪の男が出る。


「よう、ベガ。元気か?」

「元気じゃよ。お主こそ、無理な行軍で幾分か元気がなさそうに見えるが?」

「ははは、確かに大分早く着いたがな」


 戦闘自体はアガレスの騎士団が出払っていたので無かったようだが。

 それでも暴動や反対する者たちを抑えているのはひとえにリングウッドの手腕が大きいだろう。

 状況に対して素早い行動と的確な判断はリングウッドが将として相応しい器を持っていることを示し、部下たちもまたそれを信頼している。

 騎士としては乱暴で強引なところもあり、どちらかと言うと冒険者としての方がしっくりとくる彼ではある。

 だけどそこから、メルとは違う英雄を見たのは確かだ。


「森の騒ぎは大丈夫か?」

「心配には及ばんよ」

「ふん。まあいい」


 疑惑の目がベガに向けられたがリングウッドはすぐにそれを隠した。

 全ては知らないが、何が起こったのかは知っているようだ。

 リングウッドにとってそれで十分ではあったのだろう。これ以上の追求は無かった。


「っぐ」

「親父!!」


 この中で一番傷が酷いのはアガレスだろう。

 結構な深手でメルの術を持っても完治するには至らなかった。

 それでも我慢してここまでたどり着いたのは家族の元に帰りたいと言う一心のお陰だ。

 申し訳なさそうに必死に頑張ったであろうメルであるが。


「いや、これでいいんだ」

「?」

「親父は無敵じゃない。誰だって怪我をするし死ぬことだってある。……それが戦争で俺が憧れていたもの」


 チラリと和服を着飾る少女を見る。

 多分、もうアガレスは剣を振ることが出来ないだろう。

 真面に戦うことが出来なくなった父を敗北した父をベガと出会う前の自分は認められなかっただろう。

 だが今は違う。


「おかえり」

「……ただいま」


 肩で支えるアレクにアガレスは子の成長を思った。

 いつの間に大きくなったのだろう。

 いつの間に父を支えることが出来るようになったのだろう。

 不思議そうに見つめるアガレスに照れを見せたのはアレク。


「な、なんだよ」

「……なんでもない。ただ――ああそうだな」


 今度見に行こうと思った。

 いつぶりか思い出せないがそれでも色あせない思い出の場所。

 自分も好きなソルムードを一望できるあの朝日が顔を出すところ。

 何せ休暇は十分にある。

 家族と久しぶりに朝日を見に行った。


「おはよう……を世界に」




「さて、メルさんよ」

「な、何でしょうか?」


 リングウッドが馴れ馴れしくメルを呼ぶ。

 いきなりのことで驚いた反応を示すメルとからかいが成功し少しうれしそうにするリングウッド。

 ここにいるのはメルとベガを含めた騎士団と魔術師シフォンとリングウッド率いる彼の騎士団だけ。

 極秘というわけではないが、早急に伝えたいことがあった。


「まず、良い報告と悪い報告……どっちが聞きたい?」

「えっと……」

「まどろっこしいのは無しじゃ。そう急に述べてくれ」


 メルの間に入ったベガが真剣な趣で話を聞く。

 おどけていたリングウッドも誤魔化しが必要無いと悟り――。


「じゃあ単刀直入に言おう。



 叔父上、ソサエクス様が戦死した」



 え? その顔で固まったままのメルと目を真ん丸に見開いたベガを朝日は何事も無かったかのように出迎えるのだった。

 それは丁度、決戦のあったラバン高原から照らす戦火のような光だった。


ベガの中の人は敢えて書きませんでした。

男性か女性かは想像に任せます。

さて、急報でソサエクスが死にましたがこの戦いを書こうか結構迷っています。

またしばらくしてから投稿したいと思います。

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