世界を否定する少女
ごめんなさい。
メルの決め言葉が……。
反射的に駆けだしたメルであったがベガを止める方法など思いついていない。
それでもメルが駆け出したのはあることを思い出したから。
馬に乗り流れるように景色は流れ。
「メルちゃん!」
シフォンの叫びと同時、突如メルに影出来る。
轟と鳴るのは大剣を振り下ろす音で死者であるヴァルカが上段から放ったもの。
ジャンプしての体重を十全に使った攻撃は。
「お前の相手は俺だ」
「……」
轟音が響き大斧と大剣が交わる。
受け止めたアガレスに応えるようにヴァルカの口角は少し上がったような気がした。
世界がひび割れる音をバックグラウンドに彼らの戦闘は始まり騎士たちもまたかつての仲間と剣を交える。
焔が舞い、剣が振られ最後の戦いは一人の少女に託される。
敵も味方も全てがメルの背中を押す。
「さあ、英雄姫。世界を救ってくれ」
シフォンの呟きは小さく戦場に響き、風と共に露散した。
死者の匂いが一層強くなる。
ベガに近づくにつれ、時間が経つにつれその匂いは一層強く醜悪になる。
「っ」
吐き気を催すグロさと匂いでメルは一瞬、手綱を手放しそうになったがそれでも耐えたメルは涙目になりながらベガの元へと走る。
強烈な光景と匂いは正しくここが戦場であると主張しており恐怖と混沌が入り乱れる。
悲しみと怒りの最前線に立ったメルに逃げ出したいと言う気持ちが無かったとは言わないが。
「……ベガちゃん」
それに勝るのはベガを案ずるメルの心であった。
体が拒絶しても心がメルをベガの元へと向かわせるのだ。
一瞬でも速く、一秒でも早く。
そう言った気持に馬は答え一双速く駆けた。
『くひひ』
ベガがくぐもった声で笑う。
俯く彼女を守るように死者たちは蘇り更なる激戦を予感させる。
迫る死者を浄化しながらベガの恐怖を思い知ったメルは――。
(こんな力を、こんな恐怖をベガちゃんは持っていたんだね……)
ベガがなぜ力を隠していたのか理解した。
と同時に思うことは。
(怖いよね。世界を壊す魔法なんて)
事実この魔法はチートであり世界から外れた術。
放っておけばどうなるかなど想像するまでもないことだ。
空間のひび割れは拡大して、ベガの体を徐々に蝕む。
(怖いよね。力が自分を変えていくのが)
思えばベガは食事や睡眠が極端に少なくなっていた。
それが力を得た代償なのかメルには分からなかったが、明らかにベガは普通の人間から離れていた。
睡眠や食事と言ったことはベガには既に必要無いのかもしれない。
ベガはずっと怯えていたのだ。
自分の力に、変わっていく自分に。
何故この力を持ったのか、何故こうなったのかメルには分からない。
でも、だからって
「なんで、私に相談してくれなかったんですか!!」
怒りの眼をベガに向ける。
同時に周りの死者を聖なる光で浄化する。
その怒りはベガの裏切り。
友達としての振る舞いとして正しいものだとは思えなかった。
「なんで言ってくれなかったんですか?!」
死者は砂に変わり、メルの頬を流れる。
「友達ではなかったんですか?!」
一歩一歩と馬は駆けベガとメルは近づく。
ひび割れた世界は混沌を彩るがメルは止まらない。
流れる枯れた木々は彼女たちの行く末を見守ることしかできない。
「どうして?! どうして?!」
怒りは疑惑に変わり、目前へと迫ったメル。
答えは出ていた。なぜベガは力を秘密にしていたのか。
それでも怒りをベガに向けたのはメルの身勝手と言う他ない。
怒りはすでに消え馬上から手を差し伸べるのは一人の英雄姫。
差し伸べられたのは世界から嫌われた少女。
「さあベガちゃん。私と共にこの英雄譚を紡ぎましょう!」
メルは二へラと笑いながら、俯き笑うベガを許すのだった。
「ベガちゃんの元へとたどり着いたみたいだね」
緑色の短髪を炎のヘビが照らす。
空中で森全体を俯瞰している彼は炎の大蛇を操り死者たちを葬っていた。
地面を這う大蛇は魔法でありながら、生き物のように滑らかに動き獲物を捕食する。
塵も残さず、ただ燃え盛る地面だけが残った。
「手出しは?」
「必要ない」
伺ったシフォンの下から轟音が鳴り響いた。
今も戦闘を継続している騎士、黒の鎧を身に着けるアガレスは荒い息で大剣を持つ死者と切り結び今まさに決着を付けようとしていた。
「悪いが、これは俺たちの戦いだ。騎士団長として一人の男としてヴァルドとは決着を付けなくてはならない」
「ああ、そう」
興味が失せたシフォンはそのまま群がる死者たちを焼く作業に戻る。
シフォンにとって誇りや男としてのプライドと言ったことに興味が無い。否、価値が無いと思っている節が見受けられる。
それは騎士とは真逆の資質を持つ魔法使いゆえの判断なのか、それともシフォンの性格故なのか分からないが、シフォンにとってそれは価値あるものではない。
とは言え、シフォンがアガレスとヴァルドの決闘に水を差さないように周りの死者たちを食い止めているのは確かでありそのことに関してアガレスは感謝を抱いているのは言うまでもないこと。
「ありがたい、そしてありがとう」
再び斧を構えなおすアガレスは青白い顔のヴァルドに最後の技を。
「ウウウ……」
唸り声がヴァルドの大剣を震わせる。
彼もまたアガレスと最後の決闘を申し込み。
「〈道を切り開く〉!」
「ウアア!!」
白き閃光と大剣が激突する。
光は衝撃波を作り彼ら二人を白く染めた。
勝敗の行方は定かではないが、彼らにとってケジメはついたのだった。
エタルことは決してありませんが、筆の進みが遅いのはご了承を……。




