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戦の影

戦争の風景はいい感じです。

 ベガはアレクのメイドとして働いた。

 朝早くから起き、主人である――。

 アレクの起床を手伝い、側就きとして働くのがベガの仕事だ。

 その仕事は多岐に渡り、買い物から護衛。

 救出まで行う万能メイドとしてしっかりと働いた。


 ベガの服装は特段変わったところはない。

 強いてあげるなら、その手に持つ扇子とメイド服にミスマッチな大和なでしこな美貌だろうか。

 よくあるメイド服であり、特に目立ったところがないからこそベガの妖艶さは映ったと言えるだろう。

 それはさておき、仕事の方だが――。


「……お前、全然仕事していないな」

「しておるじゃろ? 主に〈スケルトン〉と〈精霊〉が」


 ベガとて人並みにできるスキルはあるのだ。

 だが、その程度であれば人に任せた方がいいと考えたベガは〈スケルトン〉で代用する。

 サボっているように見えるかもしれないが、効率を重視するのであればこの選択は納得できるものだった。


「それよりも、アレク。お主は毎日このような習い事をやっておるのか?」

「ま、まあね」


 廊下を歩くアレクの後ろにベガは付き従うように歩く。

 調度品の数々がここを貴族の屋敷だと伝え、レッドカーペットには塵一つ落ちていない。

 栄えて歩くアレクもまた、貴族服に身を包んでいた。

 そして、通り過ぎるメイドたちが驚いているのをアレクは残念ながら気付いていない。


 メイドの驚きはここにアレクがいると言う驚き。

 それはアレクにサボり癖があったと言うことと、彼のやんちゃがメイドたちにも伝わっているからだ。

 ベガが来てからと言うもの、通常のクリステラとアレク――追いかけっこから始まる朝ではなかった。


「うむ、次は何をするのじゃろうか?」


 尋ねるベガは扇子を広げる。

 かっこよく、とは言えないが自信ある笑みを浮かべるアレクはそのまま答える。


「ふふ、俺が一番得意としている剣術だ」


 得意げに言うアレクはこの授業だけは真面目に頑張っていた。

 そして同時にベガにいいところを見せることが出来ると踏んだアレクは気付かないうちに早足になった。




 ドシャと少年が弾き飛ばされ、地面に膝をつく。

 円形に囲む騎士たちがフィールドを作り一対一で試合をするのは少年と逞しい体つきをした一人の騎士。


「はあ、はあ」

「この程度ですか? アレク様」


 大剣を肩で担ぐはアガレスの近衛兵。

 副団長の地位に座す彼は平民でありながらその腕で成り上がった男。

 自他ともにアガレスの右腕として活躍する彼こそ。


「流石じゃのぅ。〈アガレスの副椀〉ことヴァルカ・グスカス」


 怪我した左目でニヒルに笑いかけるヴァルカはアレクを煽っていた。

 普段よりも厳しめな稽古であるのはアガレスの命令があったことと、アレクのやる気が一段と高かったから。

 それに加え、あまり顔を出さないヴァルカの手加減が適切でなかったことも起因するだろう。


 汗を滝のように流すアレクは鉄の鎧に身を包んでいた。

 刃を潰した鉄の剣も今は持っているだけで精一杯だ。

 ギンギンに輝く正午の太陽も今は熱さを伝えるだけの邪魔なもの。

 唯一の癒しは鼻腔を擽る花の香りと涼しい風と――。


「頑張るのじゃーーー!」


 好きな子の声援であった。

 グラグラと剣を支えに立ち上がるアレク。

 その様子を余裕で待つのはヴァルカ。

 周りの騎士たちの顔はアレクを認める顔へと変化する。


「まだ……まだ!!」


 暑さで紅くなったアレクの顔は涼しい顔のヴァルカを睨む。


「いやはや、若さで立ちましたか……。とは言え、それだけではこの修羅を超えることはできないでしょう」


 再び敵対するヴァルカの構えは変わらない。

 肩に担いだまま、それと違いしっかりと構えるアレクは刺突を放つように剣を斜めに構える。

 今もアレクが苦しそうにしているのはヴァルカが殺気を放っているから。

 一見の無謀。

 されど、鬼気迫るのは彼が修羅だから。

 ツツっとアレクの頬を汗が滑り落ち――。


 ゴワっと吹いた風にアレクはなった。


 純粋に、真っ直ぐ、新風となったアレクは若菜の景色を通り過ぎる。

 果てに待つのは赤黒い殺気を持つヴァルカ。

 ゆっくりと大剣は水平に構えられる。


(片手であれを振るのか?!)


 驚愕は躊躇いに変わる。

 少し重くなる足を――。


「前へ!!」


 風と声に押されたアレクはそのまま、ヴァルカに飛び込む。

 憶さなかったのは想定外であった。ヴァルカは眉を少し上げる。

 が。


「予想内……」


 無骨な鉄の塊は無慈悲に振るわれる。

 歯を食いしばるアレクは痛いみに耐えるように、だが一歩でも前へと。


 ズガン!

 と響いた効果音はそのまま結果を物語る。

 吹き飛ばされるアレクに命の別状はない。

 気絶している彼は日陰まで飛ばされ、気を失う。


「剣の腹だったので心配はないですが……」


 ヴァルカの頬にピリっと痛みが走る。


「少しばかり不覚を取ったのは……いやはや、アレク様の若さが成すところですな。それとも、少女が成した業というものかな?」


 快活に笑うヴァルカに傷を与えたアレクは誇ってもよい戦績であった。

 涼しい風が殺風景な訓練場に流れた。




「ぐぐ……」


 木漏れ日が揺れ、それが丁度アレクの瞼を照らした時だった。

 寝ていたアレクはその光によってうめき声を上げる。

 未だ日の光は高く、さざめく様に吹いた風は小さく。


「む? 起きたようじゃな?」

「え…………ベ、ベガ!!」


 膝枕をしてもらっていることに今更ながら気付いたアレクは慌てるように立ち上がろうとする。

 だが、動かした頭は鈍い痛みを与え体の動きを制止させる。

 クスリと無茶を笑う。


「無理に動くからじゃよ」

「あ、ああ」


 見惚れたアレクは近づいていた顔をそっぽ向け、仰向けから横向きの姿勢になる。

 香るのは花と彼女の匂い。

 さらりとベガの黒髪が揺れた。


「……怖くなかったか?」

「え?」

「アガレス殿やヴァルカ殿じゃよ」


 しばし、沈黙。

 思い出すのは普段から接する彼らと剣を構えた時の彼ら。

 眉を顰めるアレクは言葉にする。


「……怖かった……よ」

「かかか、それはよかった。ならばそろそろ分かってくるじゃろ?」


 メイド服の上からでもベガの膝枕を堪能するアレクは何が?と聞こうとした時だった。


「た、大変です! い、戦が始まります!」


 一人のメイドが休憩しているアレクとベガの元に急報を持ってきた。



何度も読み返す程、面白い場面であればなと思います。

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