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閑話 戦うと言うことⅢ

明日も投稿します。

遅くなってすいません。

「心配してくれるのは有り難いが、今はそれどころではないじゃろう?」

「あ、ああ」


 ピシリと首元に扇子を突く。

 くくく、と笑うベガはそれだけを伝えて、背を向ける。

 アレクも歓喜のあまりの行動であったため、やましい気持ちなど一切ない。

 そそくさと死体から武器を奪う。

 残念そうにするアレクをしり目にベガは睨む。


「ごめん……」

「謝る必要は無いぞ? どちらかというと我の方に問題がある」


 ベガは自分の体を確かめるようにぺたぺたと触る。


「かかか、既に“感覚”は消えたか……」


 独り言はアレクに聴こえていないようだった。

 触ると微かにだが、違和感が残る。

 そのまま、地下室から脱出するベガとアレク。


 洞穴を拡張して作られたこの住処は意外と広くつくられていた。

 岩を削った後から見るにこれは人工的に作られたものだろう。


「昔に作られたものらしいな」


 壁を触り分析するのはアレク。

 階段を登り部屋を出たアレクとベガは今、廊下のような場所にいた。

 幾つもある下に続く階段が独房で、上る階段がまた別の部屋に行くものだった。


「さて、どうするかのぅ?」

「……進むしかないだろう。正面突破以外の方法は?」

「ないのぅ。策を弄するとすれば……」


 ベガは扇子で顔を隠し、懐をあさる。

 出したのは布のマスクと黄色い袋。

 別段、変わったものに見えないそれであるが――。


「麻痺毒を霧状に散布する袋とそれを防ぐマスクじゃ」

「……なるほど」


 一瞬にしてアレクはベガが持つ装備の意味に気付いた。

 ベガが主に召喚するのは〈スケルトン〉である。状態異常に対して強い耐性があるそれならば、圧倒的に優位を取れることは明白。

 後はアレクの決心だけだ。


「恐れるな、アレクであれば出来る」

「……」


 無言でマスクを装着したアレクと袋を部屋に投げ入れようと準備する〈スケルトン〉。

 マスクが要らないベガは指を折って、アレクに時間を教える。

 ゼロになった時、〈スケルトン〉が袋を部屋に投げ入れ、アレクが突入した。


「な、なんだこれは?!」


 慌てる元騎士たちは黄色い鱗粉のようなものを吸い込んでしまう。

 困惑するもアレクがこちらに向かって上ってくる様子を見て、武器を取るが遅い。

 震える手で必死に抜く者もいれば耐性がないのかその場で動けなくなる者もいる。

 個人差が少なからずあったが、それでも効果はあった。


「があああ!」

「いーー!ああ!!」

「た、助け!!」


 例え最弱モンスターである〈スケルトン〉でも条件さえ揃えばここまで厄介になる。

 上手く振れない剣に苛立つも、毒は体を蝕む。

 例え訓練した兵士であっても老人の様に体が震えるのであれば、アレクに勝てない道理などない。

一方的な殲滅は佳境に入り、残すは数人のみだ。


「ガ、ガルナーク様!!」

「くっ!!」


 他の者たちと違いある程度まともに戦えるガルナークは〈スケルトン〉を斬っていく。

 むせ返る血の匂いは濃くなっていき、それは生者が死んだ――仲間が死んだことを意味した。


「投降しろ!」


 くぐもった声で叫ぶアレクは剣を真っ直ぐガルナークに向ける。

 冷や汗をタラリと流すガルナークの肩は震えていた。

 否。


「ふははは! 投降などするものかよ! 少なくとも、お前の父とそこにいる女を殺すまではな!!」


 狂った目でアレクの言葉を否定する。

 他の者たちもそれに応えるように剣を構えた。


「そうか……分かった」


 改めて人を殺す決意をするアレクは〈スケルトン〉と共に向かう。

 骨身だけの〈スケルトン〉とガルナークの部下が互角の戦いを繰り広げるのは毒によるところが多く、また疲労を知らない〈スケルトン〉の特性的なところも大きい。


「おおお!」


 大きく振りかぶり、ガルナークを縦に両断しようとするが、受け止められる。

 毒で震えながらも必死にガルナークは足掻いた。

 血が火花を映す。

 蒼い顔のガルナークと口を布で隠すアレクは額をぶつけながら唾を競り合う。


「……どうしてあなたはそこまで頑張るのです?」

「知れたこと……はぁはぁ、絶望を振りまき、痛みを教えるためだ……」


 身勝手で自己中心的な思考をするガルナークであるが、正義を宿したような瞳は力強かった。荒く呼吸するたびに毒を吸い込み、顔を青くするガルナークだが剣を押す力は徐々に強くなる。

 ジリリと押されるアレクは壁際による。

 逃げることがかなわないアレクを狂った瞳が見る。


「はぁ、はぁ。痛みを知れば、戦など無くなる……。なあ、そうだろう? そうだよなぁ?」

「ぐぐ!」


 意識朦朧のガルナークは己の正義で立っていた。

 そして、おもむろに開いた手を伸ばすガルナークはアレクが装備しているマスクを奪い取り、捨てる。


「っ!!」

「絶望しろ。そして、絶望しろ」


 笑った口から白い泡を吹き出す。

 瞳孔が開ききり、それは既にアレクの姿など見ていない。

 毒が回り朦朧とするアレクは限界で――。


 ガルナークの蹴りにより体が吹き飛ばされる。

 肺から息が漏れ、悶絶する。ボールの様に蹴り飛ばされたアレクは霞む目を。

 アレクを助けた小さな影に向ける。


「他は片づけた。後は任せるのじゃ」

「ベ……ガ」


 壁にもたれかかる様に意識を失ったアレクは苦しく目を閉じる。

 麻痺の毒であるが、長く吸いすぎると体に悪影響を及ぼすことは容易に想像できる。


「ははは、待っていた! 待っていたぞ!! ベガああああ!!」

「悪いが、お主の歩む歴史はこれで終いじゃよ」




 ガルナークの正気を失った目は正しく獣の目であった。

 ねらい、研ぎ澄まし――接近して一閃。

 同時に凛と響く声。


「〈スケルトン〉」


 剣を振るガルナークを邪魔し、〈スケルトン〉は砕ける。

 ギリギリ刃は届かないのに苛立つガルナーク、骨に守られる姫は扇子を向ける。

 背後から二本の刃がガルナークに向けて振り下ろされるが、即座に落ちている剣を拾い持っている剣の二刀でそれらを受け止める。


「ほお、やりおる」

「斬る」


 受け止めたガルナークはそのまま返す力でスケルトンたちを切り払った。

 正面を向き、ベガと向かい合う中で。

 ベガはチョンと軽く払う仕草……扇子を横に振った。

 それだけ。

 其れだけであるのだが、いつの間にかベガが遠くに移動していた。

 獣は……ガルナークは不可解な現象を分析するよりも一刻も早くベガを斬ることに専念する。

 姿勢を低くし、襲い掛かるも。


「無謀よな」


 前方に槍の林……否、槍を装備した〈スケルトン〉を召喚。

 行く手を塞ぎ、しっかりと構えるそれらは突撃するのを躊躇わせるものだったにも関わらず。。

 ガルナークは腹を貫かれても頬をザックリ切り裂かれも前進した。

 麻痺毒で痛みが鈍くなっているのだ。

 猪突猛進、一本の矢のごとく林を抜けた彼は跳躍した。狂気的な笑みを浮かべながら剣を振りかぶる。

 ベガを守る者はいないと判断して振った彼は――。


「くひひ、〈殺戮と憎悪の英影〉」


 ぐしゃり。

 黒い影が竜の様に咢を開き、ガルナーク包みこんだ。

 ベガの背後から生まれたそれは影のような黒さを纏った流でもあった。


「終わりじゃな」


 ベガは何もない空間を掴むと同時にガルナークは咀嚼された。

 べしゃりと吐き出される血は致死量を超えた量で骨も装備も全てを食べられた。

 むせるような血の跡は彼が死んだことを意味し、ベガの笑みをその鮮血が暗く反射するのであった。




「なるほど、ではここにある報告書に間違えは無いな?」

「勿論じゃよ」


 執務室を照らすシャンデリアが輝いた。

 時間は日が沈み、窓の外では家の明かりが目立つ。

 扇子を開き、アガレスの話を聞くベガと手に持つ書類を見つめるアガレス。

 二人だけの会話がしばらく続く。


「分かった……。それともう一つ」

「なんじゃ?」

「ガルナークが持っているはずの書類についてだ。あの者は屋敷にあるはずの物を持っているそうなんだが……」

「ああ、これの事かのぅ」

「……」


 ケラケラと笑い懐から書類を取り出す。

 無言でその書類を催促するアガレスにベガは渋ることなく渡す。

 ちらりと流し読みしたアガレスは無事を確認すると同時に目をベガに向ける。


「読んだか?」

「いいや」


 パサリと置いたそれは銃についての書類であった。

 火縄銃の設計図であり、その用途や威力のほどを書き記されたそれは重要な書類だ。

 厳重に保管されていたものが何故か盗まれていた。


「……誰に盗まれたかは知らないが、戻ってきてよかった」

「かかか、それは良かったのぅ」


 そう言って、ベガは用が済んだと言わんばかりに退出をする。

 が。


「もう一つ、気になる点がある」

「……」


 ピタリと歩が止まる。

 ざわりと開いた窓から冷たい風が吹いた。


「誰かが……この書斎に入った形跡があった」

「……」

「誰かは分からない。だが、その者はこれではない紙を見ていたようなんだ」


 ギシギシと重い扉が鳴った。

 部屋はいつの間にか黒い疑惑に覆われ、ざわざわと何かが騒めいた。

 疑心が満ちるこの空間で少女はあっけらかんと――。


「さて? 何のことじゃろうな?」

「……」


 風は静まり、しばし見つめ合う二人。

 静かにシャンデリアの光は怯えたように震えた。

 こくり、こくりと時が進み。


「……いいだろう。退出を許可する」

「感謝するぞ」


 パチンと鳴らした扇子。

 それを合図にベガとアガレスは歩みだす。

 敵か味方。

 少なくとも二人の対決はこの時から始まっていたのかもしれない。


心理描写がいまいち……。

そろそろ戦争をします。

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