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アレクの変化

閑話を挟もうか迷っています。

 ソルムード邸でアレクの帰りを待つのはアガレスとクリステラ。

 邸門の前で静かに待つ彼らは先ほど、子供たちを送ったばかりで、少しの疲労が残る顔であった。


「……」

「アガレス様……」


 本当であれば、ここは父親がしっかりと叱る場面であったが、アガレスにはそれが出来なかった。

 そのことを小さく注意するクリステラだが、アガレスの苦労も理解できる。

 なにせ、アガレスは斬頭の戦鬼。敵かれ恐れられ、味方にも畏れられる彼が家族には――と思うのが理解できるからだ。

 家庭では普通で優しい父でありたい。そう思うのは自然なことでそれ故のことだと分かってはいるが。


「……帰ってきましたよ」

「うむ」


 涼しい風が颯爽と通る。

 真っ暗な闇が多く残るこの時間で足取り正しく真っ直ぐこちらに歩いてくるのはアレク。

 何を話したのかは分からない。されど、その顔は腫物が取れたように確かな自信がある顔であった。

真っ直ぐ。

 ただ、真っ直ぐこちらに向かってくるアレクはアガレスの前で止まる。


 沈黙――が続いた。


 睨むような視線ではないにしても、その瞳はブレず何かを確かめようとしている目であった。

 アガレスがアレクの、アレクがアガレスの瞳を覗く。

 そして。


「親父……決闘をしないか?」

「……」

「な!」


 決闘、その言葉の意味を知らないアレクではない。

 それは勿論、クリステラも分かっていることで、真剣勝負を意味していた。

 ピクリと動くのはアガレスの眉。

 微かな動揺が伝導した証で笑うのはベガ。


「良い。良いなあ」

「ベ、ベガ様!」

「我が言った事ではないぞ?ともあれ――逃げられぬぞ?」

「……」


 決闘と言う言葉を軽く使ったことも問題であるが、それよりも重大なのは父に対して真剣を向けると言うこと。

 逆に言うなれば、子に真剣を向けることでもあるのだが――。


「……覚悟はできているのだろうな」

「――っ!勿論!!」


 静かな殺気が冷や汗を垂らすアレクに向けられる。

 時が止まったような感覚が辺り一面を支配する。

 誰もが息をのむ一瞬。

 竦むアレクであったが何とか耐え、答えた。

 その返答で覚悟を見たアガレスは背を向け闘技場へと向かう。

 アレクも遅れながら後を付ける。


「く!」


 あっけにとられ、何とか止めようと動き出したクリステラであるが、その動きを扇子が止める。


「無粋じゃぞ?」

「っ!それでも、親子で真剣を向け合うのは間違っています!」

「それも一つの会話であり形じゃろ? どうしてもというのなら、我と遊ぶか?」


 首元に添えられる扇子が一段と輝く。

 ゴクリと唾をのむクリステラは例えベガを超えても止められないのは薄々であるが理解している。

 それでも彼女が動いたのはクリステラがメイドであるから。

 月光に照らされ笑う少女が一人。


「酔狂な……」

「無粋に言われたくないのぅ」




 アレクは真剣を持ったことがなかった。

 それはアガレスが持たせてくれなかったこともあるが、剣の管理が厳しかったと言うのもある。

 悪ガキであるアレクが何度も真剣を持とうとしたことは言うまでもないことであるが、そのたびに管理を厳しくしたのだ。

 触れられなくて当然。

 でも今回は違う。


「……」


 アレクがまず初めに思ったことは剣の重さだった。

 鉄と木材では重さが違うのは勿論のことその強度に対しても大きな違いがある。

 普段から木剣を携帯しているアレクはその違いに驚き、意味を知る。


(これが……命を奪う重さ……)


 馴染むことのないその重さに苦戦しながらアレクは数回素振りをし、アガレスに向き合う。

 無防備に立っているように見えるアガレスは息子を待っていた。


「……終わったか」

「ああ……それと、遠慮はいらないからな」


 剣を中段に、オーソドックスに構えるアレクに対してアガレスは自然体で接する。

 真面目に努力した結果だろう。

 アレクの構えにブレは無く、綺麗なものだった。

 対してアガレスは剣先をゆっくりとアレクに向け――。


「来い……」

「っ!うっおおおおお!!」


 アガレスは言葉と同時に殺気を飛ばす。

 呼応するように剣を振りかぶったのはアレクだが、それは呼応してのこと。

 さしずめ、攻撃させた。という表現が正しく簡単に防ぎ、柳のごとく華麗に捌かれる。


「く!」


 剣が流され、体が流れる。

 大きな隙を見逃さないアガレスはスッと手を軽くアレクの顔に添える。

 大きな手によって視界を塞がれるアレクは困惑するが、答えはすぐに返ってくる。


「〈寸勁〉」


 効果音は無い。

 空気が揺れ、ただ静かな痛みが激しく襲う。

 ノックバックするアレクは鼻血を吹き出しながらも、その若さで意識を早く回復させる。

 とは言え、一瞬であるが意識を失ったのは事実。


「っ!」


 音もなく近づいていた半身のアガレスが片手で剣を振り上げていた。

 顔の半分は星の光で照らされ、その半分は真っ黒な影に覆われている。

 光と影が同居した姿にアレクはやっと、アガレスの本当を見た。




「あっけなく、とは言え健闘した方じゃのぅ」

「ええ、並の人であれば殺気をぶつけられただけで竦んでしまいますが、アレク様は違う。強者と戦う才能があります」

「……」


 三者三様に反応する。

 その中で最初に動いたのはアガレスで、気を失った息子を担ぐ。

 動きもなく突然であったから、遅れながらもメイドの仕事を遂行しようとクリステラが代わろうとする。

 けれども。


「必要ない。俺が原因でもあるし、父親としての当然のこと」


 健闘した息子の成長を確かめるようにアガレスはアレクを運ぶ。

 雑で乱暴に担いでいるが、アガレスは不器用なのだ。

 複雑にそのことを見つめるクリステラは何とか言葉を飲み込みながら、親子の成長を見守

った。

 夜風が冷たく頬を撫でる。


「はあ……それで、ベガ様はどうするつもりですか?」

「うむ? 我か?」


 戦闘を見守っていたベガは余興に満足しながら、クリステラの問いに答える。


「アガレス殿に尋ねてみなくてはどうも動きようがないのぅ」

「何か、おっしゃりたいことがあるのですか?」


 ゴニョゴニョと小さくベガは相談した。

 あっけにとられるクリステラであったが、ベガとアレクの関係を見て使えると判断した。

 思考を纏めるクリステラと扇子で口元を隠すベガ。

 結論、丁度人手が足りない今とアレクのことを思えば。


「わかりました。あなたが動けるように手配します。それと――」

「分かっておる。客人であるからと言って気を使う必要はないぞ」




 アレクの朝は比較的に速い。

 それは墓地の朝日を見る為に早起きするからであるのだが、今日は昨日の疲れが残っており、いつものように速く起きることが出来なかった。


 薄く眠るアレクの脳内はアガレスと戦ったことと、妄想で接近するベガの顔とその唇を見ていた。

 徐々に接近するラブロマンスにアレクは胸を高鳴らせ――。


 シャーーーと言うカーテンを開ける音が薄い眠りから目覚めさせた。


「うっ……クリステラ……か?」


 朧な意識でカーテンを開けた人物に尋ねる。

 目をこするアレクは目が開ききっておらず、完全に誰であるか分かっていないからこそ――。


「げ!」


 スケルトンがカーテンを開けていると思わなかったのだ。

 ドタドタと騒がしくベッドから転げるアレクはそのまま、壁に頭をぶつける。

 自分の頭をさするアレクに差し伸べるのは白くて細い腕。

 反射的に顔を見るアレクは再び驚く。

 向き合うのは二人の少年少女で朝の日が二人の出会いを改めて祝福する。


「起きたようじゃな」

「ベ、ベガ!」


 改めて赤面するのは突然の出会いと朦朧とした夢を思い出したから。

 鳥がチュンチュンと鳴く。


 ――バタン!


 春風舞うには遅いこの季節。

 スケルトンが開けた窓から花の香りと遅れて青い春の匂いが漂った。


少し待ってください……。

悩ましい事態に陥ったので……。

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