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少年と少女の出会い

一日遅れました。

すいません。

 大きなベッドの上でモゾリと動くものが一人。

 豪華に飾られたそこは貴族という立場にいるものに相応しいものだ。

 子供が欠伸をしながら、太陽が登り切っていない時間に準備する。


 この部屋の所有者はアレクという名前の少年。

 分かりやすい身分はソルムード家の長男でアガレスの一人息子だ。

 性格は勇敢で怖いもの知らず。

 学問などの成績はいたって普通であるが、剣術に対しての才能はあった。

 さてさて、準備を整えたアレクの挙動は怪しい。


 キョロキョロ。


 白い髪と黒い瞳を動かす。

 ここは大きな屋敷の一部屋。

 窓の外をしきりに確認するのはアレスがこれからすることを悪いことだと認識しているから。

 バレないようにそっと、二階の部屋から結んだ布団を垂らす。


 そっと、そっと……。

 朝日が騒がしい一日を照らすよりも早く……。


「坊ちゃま?」


 アレスの部屋の近くからメイドが歩く音が聞こえた。


「げ?!」


 慌てるのはアレスで、そのせいで結んだ布団から手を放し落ちてしまう。

 ドシン。


「っーーつ!」

「ぼ、坊ちゃま!?」


 二階から顔を出すメイドは慌てた様子で落ちたお尻をさするアレスを見る。

 メイドは落ちたアレスに大事が無いと安心するが――。


「に、逃げろ!」

「あ!」


 その僅かな隙にアレスはまんまと逃げだすのであった。




 ソルムードは武器の生産を収入としている鉱山都市で、山肌に沿うように斜面に作られている。

 故に坂道が多く、見晴らしのいい都市であった。


「はあ、はあ……」


 石を切り出して作られた民家をアレスは流れるように追い越す。

 道端でのん気にしている猫も、朝早くから薪の準備をする老夫婦や朝の仕事をする主婦、鍛冶の準備をする大人たち、それら全てを追い越して坂を登る。


「……もう、少し……」


 開けた場所で、墓石が沢山並ぶその場所はソルムードで一番高い場所である。

 貴族の屋敷よりも高い位置に建てられた墓地は管理する上でも大変で、時折落石などの被害もあるが……。

 なぜこんなところに墓地があるのか?最初に来た者たちは少なからずそう思うことだろう。とは言え、住人は、アレスは、勿論のこと理解している。

 それは彼が毎日くる場所で、好きな場所だから。

 言い換えれば、一番美しい場所であるから。


「着……いたぁぁ」


 息を切らしながら、眺めのいい場所で待機するアレスは今日の始まりに胡坐をかきながら待つ。

 夜は明け、雲がそれの登場を一番に向かえる。

 平原の脇を山が囲み、主役の登場は明るく全てを迎えるがごとく。


「誰よりも早く、おはようを、この世界に!」


 アレスは笑いながらこの美しく景色に挨拶するのであった。




 しばし堪能した景色に別れを告げたアレスはそのまま、広場に集まる。

 賑やかに仕事する人々と裏腹にアレスは集まっている子供のグループと合流する。


「遅いよ~。アレク」

「悪い、悪い」


 手を合わせながら登場するアレクに少女は仕方ないなとため息をつきながらアレクを迎える。

 他にも数人の子供たちがいるが、どの子もアレクよりかは幼く、彼の登場を喜んでいた。


「それで、今日はどうするの?」

「決まっているじゃんか!」


 少女が広場の長椅子に腰掛けながら尋ねる。

 対して、元気よく答えるアレクはビシリと森の方角を指すのだった。




 ソルムードから少し外れた位置にあるその森は魔物などの危険は勿論のこと、子供たちにとって近づいてはならない場所だと言われているのは確かであった。

 それでも彼らが近づくのはリーダー格であるアレクの言葉と、「何?もしかして怖いの?」という簡単な挑発があったから。

 いや。


「……アレク、何焦っているの?」

「べ、別に!」


 先頭を歩くアレクに少女と子供たちは続く。

 言い出しっぺであるアレクは怯えながらも注意を払いつつ森を探索するのは先ほども言った通り焦っているから。


(お前が剣を振るには、まだ早すぎる。……もっと、強くなってからだ)


 その言葉は戦場から帰ってきた父、アガレスの言葉であった。

 アレクも一応は訓練をすることが許されているがそれは木剣によるもの。

 真剣の所持は未だ許されていなかった。


「ねえ、アレク。もうそろそろ帰ろうよ?」

「う、うるさい!」


 適度な長さの棒を振り回しながら探索するアレクは強さを求めていた。

 何か父に示せるものを――。

 武功を焦る騎士そのものであるが、彼は未だにそのことに気付かない。

 先ほど、アレクは勇敢だと書いたが真実を言うと彼は恐怖と危険に遭遇したことがなかった。それはアレクが貴族の一人息子であるからで、大切に育てられたから。


 ガサガサ……


「「「!」」」


 彼らは驚き、歩を止める。

 武器を持つのは先頭のアレク、木剣を片手で構え、後ろの子たちを守るように抑える。

 子供たちもまた、警戒し固まるのは勿論のことだった。


 ヌッと顔出すのは鹿の子供。

 ほっと一息肩の力を抜くアレクであったが――。


 むんず。

 横から延びた大腕に掴まれた小鹿はそのままパクリと丸飲みされる。

 突然の出来事、余りの恐怖に彼らは見上げる。

 滴る血から覗くのは鋭い牙と巨体。


「オ、オーク!」


 自身を奮い立たせるように叫んだアレクは小鹿の骨まで食べるオークを視認するのであった。




 4mの巨体は子供にとって竜のように巨大で、刃も通らなさそうなその厚い脂肪は彼らとって鋼鉄の鎧を思い起こさせる。

 目を開き、一挙手一投足を見逃さないアレク。

 対して鼻を引きつかせ、ギロリと子供たちを見るのは先ほど食事の終わったオーク。

 口から大量の血が落ちる。


「逃げろ!」


 そう叫ぶアレクは幾分か冷静であった。

 それは他力本願、つまりは父か騎士団の人間が助けてくれるだろうと言う根拠もない補正に期待しているからだった。

 確かにオークは恐ろしい化け物である。

 でも、確実にアガレスや騎士の方が強く――。


「グルオルああああ!」


 有りっ丈の咆哮がペタンと力なくアレクに尻餅をつかせた。

 実際、アガレスがいればこのピンチを切り抜けることが出来たであろう。

 でもそれは希望的な考えであり、アレクは致命的な欠点があった。


 怖くない、怖くない!

 と心の中で叫ぶアレクであるが。

 ――アレクは“純粋な殺気”と呼ばれるものに耐性が無かった。


 アレクは貴族の子供であった。その事実が今のこの状況を作ったのは言うまでもないこと。

 蛮勇というには余りにも下らない理由でアレクは森に入り、貴族という立場がアレクを弱くした。

 故に。

 動けない。

 彼らは動けない。

 だから――和服の少女が声をかけた。


「かかか、怯えすくむ子供が数人とオークが一匹。さてさて、どちらに加勢するのが正解なのじゃろうな?」


 パチンと扇子を閉じる音が木霊した。

 



 ベガの声が響いた。

 フードを被り、子供のような低い身長でこの状況を傍観するベガは可笑しく笑う。

 対して切羽詰まったように助けを求めるのは子供たちを守るように立っている連れの少女。

 勇敢に、それでも自分の役割を果たす少女は藁にもすがる思いで言った。


「た、助けて下さい!」

「……」


 片や運が悪く、片や運が良かった。

 とは言え、彼女の選択に対してアレクは良い顔をしない。

 というのもベガが少女の見た目をしているからで、その非力さを外見のみで判断したからだ。


「お、お前も早く――」

「まあ良かろう。其れもまた一興」

「え?」


 アレクの言葉を無視してベガはオークとアレクの間に立つ。

 そして両手を上げる。


「かかか、我は武器を持っておらぬぞ?」

「ブギ!?」


 オークに対して言葉をかけるベガは無謀に近づく。

 勿論オークに言葉など通じない。

 けれども、迷いなく近づいてくる少女に一瞬であるが恐怖したのは事実。

 臆した化け物は動きを止める。


「ほら?何も持っておらぬじゃろう?かかか、怖くはないぞ?」


 怖くはないとはどちらの方なのだろうか?

 アレスたちはその異様な光景でベガの異常性を見る。

 ただの非力な少女、そう断言できるほどのベガがオークという醜い化け物を恐怖させると言う矛盾。


「かかか、笑え」

「?!」

「笑うといいぞ?」


 オークの口からは相も変わらず血が滴り、醜い顔とその体躯が恐怖を呼ぶ。

 だが、それよりも恐ろしいのは美女である彼女が浮かべる魅惑的な笑み、蠱惑的な笑み、そして狂気的な笑みだ。

 一歩、また一歩と草が揺れる。

 ざわりとほほを撫でる風は黒かった。


 ここは森の中、太陽が届かない深い森の中。

 平和な森に不気味な、と言う形容詞を付けたのは間違いなくベガであり、彼らもここが見知った森でないと思うほどである。

 オークは醜悪な顔でベガを凝視する。

 笑みを浮かべるベガの瞳は滴る血よりも赤くどす黒い。


「ほれ」

「っ!」

「ほれ…………笑うのじゃよ」


 力強い言葉は後ろに下がるオークの足を絡めた。

 いつの間にか臆していたオークはそのまま、無様にこけ――。


「ブ、ブヒンンーーーーー!」


 そのまま逃走した。

 逃げる姿は子豚のそれ。

 幼く、おぼつかない足は巨大な音をたてながら慌てるように逃げた。


「かかか」


 ベガは追わない。

 追う必要はない。


「はてさて、くひひ。どうしてあのオークは逃げたのだろうなぁ?」


 無防備に立つ少女に武器は無いが、それでも凶悪な笑みを浮かべらながら振り返るのだった。



明日も投稿します。

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