勝利の狼煙
そんな訳で戦が始まります。
場所は変わり。
攻城戦を仕掛けるマルゼン軍の総数は六千。
対して、防衛戦をするロンドル、アガレス率いる軍の総数は二千。
両軍とも民兵と騎士、魔術師を配置しており、装備による差異はさほどない。
「兵数の三倍を揃えるのが攻城戦の定石。なるほど……敵も馬鹿ではないようだな。アガレス」
「はい、ロンドル様」
「うむ、魔法結界魔道具と新兵器の準備は?」
「それも万全です」
優雅に高台で戦場を見つめる中年の男は曇り空の下、長い金髪をなびかせる。
片膝をつくのは黒い鎧と大きな斧を背負い家庭を持つ領主。
「ロンドル様、手筈通りでいいですか?」
「ああ、カルマ。切り込みはお前たちに任せる」
「へへ……」
鼻を擦り、紅い鎧を着る短髪の青年はそれだけを確認すると部隊へと戻る。
再び前を向き彼の元に集まった兵士たちを見下ろしながら激励する。
「さて、諸君。これから始まる戦は歴史に残るほどの圧勝と時代を変える武器が登場する戦……。名を残すは今である!最も武勲を建て、時代に子々孫々名を残す兵は誰か競おう!」
ドン!
剣を地面に突き立てるロンドルは長い金髪をなびかせる。
「よって、圧勝こそが我らが望む勝利であり!諸君らの死は恥と知れ!」
「「「「うおおおおおおおおおおお!」」」」
剣を振り上げる兵士たちは己の名を残すために、生きた証を残すためにロンドルの言葉と踊るのであった。
「準備できました」
小高い丘の上で話すのはマルゼンとその副官の男。
共に乗馬しており、近くでベガにもらった旗が揺れる。
曇が不安をあおるように空を覆った。
「うむ、三度陣形を確認する」
「は!前衛を重装歩兵で固めその後ろに歩兵を配置、更に後ろでは魔法部隊が待機しております!右翼左翼では勿論、遊撃隊の騎馬兵を配置!」
「分かった」
手配通りの配置にマルゼンは満足げに頷くと隣にいるイナバをチラリと伺う。
自分よりも背の高い杖を持ち震えるイナバは怖がっていた。
「あわわわ……」
「ふん」
無力なイナバが自分たちの兵士を一番の死地に追いやっていることに今さらながら気付いたのか、と鼻を鳴らすマルゼン。
無論、ベガが与えた千の兵士も有効に使わせてもらっている。
重装歩兵の後ろにピタリとくっつけるように配置された彼らは正しく一番槍。
重装歩兵はその重さと、長い槍により混戦は不向きとされている。よって後ろに身軽な歩兵を付けるのは定石であり当然。
「重装歩兵の装備に問題は無いか?」
「マルゼン様が作らせた一級品の鎧です。騎兵の突撃にも強固に守ることが出来るでしょう」
何回も、何回も確認するマルゼンは重装歩兵に一番の信頼を置いている。
それは正しく、歩兵の弱点である騎馬兵と正面からの矢と魔法を防ぐのが目的であり、この戦術で彼はこの時代で成り上がったと言っても過言ではないからだ。
重装歩兵と歩兵。
互いが弱点を補い合うことでこれらは無敵の陣形となる。
「む?」
マルゼンが遠くを見つめる様に目を細める。
ギギッと門が開く音が聞こえたからだ。
勿論それが聞こえたのはソルムードの正面門。
せっせとバリケードを門の外で作るのは歩兵隊でその簡易な柵の間から長物の筒が顔を出す。
「……何でしょう?あれは」
「分からん。だが、門を開けてくれたのは僥倖。重装歩兵に破城対は要らぬと伝えろ」
疑問に持つ副官に対してマルゼンは臆することなく、疑うことなく作戦の変更を伝える。
とは言え、重装歩兵の装備が少し変わっただけなのだが――。
「……罠でしょうか?」
「ふん、罠であろうと攻めることに変わりなし。門は開いておる」
他の門は閉じてあるが正面門だけは開かれていた。
誰が見ても罠であるが、門を開いたことにより疑心よりも門が開いている利が勝ったと言えるだろう。
「諸君!我らが誇りを胸に――全軍、行進せよ!」
剣を天に掲げるマルゼンは最後尾で騎士に守られながら歩を進めた。
「敵!侵攻を開始しました!」
「分かった。開戦を伝えろ」
彼とは打って変わり、最前列で指揮するのは〈王国最強〉を肩書に持つ。
リニエスタの金将、ロンドル。
黄色の長髪が曇り空の風となびく。
此方の兵は二千に対して、あちらの兵は六千。
圧倒的兵数差にもかかわらず、兵の士気が落ちていないのは前線に総大将たるロンドルがいるから。
「いつでも突撃できますよ」
「ご苦労。カルマ、マルカ」
騎乗する青と赤の鎧の軽戦士。
彼らが身に着けるのは共に〈魔剣〉と呼ばれる業物の一振り。
「回り込んでくる騎兵隊に備えろ。アガレス殿はそのまま、正面の歩兵を切り伏せてほしい」
「……かしこまりました」
ともあれ、ズンズンとガチャンガチャンと歩兵と重装歩兵の鎧が鳴る音が近づく。
ゆっくりと彼らが行進するのは恐怖心を煽るためと、その重さ故足が遅かったから。
侮るのは、その鈍重な足。
狙うは悦に入ったその笑顔。
「まだだ。まだ撃つな」
縄が焼ける匂いが辺りに漂い始める。
ゴクリとつばを飲み込むのはそれが遠距離用の武器であり、実践が初めてであるから。
「撃つなよ……」
ロンドルは待機を命じる。
未だに彼らが撃たないのは彼らが訓練された兵であり、ロンドルの指揮が高かったから。
真っ直ぐに。
いや、真っ直ぐすぎるくらいに彼らは銃口を敵に向けている。
「……」
引き金に指をかけていた。
ロンドルの近くで銃を構える男の汗が静かに、ただゆっくりと垂れ落ちて――。
――重装歩兵が突撃するのと同時であった。
「撃て」
ドドン!
ロンドルは笑った。
足並みそろわず発射されたそれに。
それは彼らの練度不足が原因であり、ロンドルの小さな言葉が端まで届いていなかったから。
それでもロンドルは笑う。
硝煙薫るその戦場。
その音に驚き、唖然とするのは敵味方含めた両軍。
曇った空が徐々に、徐々に、晴れの光を差す。
照らされるのは黒光りするその銃口。
命奪った証である銃口から立ち上る煙は正しく――勝利の狼煙であった。
敵に知識チートを加えました。
さて、メルたちはどうやって攻略するのか……。




