会議で踊るもの
これで会議シーンは終わりです。
納得できる終わり方であればいいのですが……。
「面白そうな話しをしておったのぅ?」
「……歴史と歩むもの、ベガ……!」
頬杖をつき蠱惑的な笑みを浮かべるベガにリングウッドは歯を見せるように睨む。
荒く息を整えるのはメルであり、ここが会議室であったことを改めて思い出した。
「はあ、結論は出ました……。今さら邪魔をするのは無粋ですよ」
リングウッドに味方するのは彼の派閥に属する背の小さな、気弱な青年。
ベガの黒と赤の和服と簪で纏めた黒髪がゆっくりと揺れた。
「かかか、確かに“結論”は最初から出ておる」
「「……」」
意味が分からなかった。いや、意味がなかった。
パン。
「双方の意見、聞かせてもらった」
「ソサエクスさん……」
手を鳴らし、討論の終了を宣言するのはソサエクス。
この会議で最も発言力があり決定力があるのは彼であり、この反乱軍の総意のようなもの。
静かに、ただ静かにメルとリングウッドは固唾を飲んで結果を待つ。
「リングウッド、確かにお前の意見は正しい。戦争とは非常なもので残酷なものだ。それを加味してもお前の方が指揮官として相応しいと誰もが思うだろう」
肯定的な言葉がソサエクスの口から出るたびにリングウッドの笑みは大きくなっていく。
反対に俯くメルは徐々に確実に、握る拳が力強くなる。
メルとリングウッドを分けたのは貴族としての経験だけであった。
現実的に戦争を見るのであれば確かにリングウッドの方が正しい。
この時代、冷酷になれる方が正しくどれくらい非常になれるかが重要だからだ。
人としての尊厳がぞんざいに扱われるのが日常的であるからして、
この時代は非常で残酷であるのだ。
だから。
「だからこそ、指揮官をメル殿に任命する」
「「!」」
驚くのはリングウッドを含め、気弱な青年もであった。
リングウッドに指示していた貴族たちも同様に口を開ける。
納得できない。
理解できないのは勿論であるが、それ以前に彼らはその言葉が間違えであるとも疑う。
ザワザワと会議室が蠢く。
そして、騒ぎが収まらぬうちに目を閉じていたソサエクスが改めて結論を口にする。
「……悪いが結論は初めから出ていた。それは“彼女たち”の功績を加味したからだ」
彼女たち?その言葉に引っ掛かりを覚えるリングウッドは慌てる様にベガを睨む。
図られた、利用された。
つまりこれは出来レース。
「思えば、監獄に中立派の貴族がいたんだよね」
ガエリオは思い出したように呟く。
詳しく言うにそれはオリエスタという貴族。
結論は中立派とコンタクトが取れるということ。
「あの巨大な魔石を買ったのは何処の大貴族だったかしら~」
リリーナがこの場にいる和服の少女を見る。
あのような魔石を買えるのは余程の財力が無ければできないこと。
凡そ大貴族に連なる者たちでなければできないこと。
ここで都合よく結ばれるのは“二公同盟”。
「双方の意見は一致させた。“力づく”であるが同盟は結ばせてもらったぞ」
扇子で顔を隠し屈託ない笑顔を見せるベガこそ。
この同盟を結んだ立役者であり、ソサエクスに並ぶほどの発言力のある者だった。
「“力づく”であるが結ばせてもらったぞ」
「……ああ、本当に“力づく”であったな」
つまるところそれは“チート”を使ったと言うことなのだが、ソサエクス以外にその意味を理解できるものはいないだろう。
ゴホンと咳払いをするソサエクスは一つ尋ねる。
「ベガ殿は指揮をしないのか?」
「かかか、我はメルの下でしか動かんよ」
愛おしそうに、恥じらう乙女の様に――ではないが、いと可笑しくメルに微笑む。
ムスッとするメルは。
「……何で言ってくれなかったんですか?」
「経験じゃよ。残念じゃが、メルには貴族としての経験が足りぬ。まあ、それが武器でもあるのだが……」
夢見る少女でいてほしいとベガは願っている。
詳しく言うに、“現実を見た上で”夢を見てほしいと言うことなのだ。
「今のお主の力量では会議は踊れんよ」
「……分かりました」
それは先ほどリングウッドと戦って理解した。
悔しさでいっぱいになるメルであるが、ぽんと頭を撫でるのはベガ。
「メルはまだ強くなれる。後は任せるのじゃ」
そう言って席を立つベガは、にんまりと挑発するようにリングウッドを見る。
「不服そうな顔じゃのぅ」
「はぁ? 当たり前だろうが!」
机に拳を叩きつけるリングウッドは周りを威圧するが、ベガには効果がない。
竜の様に歯をむき出し、怒りと威圧を周りにまき散らすリングウッドと片や広げた扇で自分を仰ぐベガは濁流と清流。
「お主の不服としているのはメルの能力じゃろ?」
「軍人としての才能は俺の方が上だ!弱い奴の下につくなんて俺の王道に反する!」
「分かっておるわい、だから――条件を出そう」
グッと威圧するベガにリングウッドはゴクリと唾をのむ。
急にベガが大きく見えたのだ。
そして会議室であるはずのこの場所は既に盤上。
「期間は二週間。その間に――都市を一つ落とす」
「な?!」
リングウッドが驚愕するのも無理はない。
ベガとメルの軍勢はソサエクスが増援によこした兵を合わせ、四千人であるからだ。
どうあがいても、どう考えても都市を一つ落とすには少なすぎる。
ザワザワと周りの者たちは騒めき、不可能だと言うものもいれば、メルの力を信じる者もいる。
「お前、本当に出来ると思っているのか?!」
「かかか、そう思うからこその条件よ。不可能と思うじゃろ?メルには出来ないと思うじゃろ?かかか――それがお主の限界じゃよ」
パチンとベガは扇子を閉じる。
「お主に出来ないことをメルはやる。其れで文句はないだろう?」
この会議を支配するのはただ一人。
圧倒的カリスマを持ち今も妖艶に笑う一人の少女だった。
「いいのですか? リングウッド様?」
「何がだ?ミラン?」
会議室には気弱な青年、改めミランとリングウッドがいた。
静かな会議室、たった二人の貴族が副官たちを交えて話す。
「あの要求をのんだことです……」
「ああ、確かにな……」
リングウッドは先ほどの会議を思い出す。
拒否しようと思えばできたのだ。ベガの提案や、メルの傘下に加わる交渉など。
無視して強引に採決を取ればあるいは――。
「ふっ……なんでだろうな?」
「?」
クツクツと、クツクツと笑う。
それは小さな笑いであったがそれは次第に大きく、腹を抱えて笑うまで至る。
「フフフ、アハハハハ!」
周りにいる者たちはなぜリングウッドが笑っているのか分からない。
ただそれは、とても珍しいことであったのだ。
「リングウッド様……?」
「フフフ、何、少し昔を思い出しただけさ」
同盟を組む……ミランに答えるリングウッドは目にある笑涙を拭う。
今思えば、あの少女に一番感動していたのは自分かも知れない。今思えば、もっと違う選択肢があったのかもしれないとリングウッドは思う。
だから。
ああ、そうか。あの言葉を聞いて、俺はメルに期待してしまったのだな。
その時点でリングウッドは彼女たちに負けていたのだった。
悔しさがあるのは事実。
戦争も非常も知らない夢見る少女の下で働かなくてはならないこの現状を――。
「せいぜい楽しませてもらおうか?」
屈託ない笑顔でそう囁くのであった。
そのころ、メルたち一行は。
「それで?作戦はあるのかい?」
「無論じゃよ」
街をゆっくりと馬車が走る。
ベガとシフォンが向かい合うように座り、ベガの隣にメルが座る。
基本的には席順など無いにも等しいが、おおむねそのように座ることが多い。
「でも、四千ですよ?」
「心配するなメルよ。既に布石は打ってある」
「布石って……あ!」
口を開け、ポンと手を叩く。
「……マルゼン様のことですか?」
「かかか、正解じゃよ」
必然的にベガが打った布石はそれしかないのだが、それが意味するところが分からない。
疑問に思うのは当然であり、口を開くのはシフォン。
「でも、彼は中立派から派遣された軍で――?!」
「やっと気づいたか?」
「?」
気付かないのはメル一人。
蒼い顔をするシフォンはベガのこれまでの行動に納得がいく。
扇子でヒラヒラとベガは扇ぐ。
「野心を持つ者は嫌うのは当然じゃよ。処分に困っておったので助けてやったわい」
くひひ、と不気味に笑う。
それと同時に窓に目をやるのはベガで遠い戦場を見る。
つられて見るメルであるが、当然見える訳もなく。
ただ風景を堪能した。
「実に……実に“都合のいい人”であったぞ?」
ベガの“いい人”とはつまり、“消えても問題のない人”であったのだ。
強引に会議の主導権を握ったベガですが、当然ペナルティーはあります。
この章でそろそろやばいことになります。
残念ですが、ベガはこの世界から嫌われおり、ベガもまたこの世界を嫌っているので仕方のないことなのです。
次の更新は明後日です。




