同盟と侵攻
メルたちの方を先に書きます。
馬車はガタゴトと揺れ、ハーフエルフの里である南方の大森林を抜けた。
日は高く、度々村によっては補給してきたメルたちは――。
「メルよ。地名は覚えておるか?」
「えっと、バーガル監獄を中心に北方は鉱山都市ソルムード。東に大農作都市クロルセンですよね?」
「そうじゃ、追加で北東にある王都衛星都市スクラムも覚えておくとよいぞ。それと各都市の特徴は?」
「ソルムードは王国の武器庫と言われるほどの武器生産を特徴としています。クロルセンは郊外に広がる作物が現王国軍の食糧庫として、衛星都市スクラムは王都を守る都市としての機能がありますね」
「その通りじゃよ、メル。この旅の間によく覚えることが出来た」
「えへへ」
地理を勉強していた。
嬉しそうに笑うメルにベガは口元を扇で隠しながら褒め、その様子を見ていたシフォンが一言。
「ねえ、会議では何を話すんだい?」
それはメルたちの行動に疑問を持ったからで、大体グッテンバルグに呼び出される意味がないと思っていたから。
これに答えるのは資料を持ち、今も勉強中のメル。
「私も実のところ具体的なことは知らないのです。ですが」
「ソサエクス殿が緊急で呼んだ会議じゃ。凡その見当を付けるに“二公同盟”と“大規模侵攻作戦”じゃろ」
そのための予習としてメルはベガから都市の重要性について学んでいたのだ。
とは言え。
「……“二公同盟”か」
「かかか、戦況が傾いたゆえに中立派もやっと動いた感じじゃろう。そういうお主もどう思っておる?」
「……」
快活に笑ったベガは未だ見えないグッテンバルグを見る。
優雅に馬車にある紅茶を飲むのはシフォンだ。
カチャリとマグカップを置く。
「それで、メルちゃんはどう考えているのかな?」
「え?私ですか?」
資料に目を通していたメルは不意の言葉で目を丸くする。
しばらく、頭をひねらせ考えた結論は――。
「はい、いいと思いますよ?」
「……」
「かかか」
シフォンの質問は“二公同盟”についての意見で、中立派にある意図についてだった。
今さらながらの参戦はある意味不気味で何を考えているのか分からない。とは言え、好意的に接してきたのは事実であったため彼ら中立派を非難することはできない。
「タイミングが良すぎる……と考える方もいますが、やっぱり、ただ見ているだけは嫌だったんです!見ているだけでしたら、この同盟は成立しませんからね」
「……見ているだけ……ね」
「くくく、根拠は無いがな。メル」
訝し気な目を送るシフォンと違いベガはクツクツと笑いながらメルに同意する。
それは彼らが傍観者ではないと言う意味であり、舞台に立つ役者の一人という意味であった。
故にベガは同意したのだが。
「じゃあ、彼らは一体何が狙いだい?」
「さ、さあ?」
「かかか、メルに尋ねるばかりでなく少しは考えたらどうじゃ?」
その言葉に喉を詰まらせるシフォンは無言のまま窓の外を再び眺めるのであった。
ガタンと車輪が鳴り馬車は止まった。
「う~ん」
窮屈なとは言え、貴族専用のその馬車は実際に広くつくられたものであったが気分的な問題でメルは伸びをする。
メルを照らす正午の太陽は熱さを伝えると共にグッテンバルグの風景を照らした。
巨大な門はグッテンバルグの威厳を、広大に広がる平野はグッテンバルグの自由を象徴していた。
風が吹き、新緑が舞うこの場所で――。
「帰ってきましたよ!グッテンバルグ!」
大きく叫び、門をくぐるのだった。
しばらくして手続きが終わったメルたちは騎士たちに休息を与え、しばしの自由時間を堪能する。
「少し早く着きすぎたか?」
「そのようだね」
「では、買い物をしましょう!」
メルも年ごろの娘である。
こう言った感情を抱くのは当然であり、時間も空いていると言うことでベガもそれに了承。シフォンも護衛としての役割を果たすべくメルとベガについて行くのだが――。
「ようよう、お嬢さんたち」
声をかけられるのは必要最低限の装備を整えた冒険者であった。
その数は五人で草臥れた服を着ている。
「ん?もしかして我ら、絡まれておる?」
「そのようだね」
そう言って素早く口を動かしたシフォンと周りを確認するように笑うベガ。
だが、それに待ったをかけたのはメル。
「えっと、冒険者の方ですか?」
「ああ、そうだぜ……」
下心のある笑みを浮かべるのは先頭の男。
その笑みに気付いているのか気付いていないのか分からないがメルは笑って答えた。
「では、銀貨を払うのでグッテンバルグの案内をしてくれませんか?」
「あん?」
「正当にお金を得るには丁度いい仕事です。もしよろしければなんですが――」
申し訳なさそうにそれでも彼らの身を案じる様に丁寧に対応していた。別にメルが下手に出ているわけではない。
ただ単純にこの状況でメルは優しすぎたのだ。
「……はぁ、お嬢ちゃん。そういうことは状況を見てからにしてほしいなぁ」
「ははは!そうだぜ、お嬢ちゃん!この場面でその言葉は正しくないぞ!」
そう言って状況を説明しようとしていた冒険者の一人は改めて説明しようとして、武器を抜こうとして――
――ヒヤリとハッとした。
それは冒険者を経験するうちに幾度となく助けた危機感と直感がそうさせたのだ。
気付いていない彼らはある意味気付いたのだろう。
背後の〈スケルトン〉が冷たい剣を持っていること、シフォンの背後に巨大な氷の魔法が無機質に死の意味を持つこと。
慌てないのは未だに状況が呑み込めていないことと動いたら死ぬと言うことを理解していたから。
冷や汗がゆっくりと手に持っている武器に伝わる。
動けない。
未だ動けず。
だからこそ、静かに視線をメルに移すことしかできなかった。
「すいません、こんな状況なので案内をお願いしてもいいですか?」
困ったような顔をするメルの背後では、口元を扇子で隠し愉悦に笑うベガと虫を見る様に冷たい目をしたシフォンがいた。
「いい買い物が出来ましたね!」
メルの背後を付き従う様に歩くのは上機嫌のシフォンと上品に歩くベガだった。そしてその後ろは荷物を持った五人の冒険者が疲れたように歩く。
「彼らのお陰でいい実験材料が手に入ったよ」
「我も色々と観光できて楽しかったぞ」
満足するメルたちから逃げる様に男たちは忍び足をしたのだが。
「待ってください」
「「「ひい!」」」
ビクつく彼ら。それに対してゆっくりと歩み寄るメルは追加で硬貨を渡した。
驚く彼らにメルはにっかりと笑う。
「情報提供ありがとうございます。それから荷物持ち、ありがとうございました!」
「「「……」」」
本当に、久方ぶりに彼らは真っ当なお金と感謝の言葉をもらった。
それから彼らは無言でメルたちと別れた。
表情は分からない。だが、その背中が何処に向かおうとしているかはメルにとっても物語としてもあまり重要ではない。
つまり、神のみぞ知るのである。
「さて、粗方の情報は得られましたね」
「そうじゃな、やはり浮き彫りになるのは食糧問題か……」
「それだけじゃないよ。一番の問題は“冒険者の流失”だね」
都市を見回り思ったことを言い合う。
これら二つは戦争によって起こった問題だと言えるだろう。食糧問題については言うまでもなく。冒険者の流失は戦禍から逃れる為に彼らが自分で出ていったことだった。
とは言え、前に来た時よりも活気が良くなっているのは確かであったしスラム街も縮小しているのが分かった。
「幸い、ソサエクスさんは最上位冒険者なので流失についてはソサエクスさんの力で頑張ってもらいましょう」
「とはいえ、その問題もすぐに解決できることではないじゃろうしな」
結論が出ているベガはカツカツと今日泊まる宿屋に向かって歩き出す。
先導するようにベガが歩み、もたつきながらメルも歩む。
付き従うのはシフォンでゴホンと咳払いをする。
「まあそれよりも重要なのは、明日の会議だよね?」
「……あ!」
メルは完全に忘れていたようで、固まる。
前を歩くベガもクスリと笑い、振り向く。
「そうじゃったな、というわけで特訓じゃよ。メル」
「え……え~~~!」
買い物を終え、夜の会議まで勉強するのであった。
会議の描写が下手ですがご了承を。
誤魔化しながら書きました……。




