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三者の戦準備

生存報告です。

それとあとがきには、少しのネタバレがあります。

もしかしたら、改稿するかも……。

「では皆さん。行ってきます!」

「後のことはお主らに任せたぞ?」

「じゃあね。スレイン、レオジーナ」


 馬車に乗り込むメル、ベガ、シフォンの三人。

 昼過ぎの時間で数人の護衛と豪華な馬車がバーガル監獄からグッテンバルグに向けて出発する。

 しばし、騎士団と離れることになった彼らは窓の外を見ながら一昨日の朝のことを思い出すのであった。


 壮行式については形式的な意味合いが強く。軍旗の授与は特にこれといった事件は起きずに終わった。

 とは言え。

 マルゼンの兵は五千、それにメルたちが出した兵も合わせて六千の規模の軍が砦を出立した圧巻の光景はそれだけで驚きのこと。

 徴兵された農民、軽い防具を付けた兵士、それから騎士の恰好をした精鋭隊はマルゼンとイナバを先頭にソルムードへと侵攻。

 迷いのセリフもない彼らは朝日に見送られながら冷たい風と共に死地へと向かった。


 パカラパカラと馬車は進む。

 ここは平原で未だに小さくなったバーガル監獄が見える位置。

 暇そうに会話をするシフォンとベガ。

 それは自然に壮行式の話になった。


「それにしてもあの旗は何だい?」

「我からマルゼン殿に対しての贈り物じゃよ」


 シフォンの言葉にベガは短く答える。

 軍旗は大きく金糸でマルゼンの家紋が描かれていた。

 そしてそれらに関してマルゼンは好意的な態度を示したのは言うまでもないこと。

 彼の顕示欲は強く、“主役は自分である”と誇示するような旗は戦場に置いて誰の軍が来たのかを知らせるにはもってこいであった。


「それにしても些か分不相応であると思うけどな」

「そうですか?私はベガちゃんからマルゼン辺境伯は“いい人”でそれなりの戦果を挙げた人だと聞いていますけど……」

「……武勲を上げた“いい人”か……。五千の兵は普通簡単に用意できるものじゃないし、彼は戦果を上げた勢いのある人だよ?」


 彼の地位は周りの領地を奪って作ったものだ。

 そのことを知らないのはメルで――。


「かかか。だからこそ“いい人”じゃろ?」


 冷たくシフォンはベガを睨む。

 対してベガは扇子で口を隠し笑う。

 のん気にして気付いていないのはメルだ。


「援軍に来て下さったのは確かですし、出兵した千人の兵士様たちもソサエクス様が増援にとよこした者です。……出来るだけ犠牲は少なく済ませたいです。もしかしたらこの兵数差を見て敵も降伏してくれるかもしれませんから……?」


 別にメルは千の兵士に死ねという意味で言ったわけではない。

 雑に扱っているように見えるかもしれないがそれでもある程度、犠牲が出るのは仕方がないと思っているのは確かであった。

 確実にメルは現実を意識し始めていた。


「……」

「メルの言う通りじゃよ、シフォン」


 シフォンや今も砦に残り働いている幹部連中は全員、マルゼンのことを良く思っていなかった。

 それは滞在一日にして理解できることで、彼の高圧的な態度、急な訪問による食料と寝処の確保は今思い出してもよく頑張った言えるほど。

 元々砦に有った備蓄が無ければこれらの急な対応はできなかったと断言できる。

 そしてこのことに関してメルもベガも理解しているはずであるのが――。


「それにしてもあの勲章はすごかったですね!鷲の勲章や色々な形の勲章が有ってビックリしました!」

「うむ。素晴らしく小学生並みの感想であるが、同意できるぞ」


 キャッキャと二人は楽しそうに会話をする。

 ため息をつき呆れるシフォンであったがベガの“いい人”の意味を理解したのは彼らが戦争した後に分かることだった。




「マルゼン様、あたりが暗くなりました。そろそろ野営の準備をした方がいいかと……」

「ふむ、そうするか」


 マルゼン軍は砦から北に進み小高い丘で野営をすることにした。

 ほとんどの兵が歩き疲れているのが目に見え、馬に乗った彼らも同様に少なからずの疲労があった。

 丘からマルゼンは遠くに見えるソルムードと森に囲まれた廃城を見る。


「知っての通りここは建国紀に出てきたグラン廃城がある場所です。お暇であるのならば観光でもいかがでしょう?……」

「馬鹿を言うな。我らは観光に来たわけではない。それと観光をするのならばあの城を落してからだ。……それよりもあの者たちの動きは?」

「……特にこれと言ったことはないです。ただ、バーガル監獄の方向を気にしていました」

「ふん、所詮は臆病者か……」


 馬に乗るマルゼンの頬を千切れた草が夜空に舞う。

 彼の言う臆病者は兎獣人である少女の事。


「他の連れてきた千の兵たちもしきりに気にしているようですが……」

「特に問題ないだろう。明日に備えて休息、それと見張りを建てるように伝えろ」


 今も鋭くソルムードを見るマルゼンの背後で、数千の簡易テントが松明に照らされながら蠢くように建てられた。




「お父様!」

「どうしたアレク?」


 執務室で書類仕事をしているアガレスに六才くらいの男の子が飛び込んでくる。

 父親譲りの黒い髪を団子の様に纏め、上等な衣服は貴族の子であると平民でも分かるくらいに上等であった。


「敵が!敵兵がいました!」


 一般的な子供であればそれは嫌悪するべき事態だ。

 敵兵がいるとは即ちこれから戦が始まると言うこと。

 けれどもこの子は違う。


「また武勲が建てられますね!」


 そうやって笑うアレクは純粋であった。それに対してアガレスはいつも叱るのだ。


「……アレク、武勲を建てると言うのはいいことばかりではないのだよ」

「え?どういう意味でしょうか?」

「……そのうち分かる時が来るだろう。そんなことよりも」

「ええ、分かっていますわ。あなた」


 アレクの後ろに突然現れる女性は貴婦人で、気づいた時にはアレスの手を取っていた。

 金髪の長い髪と彩られたドレスは妙齢な女性とは言え、実際はそれよりも年を重ねているのだが、そう思われても可笑しくないほどのプロポーションと顔立ちをしていた。


「ご武運を……」

「ご武運を!」


 静かに冥福を祈る妻、ソリティ。

 元気に笑顔で見送るのはソリティとアガレスの子供であるアレクだった。



予定通り、マルゼンが死ぬところまで書きました。

咬ませにしてはかっこよく書けたと思います……。

あと半分で第三章が書きあがる予定です。

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