開戦Ⅰ
どうやって勝つのか考えています。
「敵の砦に動きなし。警戒を続けましょうか?」
「いや、しなくていい。歩兵との合流を優先しろ」
小高い丘で砦を見るのはフードを被った暗殺者の一団と騎兵隊。
星の明かりが眩しくこの平野を照らし、丘と反対側にある森は薄暗く陰っていた。
「ところで、グリンロードよ」
「ん?」
指揮官もとい、暗殺団の統領が一番腕のいいグリンロードという男に尋ねる。
静かな声、けれどもそれは殺気をはらんだ声であり静かな夜の世界にひどく響いた。
「私は“騎士を殺せ”……と言ったよな」
「ああ、そうだぜ。だからこそあの姫様を狙った。殺せなかったのは残念だが役割は果たしたと思うぜ?」
馬の上で他手綱を力強く持つ。
殺気により馬が暴れそうになるのだがそれは力によってねじ伏せられる。
哀れな馬はしばらくこの殺気に満ちた極寒の世界に耐えなくてはならなかった。
「貴様……」
「確実に当てるにはあの姫さんを狙うしかなかったのは事実だし確実だ。例えそれで死んでも砦奪還という最重要任務は終える訳だしなぁ」
ニヤニヤと笑う男に冷たい風が吹き――キン!と音が鳴る。
金属がぶつかる音は馬上で響いたもので直剣と短剣が交わる音。
チラリと見える男の腕の入れ墨は王冠を象っていた。
「お、お二人とも!そこまでにしてはくれませんか?!」
勇敢に二人の前に出てくるのは伝令をしていた男だった。
馬上の二人を見上げる形になりながらも何とか場を鎮めようと努力する男。
そのかいもあってか、興のそがれたグリンロードと冷静さを取り戻した統領の男は武器をしまう。
「い、今はまだ任務を終えていません。そ、その辺にしておいた方がいいかと……」
「……」
「へいへい」
冷静になる統領の男に対してグリンロードは不真面目に返答する。
彼らの喧嘩はこれが初めてではない。誰かが統領を冷静にさせるからこそこの喧嘩は喧嘩のままで終わっているのだ。
「……次は無いと思え」
「分かってるって」
軽口をたたくグリンロードに若干の怒りを覚える統領の男。だがそれは夜の冷たい風が露散させる。
風が吹いた。それによって月下にさらされるのは二人に共通する王冠の入れ墨であった。
静かな平原でにらみ合うのは砦にいる反乱軍と攻撃を仕掛ける王国軍だ。
王国軍の歩兵隊が集まり、今か今かと火蓋を待つ兵士たち。
固唾を飲んで塔の上で見るのはメル。
涼し気な顔をする統領の男は平原で機会を待っている。
この場でメルたちからの攻撃はない。それは時間の経過がメルたちの味方であり望んでいるからに他ならないから。
そして互いの使者が――王国軍の使者が統領の男に、使者シュタイヤがメルに近寄る。
「……どうだった?」
「指揮官はメーテル・ラ・シュレインゴール。砦の管理者を名乗る少女であります」
「どうですか。シュタイヤさん」
「敵伏兵はおらず、敵五百で間違いないかと」
互いの降伏勧告をする使者であるが、情報収集に余念はない。互いに相手の状態を確認する。
そして勝利条件を確認は指揮官である彼らが行うこと。
かたや指揮官の確保と砦の奪還。
かたや敵兵の撤退と砦の防衛。
「……これ以上の精神的な圧迫は意味が無いか。後は指揮官と兵力がものをいう」
「時間の経過は私たちの味方です。ベガちゃんたちが帰るまでにここを守り切ることが出来れば……」
統領とメル。
互いに遠くの敵陣を睨んだまま呟くそして――
ダン!
太鼓の合図とともに戦争は始まった。
丘の上、攻めて側の陣で話す二人グリンロードと統領。
「で?作戦はあるのか?」
「……指揮官の混乱が主な作戦だ。目の前で味方が打たれるのは精神的に来るものがある。そして、門に対してちょっとした仕掛け」
「勝てるのか?」
「同数に対しての攻城戦は圧倒的に不利であるが、出来る限りのことはした。後は俺たちがどれだけ頑張れるかだ」
彼ら騎馬兵は未だに丘の上で戦場を見ていた。
それは彼らの出番が門を開けてからであり、今の内は温存しておきたいからだ。
騎兵隊の恐ろしいところはやはりその機動性、そして馬上から攻撃する高さ、それからその突進と対する恐怖心である。平野では彼ら以上の脅威はないが逆に言えばそれ以上もないのだ。
「これは残党狩りの意味が強い。それと平野で敵対することを考えての騎兵隊だ」
「なるほど、だからそれ以外の四百人に頑張ってもらうわけか……」
グリンロードは納得しながら竜が飛ぶその戦場を見つめていたのだった。
敵を強く見せたい。




