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題目

メルの裏でベガが活躍する予定です。

「えっと劇ですか?」


 スコットが尋ねるのは牢獄に入る少し前の話し。

 中庭を歩くのはメルとスコット、それに加えてイナバとシュタイヤの計四人だ。


「はい、今考えてみればこの監獄は精神的な負担が大きすぎると思うのです。食べてみて分かりましたが食料も美味しくないですし、睡眠だって満足に出来ない状態です。そんな生活の中では心を狭くする一方であり、とても人を許せる状況ではありません」


 つまり、メルは彼らが仲良くなるためには娯楽を増やすか生活の改善が必要だと思ったのだ。それは正しく一定の効果は期待できるだろう。

 とはいえ――


「……どれくらいの効果があるのでしょうか?」

「さ、さあ?でもそれによって部隊間の衝突や精神的不安定による暴力は減ると思いますよ?」


 後ろで話すシュタイヤとイナバは疑問を持ちながらその話を聞く。

 その効果は今のところどれくらい効くのかは分からない。

 暗中模索する四人は今のところ監獄間の雰囲気を良くする方法としてメルの案を採用することにしたのだった。




「さて、着きましたね」


 まず初めに彼らは王国軍を良く知る人物と会うことにした。

 一日中暗いその地下の牢獄は時間間隔を狂わせ、朝方のこの時間でも寝ているものが多くいる。


「それにしても臭いですね……」

「糞尿などは部屋に置いてある桶にしますからね」


 説明するのはスコットでチラリと部屋の隅に置いてある桶を見る。

 一人一部屋である牢獄は鉄格子と湿った石壁に覆われており、食事は朝と夜の二回だけだ。

 騒ぐ囚人がいないのは出してくれと叫んでも出してくれないことを理解しているのもあるが、一番の理由は看守に叱られるからである。


「お久しぶりです。フランシスさん」

「これは、これは、久しぶりでございますメル様。こんなところまでわざわざご足労いただきありがとうございます」


 騎士のように立派に挨拶をするフランシスは片膝をつく。

 平民であるフランシスは正しい礼儀と言うものを理解していなかったが、それでも誠意とメルに対して敬いの気持ちがあるのはその姿勢で伝わる。


「そんなにかしこまらなくてもいいですよ。私はフランシスさんに頼みがあってきたのですから」

「頼み……ですか?」

「そうです。人を集めてもらいたいのですが……人数は三十人くらいで条件は建国紀を知っていることと劇について知識のある者です」

「建国紀ならば、誰でも知っていると思いますけど……劇についての知識ある者とは?」

「どんな知識でもいいです。劇を実際に見た人や……劇団に所属していた人などです」


 考え込むフランシスは心当たりがあるらしく劇団員の問題は解決したようだった。




 サンサンと降り注ぐ太陽の下で集まるのは計40人にも満たない集団。

 中庭に平然と並ぶ彼らは久方ぶりの水浴びをして、清潔な衣服を纏っていた。捕らえられた姿のまま牢獄に入れられていたので鎧とその下に着る麻布の衣服は洗濯され干してある。


 ビュウウウウ


 風が吹き、体が清潔になったことで爽やかな気持ちになる。

 久しぶりの太陽に見守られながらゴロンと中庭の草と転がりたい彼らであったが。


「というわけで、皆さんには劇団員としてこれから頑張ってもらいたいと思います。題目については皆さんがご存知の建国紀をやります。目的としては監獄を守る皆さんと仲良くなってもらうことが目的で――」


 演説するのはメルで劇の重要性を説いていた。

 熱弁するメルであったが、その袖をイナバが引っ張る。


「メル様、一つ宜しいでしょうか?」

「であって――ん?どうしたの?イナバちゃん」

「題目は変えた方がいいかと思います」

「えっと、どうして?」

「確かに建国紀は誰もが知る有名な物語です。ですが、そうであるからこそ一度劇を見たものが多くいると思うのです」

「う~ん、確かに」

「それに一度見たことがある者はメル様の劇と前に見た劇を比べるかと……そうであれば、悪印象を抱くかもしれません」


 限られた資源と人で劇をするメルたちは本物と比べて見劣りするのは確実だ。どうやっても文化祭レベルが関の山のメルたちに対して、彼らはプロなのだ。


「では、どうすればいいんですか?」

「簡単です。物語を作ればいいんですよ」


 難しい顔をするメルであるが、なるほどと納得する。

 つまり、物語性で客を引き込むと言うことだ。誰もが聞いたことがある物語であると、どうしても役者や小道具に目が移る。話の展開が分かっている以上そちらに目が行くのは当然のことだ。


「納得しました。……しかし、誰が物語を書くのかが問題です」

「その点は心配ありません。実際に英雄の活躍を見たものが執筆する予定となっていますので……」

「それでしたら安心ですね!実際に目で見た人ならば、描写が鮮明ですし何より信憑性がありますからね!」


 うん、うんと頷くメルは誰が執筆するのかは聞いていなかった。

 少し考えれば分かることなのだが――


「曰く、その人は英雄の参謀的懐刀的な立ち位置の人らしく、その英雄様の後ろで戦っていたらしいですよ?」

「え?シュタイヤさんも知っているのですか?!わあ、ぜひ会ってみたいですね!」


 喜ぶメルは本当に分からなかったのだ。


ちょっと話が詰まりつつある。

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