心の癒し
単調な話が続きます。
「えっとつまり私の仕事は監獄内の意識改善……なのかな?」
「いえ、自分が命令されたことはただ単にメル様のお手伝いをしろと……」
この監獄内でメルに命令できるものは誰もいない。
つまりメルの仕事とは自主的な行動で問題を解決すると言うことだった。
確かに書類の確認や許可なども仕事のうちに入るだろう。けれども今のところそう言った仕事はベガが担当することになっているし、ベガはメルに書類仕事よりも重大な仕事を任せたかったのだ。
「うん、やっぱり最大の問題は皆さんが仲良くないことですね」
「……そこまで重い問題ですか?」
そう呟くスコットは監獄内の廊下を歩いている。
先導するのはメルで目的地は聞いていない。
「重要性に関しては判断できません。けれども、元は皆さん同じ国に住む仲間なのに争うっていうのはおかしいですよ。それにベガちゃんは先のことを考えて私に託したのだと思います」
「先、ですか……」
メルもベガがどれだけ先を見通しているのか分からない。だがメルはベガのことを確実に信頼している。
ベガは得体の知れない、素性の知れないことはあるが、それでも今は同じ王国軍と戦う仲間だとメルは思っている。現に今の状況は半場ベガが作ったと言っても過言ではない。
「さて、着きましたね」
そうこうしているうちに着いたのは廃材置き場だった。
要らなくなった布や壊れた木材や石材があり、別の言い方をすればゴミ捨て場と言い変えられる場所。
スコットはなぜ自分がここに連れてこられたのか分からなかった。だが、矢継ぎ早に行動するメルはスコットに疑問を挟む暇もなく指示を出す。
「取りあえず、布を集めてもらえませんか?どんな大きさでもいいので、頑丈そうな奴を」
「?」
訳も分からずメルの指示に従うスコットは布を集める。汚れや糸のほつれがあるものしかなく、出来れば綺麗な布の方がいいが今は仕方ない。
「う~ん、後は何が必要でしょうか?あ、場所がありませんでした!」
思い出したメルは置き場所がないことに今さらながら気づく。
未だにメルが何をしようとしているのかは分からないが、皆が仲良くなれる方法を模索しているのは分かっている。その一環として布を集めているのだ。
困っているメルに丁度良く声をかけるのはこの二人。
「場所の提供であれば問題はありません」
「えっと、ベガ様が用意して下さったみたいです……。他に許可が欲しいものは私たちで準備します……」
流石に二人だけでは心もとなかったベガはメルに助け人をよこした。
シュタイヤとイナバである。
「久しぶりでございますメル様」
「久しぶりです!シュタイヤさん!」
互いに挨拶をするメルとシュタイヤは握手する。美形な二人が握手するだけで絵になり、さしずめ再開を果たす王子とお姫様と言ったところだった。
逆に初めて顔を合わせる彼らはというと――
「は、初めまして、ス、スコット様……」
「様付けなんてよしてください。そして、そんなに怖がらなくてもいいんですよ」
スコットとイナバも挨拶をしていた。
けれどもぎこちなく、一方的に怯えるイナバに対してスコットは困った顔をしながらそれに対応する。
震えるイナバにどうしたらいいのか分からないスコットであったが。
「剣をイナバさんから見えないようにして下さい」
「え?」
「彼女は極度の刃物恐怖症なんですよ。ベガ様が近くにいればその恐怖が和らぐらしいですけど」
困惑するスコットを助けるのはシュタイヤ。
言われた通り武器を隠すようにするとイナバの震えは収まった。
「はあ~、ありがとうございます。目を合わせなければ大丈夫なんですが、一度目に入ってしまうとそこから視線を外すことが出来ず、固まってしまうんです……」
「ですからイナバさんは足元を見ながら移動するのが癖みたいなんですよ」
深呼吸をしながら下を見るイナバに仕方がないと弁解するのはシュタイヤで、苦笑いをしている。
多分であるが、過去に起きた何かしらの出来事が原因だろう。だがそれを聞く無粋なものはこの場にいない。
仕切り直しをするのはメル。
「とにかく、話を進めましょう。私は皆さんに仲良くなってもらうためにあることをしたいと思います」
「あること?」
疑問の声を上げるスコットは周りを見渡し自分だけがこの疑問を抱いているわけではないと知る。
続けるメルは彼らに向かってコクリと頷く。
「根回しが必要になると思うのですが……」
「そ、その点はベガ様がしっかりとカバーしているそうです。今後に差し支えない範囲の備品や人手でしたらいつでも貸してくれます」
流石、ベガちゃん!そう顔に出るメルは嬉しそうに次の目的を定める。
「であれば次なる目的地は牢獄です!」
そう指さすメルであったが――
「メル様……逆です」
閉まらない彼らは捕虜たちの問題を解決すべく、牢獄へ向かうのだった。
ポツリポツリと雨水が滴り、床に落ちる。ストレスをはらむその湿気と薄暗い地下を歩むのはメルとその一行。
地下であり太陽の光が届かないその闇を照らすのは手元にある松明だけで、時折聞こえるのはうめき声に似た獣の叫びだった。
「まだ、一日目ですので精神に変調をきたしたものはおりません。ですが、死の恐怖によって少しおかしくなった者がおりますのでご注意を」
そう忠告されたのは牢獄の外で番をする衛兵、少し前に聞いたそのセリフを思い出しながら進むメルたちは不気味な雰囲気と緊張感を持ちながら前へと進む。
「め、メル様、本当に彼らはやってくれるのでしょうか……」
「や、やってもらわなくては困ります……!手の空いているのは彼らしかいないのですから!」
ビビるイナバを叱咤するようにメルは返事をする。
先ほども言った通り、メルには人手が欲しいのだ。そのためにはこの牢獄にいる彼らの力が欲しいし、何より彼らでなくてはならなかった。
「こ、これも“劇のため”!皆さんと仲良くするためです!」
そう決意するメルは牢獄の階段を一歩一歩下りるのであった。
戦闘が開始されるのはだいぶ先かな……




