傾く一手
あまり派手な戦闘シーンがないですがご了承ください。
朝の会議が終わり、各々の仕事に就くのは丁度朝の八時を回った時だった。
既に朝の支度が終わったものが多く、慌ただしく働くのは商人や冒険者などの移動がある者たち。
対して今のメルたちは遅くなった朝食を今、食べていた。
「モグモグ」
メルを囲むように座るのはベガやシフォン、騎士団長のスレインやレオジーナだ。
彼らが今いる場所は兵士たちが食べる一般的な食堂、大衆食堂といった趣の場所であった。
とは言っても、それよりも遥かに劣る携帯食料やぼろ付いた机や椅子などで外装は悪く、石の壁がジメジメとした湿気をはらんでいた。
劣悪な環境、そう言っても過言ではない場所で彼らが食事をとるのはただ単にメルの好奇心によっての気まぐれと、兵士たちの生活を知りたかったゆえの判断だ。
「――メルよ。聞いておるか?メル?」
「え、あ、ごめんなさい……」
メルはどうしたら捕虜たちとオリエスタたちが仲良くなれるのか考えていた。それによってベガたちの話に集中できず、注意される。
「はあ、もう一度説明しておくぞ」
「第一騎士団スレイン、一応ですが警戒網を張りました」
「第二騎士団レオジーナは監獄の警備に徹しています。今のところ問題はありません」
「ボクの方からの説明はないかな?魔法的な攻撃も妨害も今のところないみたいだしね」
オリエスタたちの前で話さなかったのは一応、彼らを完璧には信用していなかったが故だ。
勿論そのことをオリエスタたちも理解しており、今この場で秘密裏に話している。
防音の魔法をかけ、談笑するように話す。
「えっと、警戒網というのは?」
「敵の襲撃を知らせるための網です。早馬で一時間の距離で敵の襲撃を知らせる役割があります。……眼前に迫っている敵の前で作戦を立てる暇はありませんからね」
「警備についての具体的な説明は捕虜の監視と喧嘩の仲裁と言ったところです。加えて魔物や王国軍に対しての砦防衛の任も付いています」
「ボクが言ったのはさっきと同じ、魔伝の通信や魔法的な反応を監視するための仕事だよ」
メルの知らないところではあるが彼らはしっかりと働いていた。
それこそ少ない人数で、交代しながらであるがそれでも仕事量はとてもではないが多かった。
「……やっぱり人手は欲しいですね」
「冒険者たちも一応手伝ってはくれますが、人数が足りないですね」
答えるレオジーナはため息をつく。
元は千人で警備していた監獄なのだ。今もやっと警備できているのは冒険者たちのお陰である。だが、今はその半数が補給や商売のため監獄の外へとでかける。
「ゴブリンの手も借りたいほどなんですが……」
「まあ、仕方なかろうて」
扇子でゆっくりと扇ぐベガは次なる一手を考える。
そして閃くのであった。
「かかか。メルならばできるじゃろうな」
「えっと何がでしょうか?」
「“心に余裕を”じゃよ。許すと言うのはそれがなければできぬことじゃ」
そう言って周りを見る。
シフォン、レオジーナ、スレイン。
目で尋ねるのは時間があるのかと言うことだ。
その答えは――
「というわけじゃ、雑務は我がやっておくからメルはその方面を任せるぞ」
「え?任せるって「ほれ、呼んでおるぞ?」」
顎でしゃくるベガの先にはメルを待つスコットがいた。
苦笑いをしながら待つスコットも何をしていいのか分からなかったが、それでも騎士団長であるスレインの命令であるが故、逆らえなかった。
名残惜しそうに、けれども仕事だと割り切るメルはそのまま連れて行かれるのであった。
きっちりと完食しているのはメルの食事だけ、後の者たちはその場に残って食事を続ける。
完全にメルの姿が見えなくなり、声が届かないと判断した時であった。
パシンと扇子を閉じるベガの瞳は黒くぎらついていた。
「さて、ここからは戦争の話じゃ」
その言葉と共に彼らの雰囲気は一変したのだった。
豪華な美が計算されたように並んでいた。
照らすシャンデリアは隅々まで光を届け、部屋の中央に置いてある小さな丸机もその存在を主張しながら、邪魔にならないよう適度な美を持っている。
そしてそれら全てを見守るのは壁際に飾ってある大きな絵であった。過去の栄光を描いたその肖像画は美酒に酔いしれており、その栄華が未来永劫まで続くような錯覚を起こした。
「ほほほ、リオン様。マチェスの腕を上げたようじゃの」
「……」
部屋にいるのは年齢の違う男が三人。
白い髭を己の膝丈まで伸ばした老人と女性のように長い髪をストレートに下ろす中年、最後にリオンだ。
マチェスという名前の盤ゲームを楽しむのは一番年上である老人、ゆったりとしたローブと高級な――学者然とした服装は彼の役職を表したもので孫を可愛がるようにそれでも遠慮のない鋭い一手を指す。
「ほお、中々にいい勝負ではないですか?」
横から口出しする中年は紅茶を味わいながら、それでいて優雅に上品に窓辺でそれを観戦する。
彼の役職は一目見て分かるもの、金と白を合わせた最高級の鎧とそれに恥じぬ剣が彼の功績と立場を表す。優雅に楽しむ様を見るに彼の育ちの良さと心からこの時間を楽しんでいるのが窺い知れる。
「砦の駒を落されたのは痛いところじゃのぅ。姫の駒も成ってしまった以上放置するわけにもいくまいて」
「……ですが、代わりにバッカス様は三つの大駒を成らせています」
リオン達が遊んでいる遊技は異世界独自のもの、小さなゴーレムで作られた駒は指示の通り自分で動き攻撃する。それに加えて魔法使いなどの異世界ならではの駒もある。
ルール的には将棋と似ているのかもしれない。だが、若干な差異があるもののやはり頭脳がものをいうゲームだ。
聞こえるのは駒を動かす音と紅茶をすする音。悩むバッカスはチラリと横眼で中年の騎士を見る。
肩をすくめながら答えた。
「ともあれ、この戦局では駒を一つ向かわせなくてはなりませんな」
「うむ、儂も同意見じゃよ。騎士団長ロンドル、問題はどの駒を動かすかじゃ」
白髭の老人バッカスは髭を触りながら考える。
対してロンドルの方は答えを得たのか、静かに盤面を見ていた。
リオンもラフな格好、高級な軍服に身を包みながらバッカスの差す一手を待つ。
貴族のゆったりとした時間が流れる。
それは正しく、昼のお茶を楽しむ老人のようにゆっくりと――まるで内戦中だと思えないほどの時間が流れる。
しばしの長考、あるいは少しの考慮の時間と共に一手を指す。
感嘆するのは騎士団長のロンドル。
「……なるほど、そう指しますか」
「さてさて、どうすしますか?リオン・“リニエスタ”殿?」
老獪に笑うバッカスと沈黙を保つリオンの対局は続いた。
僅かな熱と確かな重さを伝えるのは一枚の鱗。
真っ赤な、それこそ焔竜の鱗だと言われても疑わないくらいの赤さと高度を持った鱗を持つのは会議室を守る一人の衛兵。
「……本物?」
「分からん」
今の勤務を放り出して鱗を鑑定するが、残念ながら彼にその真偽の判定はできない。
直観的に判断するならばそれは間違えなく焔竜の鱗であり――
「あの話って、もしかして……」
それと同時にベガの話を信じる根拠になる。
半信半疑に変わる今だが、持っている鱗がその話を肯定する。
「さてな、取りあえず給料分の仕事はしようか」
「あ、おい」
そう言って奪うのは鱗をもらった衛兵だ。
ひったくるように、素早い動きでそれは暗に鱗をどう見ているのかを知らせる。
「っ!給料分って、お前分かっているのかよ」
「どれくらいかは分からないが、今日の分の酒はおごってやるよ」
監獄の衛兵たちの士気は高かった。
それは正しく勝ち戦に臨む兵士のようであったからだ。
内政チートは難しい。
チーターと書いておきながら爽快感があまりないです。
う~ん、この作品って非テンプレなのでしょうか?
一人称が書けないのが致命的ですね。




