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ちょっと前の話

強敵を出しました。

 少し時間は巻き戻る。


 里で報告をするのはメルだ。

 いつもの会議室で円になって座る彼らはメルを非難する。

 だが――


「騒がしいぞ」

「し、しかし族長!」

「捕獲しろと?我らではあの竜を殺すこと出来ないのじゃぞ。それでもそれ以上を望むのか?」


 反対の声は出なかった。

 焔竜がいなくなり治療に専念できるハーフエルフたちは取りあえずの滅亡は免れたのだ。

 確かに竜を崇拝するというのは文化的なものであるが、それでも竜は魔物。

 意思の疎通はできず、偶像に過ぎない存在だ。


「ハーフエルフ代表として感謝します。それに加えて、私の愚息を共にしてもらえませんか?」

「共?」

「馬車馬のようにこき使っても構いません。世界を……旅したいそうです」

「は、はあ」


 何となく了承するメル。

 整った顔のシュタイヤは了承されたことを嬉しく思うと同時にメルへと近づき――


 チュッ


 と手に口づけをする。


「ふぇ?!ええええええええ!」

「あれ?おかしいですね。貴族間の挨拶はこうするものだと――」

「無礼者!」


 ぴしゃりと怒るベガにシュタイヤはケロリとした表情を見せる。

 扇子で叩こうとしたが、スッとよける。


「無礼者って、これが挨拶でしょう?」

「たわけが!いつの時代の話をしておるんじゃ!メルよ!何か言ってやれ!」

「は、はじめてですよ……こんな挨拶……」

「き、貴様はメルの初めてを奪ったのか!!」

「いや、それ貴方も同じでしょう?」


 喧嘩をする二人にゴホンとシュレインが咳を鳴らす。

 会議中であるのを忘れていたのだ。


「それに伴い、こちらも護衛を付けることにします。ワイバーン、地竜、ともに十頭ずつを遣わすのですが宜しいでしょうか?」


 その言葉でベガは真剣な顔をする。


「……良いのか?」

「シュタイヤだけではないのですよ。あなた方に興味を持ったのは……それにこれは“交渉”ですのでね」


 ベガはくつくつと笑った。

 真剣に見つめるのはこの場にいるハーフエルフたちだ。

 口を扇子で隠し上品に笑うベガであるが、それは機嫌のいい証拠。


「かかか、なるほど。じゃが、尋ねる相手が違うぞ?メルよ、どうするつもりじゃ?」

「え?私?」


 困るメルに視線が集中する。苦く笑い頬をかく。

 だが、やはりこの決定はメルがするものである。

 立ち上がるメルはそのまま、彼らに応えるように瞳を輝かせる。


「もちろん歓迎します。そして支援して下さった皆様にはこの森の“自治権”を交渉材料とします」

「ふふふ、ありがとうございます」


 その言葉に答えるのはシュタイヤであった。




「さて、これで一先ずの目標は達成じゃな」

「ええ、お疲れ様です」


 作戦が終了し夜の森でその様子を見ていたベガとシュタイヤは呟く。

 メルは最後までこの争いを見ていたのだが、精神的な疲労により今は休んでいる。


 血の匂いが届かない穏やかな森の中、チラチラと見える松明は敗残兵を探すための光。

 幻想的に見えるが、それに伴って人が死ぬ音が聞こえる。


「よかったのか?」

「何がです?」

「とぼけおって、我らに付いてきことじゃよ」


 普通であればそういった交渉はグッテンバルグにいるソサエクスと交わすものだ。けれどもあえて、メルとその交渉をしたのは――


「あれは正しく、英雄の器ですよ」

「……」


 無言で返事をするベガは口元を扇子で隠し疑わしそうな目で見る。

 クスリと笑うのはシュタイヤだ。


「予感でしかないんですけどね。まあ、その才覚はいずれ発揮されるでしょう。それに――」

「こんにちは、シュタイヤ様」


 突然現れるのは兎耳の獣人だ。

 モコモコと白い防寒服を着た彼女は白兎のように白髪で紅い瞳をしている。


「あなた達がいますしね?」


 その言葉を残し、背を向け何処かへ歩いて行くシュタイヤ。

 音は消え、やっと静かな夜が戻る。

 所々あった松明の火も今は砦に向かって帰る。


「消しましょうか?」


 呟くのはイナバ。

 ベガはある意味メルを利用しているのだ。

 それは薄々であるがシュタイヤも気づいている。

 そして、ベガたちが第三の勢力であると言うことも。


「却下じゃよ。お主らは短絡的すぎる。それに“チート”の制限もある」


 そう言って剣呑な雰囲気を消すベガ。

 彼女らはこの世界のバグであり、戦争を巻き起こす火種。

 ということで、簡単には力を使えないのだ。

 そして誰も彼女を“人”と思わなくなるだろう。


「それよりもじゃ。調べたのか?」

「はい、ベガ様。やはりあの毒はヒュドラの毒で間違いありません」

「ヒュドラか……。かかか、面白くなってきたわい」


 それはこの大陸に存在しない魔物だ。一国が関わるとしてもその入手経路は特殊なものとなる。

 何処で手に入れたのか分からないが、何かの影は見えた。

 そして最も危惧していたことは――


「“三将”が動くそうです」

「そうか、そうか。遂に王国が本気を出すのじゃな」


 彼らは他国の侵略や妨害によって内乱への介入を遅らされていた。

 それぞれが〈王国最強〉の称号が付いており、剣将、軍将、魔将の三つの将をさす言葉だ。

 つまり、王国の切り札であり、最高戦力なのだ。


「詰めたいところであったが、長引きそうじゃの」


 呟いたベガの言葉はそのまま風に乗り、誰も聞こえない彼方へと飛んでいった。



無能な敵じゃないようにしたいです。

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