プロローグ 監獄陥落
書き貯めました。
ただ、書いては消してを繰り返していたのであまりストックはありません。
バーガル監獄。
そこは難攻不落の監獄要塞で、反逆者や罪人などを収容する施設だ。
そしてその作りは罪人が逃げないよう、または反逆者の貴族が軍を呼んでも落とすことが出来ないように頑強なつくりとなっている。
武器は勿論食料までも完璧に備蓄されており、王都からの援軍が来るまでそれは尽きることはないだろう。
片膝をつき、現在もここの防衛隊長に頭を垂れているのは俺だ。
「暇だな」
そう呟くのはここの看守長であり、防衛隊長に任命されているダブだ。
肥え太った体は高級服を身にまとい、片手で持ったワイングラスを揺らす。
夜空を一望できる最上階、屋上は酒精が匂い。反射的に喉を鳴らす。
「それで、作戦の方は上手くいっているのか?」
「はい。毒を入れることには成功したようです」
部下の男、俺は片膝をついたまま森を見るダブに答える。
一見はただの砦に見える監獄だ。けれどもその砦の大きさと頑丈さは砦を攻めるものに圧迫感を与える。
出来てから100年という歴史ある建物だが、指揮官のダブにその重要性を理解しているかは甚だ疑問である。
上で松明を持つ兵とバリスタが無機質に警備を続ける。
「そして――いえ、確かな情報ではないのですが……」
「なんだ」
「グッテンバルグの兵がこの監獄に向け出兵させたようです」
荒立った声、癇癪を起こす子供のようであるがいつものこと。
パタパタと屋上にある王冠と剣の旗が騒めく。
ダブは黙ってワイングラスをあおった。
「ふん、馬鹿め。千、二千の兵士ではこの監獄は堕とせんよ。それにしても、他の貴族共は何をやっているのだ」
その雰囲気は傲慢な貴族という言葉がピッタリだ。
現にあいつは貴族としてこの場に派兵され、現場を指揮しているのだ。
そして俺はただ単純に徴兵された一平民。
あいつがこの場を任されたのはただ単純に貴族としての拍が欲しかったがためであり、後方ともいえるバーガル監獄であいつは愚痴を言うしか仕事が無かった。
「ん?」
俺は綺麗な流星を見る。
けれどもそれは――
「火矢だ!」
敵からの攻撃であった。
森から放たれるそれは〈ファイヤーボール〉の魔法も混ぜながら砦に向かって攻撃する。
「連絡を!」
駆け出すのは俺であるがそれをダブは止める。
なぜ俺を止めるのか?それはただ単純な理由であり――
「これはワシの手柄だ! とらえたハーフエルフ共は全部ワシのものだ!」
ハーフエルフはその珍しさ故高値で売れるのだ。
それにたかが、ハーフエルフたちにダブが救援を呼んだとなると非難されるのが目に見えている。
そういったプライドや彼のわがままで救援を呼ぶのが遅くなるわけだが――
グオオオオオオ!
「?!」
砦が揺れたと錯覚するほどの咆哮、恐怖に書きたてられた兵士は叫ぶように報告する。
「ち、地竜がいます!」
兵士が叫ぶ。
鳴くのは地竜だ。
森の中から出てきた地竜は周りにいるハーフエルフたちに照らされながらその存在を明確にする。
その間も火矢は降り続け、月明かりの空を何かが陰った。
「落ち着け!敵は地竜を持っているがバリスタを使えば殺せる!」
ダブは落ち着きながら命令する。
確かに地竜は強いが無敵というわけではないのだ。そして森に近いこの砦を建設するにあたって魔物対策をするのは当たり前のこと。
バリスタは十分に用意され、地竜を狙うが――
「!」
地竜は射程に入らない。
現在も雨のように火矢は降り注ぎ、それに応戦してこちらも矢を放つ。
攻城戦というのは一日で決着がつかないことが多くあるものだ。
その考えを元にすると今回は様子見という考えも頭に浮かぶ。
けれども、千人体制で砦を防衛する俺は不可解な点を見つけた。
「……なぜ敵は火矢を放つのでしょう?」
「はあ?」
ダブには理解できなかったのだろう。
「火矢は引火性のものがあるからこそ有効な物です。例えば藁葺の家や木製の家などです……。けれどもここは砦、引火性のものは一階にしまってある油だけなのです」
「それがどうした!こちら側を焦らせるため、もしくは!砦を明るくさせ、兵の位置を見えやすくするためだろう!」
そう断言するダブはイライラしながらも攻撃を命令する。
とは言ってもそれは「よく狙え!」や「何処を狙っている!」などの何一つ具体性のない言葉だ。
(攻城兵器に置いて最も簡単で原始的な道具は梯子だ。それであればほぼ無音で砦に侵入することが出来るが、哨戒の者に気付かれる恐れがあるし何より簡単に対策できること)
古くからある方法だと熱湯を浴びせる方法や梯子を壊すと言った方法など。
対策は簡単にできる。
となると次は破城槌になるわけだが――。
(後ろからの挟撃が狙い?だが、門はこの方角にしかないのだぞ?!)
策というのは相手の予想外をつくことにある。
それを考慮すれば俺のような一平民には分からない。
月明かりが鳥のようなとても大きな影を映す。
「う、後ろから!て、敵襲です!」
「人数を回す!それでどうにか対処しろ!」
「そ、それが」
報告に来た兵士が息を乱しながら話す。
俺たちは気付かなかったのだ。
森にいる地竜や火矢に集中するあまり、屋上には敵兵が既に一帯を占拠していると言うことに。
「ぐああああ!」
話していた男から剣が生える。
崩れ落ちる兵の後ろに立っていた者は――
「ス、〈スケルトン〉!」
松明で照らされるそれは死者の異臭を放つもの。
俺たちは暗闇にたたずむ、“空から降ってくる”死者に恐怖するのであった。
「かかか。上手くいったようじゃの」
黒と赤の和服を着た美少女は妖艶に笑った。
少女の簪によって纏められた黒い髪と瞳は月明かりによって黒く光る。
戦場から少しばかり離れた位置。
真っ暗な森から覗くのはベガという少女と――
「あんまり近づくと矢に当たりますよ?」
「何、そのためにお主が風の結界を張っておるのじゃろう?」
ベガの後ろからハーフエルフが現れる。
葉っぱの模様がある民族的な衣装とその若菜色の髪は良く似合う。
ハーフエルフ族長の息子、シュタイヤだ。
若いハーフエルフたちを纏めるリーダー的存在であり、地竜とワイバーンを操るもの。
そして――
「そろそろですね」
闇という舞台裏から姿を現すのは一人の少女。
月光は少女の足元から徐々に照らしていく。
白を基調に黄色い模様が飾るのはドレスというよりも、その少女を飾っているように見える。
金髪の髪が夜の匂いを漂わせる。
黄金の瞳を持つ少女は戦場を真っ直ぐ見つめた。
「メルよ……来ていたのか?」
「ベガちゃんたちだけに任せるわけには行かない……。それにこれは私が命令しないといけないだよ」
メルは高々と手を挙げる。
それはこれから命を奪う命令で、命を落とす命令だ。
少女と言っても過言ではない年齢のメルはその肌に死者の匂いと夜の冷たい風を感じる。
少しの戸惑いで揺れるメルであるが――
「大丈夫じゃよ」
その呟きは風に乗ってメルの耳に届けた。
いつの間にか近くにいるベガは笑い、メルを見守る。
それに答えたメルは。
「全軍!突撃!」
地竜が突撃し門を破ると同時に騎士団がなだれ込んだ。
挟撃だ。
敵の狙いに気付いた俺だが、それは時すでに遅かった。
カバンが空から降り、その中から現れるのは武器を持った〈スケルトン〉だ。
今俺たちがいる場所は平原を見下ろせる場所で砦の屋上部分だ。
戦いは既に乱戦模様、バリスタも機能しなくなってきている。
つまりだ。
ドゴゴゴン!
その音は砦での扉が破られたことを意味する。
「ば、馬鹿な!」
指揮官のダブは慌てふためいている。
砦が落とされたと言っても過言ではない状況だ。
故に彼の命令は当然であった。
「ぜ、全員その場で敵を殲滅せよ!そ、それとフランシスにこの場の指揮権を譲る!」
背を向けて階段を下りるダブ。
俺以外は気付いていなかった。それは目の前のことに精一杯であり、俺がダブの姿を捉えたのは偶然であったからだ。
最後まで屑な男。
それを律儀に守るのは一般兵である俺たちだ。
死の匂いが辺りを漂い始めた。
「て、敵兵が――ぐわ!」
そして残念なことに、逃げ道は塞がれたらしい。
そして――。
「げう!」「がはあ!」「うぐ!」
〈スケルトン〉であるからこそできる戦法。
今もなお、矢の雨は降り続けている。徹底した殲滅戦だ。
弓を取るべきか剣を取るべきか?迷ったものから死に、間違ったものも死ぬ。
松明がチラホラと地面に落ち、そこに照らされる血が炎のように紅く輝く。
焦る兵たちを纏めようと声を大きく張り上げようとするが――
「こんにちは、皆さん」
小さな声だった。だが、戦場にひどく響くのは小さな子供のような声。
空から聞こえるその声の主は月をバックに“浮いて”いた。
輝くその緑の髪と幼い容姿に似合わない笑顔を向けるのは――
「緑千の魔術師……シフォン・グランハード!」
魔法陣から放たれる矢の雨は正しく、流星のごとくであった。
「わしは、わしはこんな処で死ぬわけには行かんのじゃ!」
あちらこちらから聞こえる金属を交える音。
鉄と血の混じった匂いが漂い始めた長い廊下をダブは部下を引き連れながら走る。
慌ただしい足音が廊下に響くと同時に――
「おや、あれが敵の指揮官のようですね」
「そうですね。スレイン」
燃えるような真っ赤な髪を振り、深紅の瞳をぎらつかせる女騎士と、短い白髪を持ち冷静さを思わせる青の瞳の騎士がいた。
ダブたちに歩いてくるのはたったの二人。
背丈も性別も全く異なる彼らだが、共通しているのはその獰猛な笑顔と月明かりに照らされた命を奪う直剣である。
「し、侵入者だ!殺せ!」
好戦的な目つきをした彼らを侵入者と断ずるのにいささかの迷いも否定もなかった。
ダブの部下はその任を実行すべく、石畳の廊下を走り彼らの間合いへと――。
「へ?」
ダブの部下の首から血が噴き出る。
すれ違いざまの一瞬の出来事だった。
「では、どっちらが先に取れるか勝負しましょうか?」
「面白いですね。レオジーナ」
レオジーナとスレインは廊下を走る。
レオジーナの赤い髪はそのまま残光を放ち、スレインの鋭い眼閃は尾を引く様に走る。
突撃する二人に剣を抜き、挑むのは一般兵でしかない彼ら。
ダブを守ろうと壁になるが意味はない。
「か、覚悟!ごふ!」
心臓を一突きに斬り捨てる。
「と、とらえ!ぎいいいいやああ!」
両腕がポトリと落ちる。
二人の走る速度は変わらず、斬り捨てられる。
レオジーナとスレインの鎧は既に血にまみれており、傍から見たら赤い血の化け物である。勢いの止まらない彼らは――
「あ、赤髪の斬姫レオジーナ……。千刃の戦鬼スレイン……」
ダブが呟くのと同時であった。
ダブの首と胴体が別れを告げるのは。
ということで、無双回でした。




