とあるチーターと英雄姫
第一章はこれにて完結。
「ちょうどいい時間じゃ」
ベガはそう呟くと同時に〈ジャンヌ〉の召喚を解除する。
悔しそうにしながらそれを受け入れるのは自分では勝てないと〈ジャンヌ〉が理解しているからだ。
そして――
城の背後に大きく展開された魔法陣。
透き通るように白い色をした陣は月の光を浴びながらもなお輝く。
〈落ちる夜〉
黒光りする矢が荒野に放たれる。
絨毯爆撃のように逃げることもできない圧倒的暴力はクレーターと土煙を残し、そのままリオンの姿をかき消す。
「やり過ぎではないかのぅ」
「なに、これくらいじゃあ彼は死なないよ」
ベガの隣で答えるのはシフォン。
レオジーナはただ逃げたわけではない。リオンが来たこと知らせるために、対抗するために、シフォンを呼びに行ったのだ。
そして、飛行の魔法ですぐさま現場に到着したシフォン。
夜でもなお、シフォンの若菜色の髪は輝いていた。
「どんなわけか知らないけど、手加減はしないよ?」
「……お前が誰かに手加減したことなどあったのか?」
答えるのはクレーターが残る荒野にただ一人立つもの。
普通であれば生存不可能。けれども彼は無傷のまま荒野に立っていた。
リオンが持つのは一本の剣――その髪と同じく白銀のただ強さと伝説を残した剣だ。
「……なるほど、ならこっちも全力で行かせてもらうよ」
シフォンは腕を振り上げた。雷という名の竜がゴロゴロと喉を鳴らす。
それは竜を象った紫電。
雲の切れ間からリオンを襲うその術の名は――
〈紫立ちたる雲の雷〉
振り下ろすと同時に空気を焦がす竜はリオンに襲い掛かる。
だが
「〈竜を断つ英雄の剣〉」
襲い掛かる紫電の竜であるが、その剣は竜を斬る。
雷と剣が混ざる音は竜の断末魔のように荒野に響いた。
「かかか!竜殺しは本当のようじゃのぅ」
「……」
ベガは笑うがその術を発動したシフォンはその剣を鋭く睨んでいた。
その魔法はシフォンにとって必殺と言ってもいいような技であり、それほどまでに自信のある技であった。
故にその剣が本物であると言う確信が持てた。
「初代王の剣〈ジークフリート〉……まさか、王族側に寝返るとはね」
「……」
寂しそうにつぶやいたシフォン。
彼らが何を思っているのか分からないがそれでも、彼らの間にあった関係や思い出はそのまま彼らの胸を締め付けた。
そして――
「リオンさん?」
森を抜け、荒野にいるリオンとシフォンを見るのはメルだった。
「……リオンさん?」
2人の中間に立つメルは状況が分からなかった。
ただメルが来たのは周りの騎士が騒がしかったのが理由であり、何かが起きていることは知っていても何が起きているのかは知らなかった。
「……どうやらここまでのようだな」
呟くリオン。
勿論、メルだけが来たわけではない。
メルを守るように騎士たちが現れる。100にも迫るその数と訓練された兵は〈スケルトン〉達とは違いその一人一人が厄介な強さを持つ。
そして、今も相対するベガとシフォンの前では不利と言わざるを得ない。
リオンは一つの魔術結晶石を砕く。
それは空想の領域にある魔法で“ある者”から貰ったもの。
徐々にその輪郭がぼやけ遠く離れたところに一瞬で移動できるそれは転移魔法。
「メル、ここから先は戦場だ。この先にお前が望んだような結末など存在しない。あるのは怒りと悲しみだけ、それでもなお俺に会いたければ――
――王都まで来い」
その呟きを残し、消えるリオン。
メルたちの長かった一日はその言葉と共に終わった。
清々しい朝とまではいかなかった。
どんよりと曇った天気はそのまま気分をどんよりとさせる。
暗く、湿った空気に似合わない声を出すのはベガだ。
「メルよ。起きておるか?」
朝に弱いメルはまだ寝ているものだと思っているベガ。
テントを開ける前に呼びかけるのだが――
「――なんじゃ。起きておったのか」
「ベガちゃん……」
元気のないメルはそのまま苦く笑った。
メルは起きてはいたのだが、ベッドに腰掛けパジャマ姿のままであった。
ベガは隣に座る。
「やっぱり……戦争は止まらないのですね」
「……ああ、そうじゃ。この連鎖は既に誰にも止められぬ」
いつかは気付かないといけないことであったのだ。
それでもなお、止められると信じていたのはただ単純にメルが戦争に対して無知であっただけだ。
それは皮肉にも、自分の家族――騎士が死に、頼りにしていたリオンという兄に裏切られたからこそ、その恐ろしさを知った。
メルとしても最善を尽くしたという自信はあった。
けれども結果は思い通りにはいかず、徐々にメルの望んでいない結末へと進む。
「……なんで……争いは起きるでしょう?」
「……」
難しい質問にベガは初めて困った表情をする。愛するが故、憎むが故、理由はたくさんあるのだが――
「それはお主自身で探すものじゃ。ただ言えるのは――その答えが王都にあるということ」
黒の瞳がメルを導く様に王都のある方角を見る。
それは星の啓示、そしてその判断はメルに任せた。
しばらくの沈黙は空気を重くする。
けれども、いや、答えは決まっていたのだ。
「私――王都へ行きます」
それはベガに指し示されたからという理由ではない。
ただメルが覚悟を決め、決断したからだ。
そして思い出すのはあの日の夜のこと。
「私は星を恨みません。だからベガちゃん!私に知恵を、助けを、くれませんか?」
手を差し出すのはメルだ。
いつもなら逆であるはずのそれだが今回は違う。
これはメルがベガを巻き込むと言う意味であった。今までならただベガに巻き込まれ、従うだけであったメルは明らかに。
(成長したのぅ)
ベガはメルを友達だと言い、助けがあれば助けてやると言った。
つまりそれは――
「かかか!決まっておろう。我はチーターじゃ、何度でもお主を助けてやろう!」
この言葉は決まっていたのであった。
曇り空は王都の方角へと続いている。けれどもそれとは逆に里の方は清々しいまでの快晴になる天気であった。
手を取り合うのは二人の少女。
片方はチーターと自称するベガという少女、そしても一方はこれから英雄姫と呼ばれることになるメルという少女。
これはとあるチーターと英雄姫の物語である。
ネット大賞六が終わるまで投稿はしないつもりです。
盛り上がる場面を書くのは疲れる。




