二人の邂逅
読者のイメージと作者のイメージを重ねるのが難しい。
迫力が伝わればいいんですけど……。
黒いローブを着た男が立っていた。
星空が森を照らす時間。
ハーフエルフたちの里、その入り口である大きな岩がある場所でその男は一歩踏み出そうとしていたが――
「来ていましたか……」
その背後から現れるのはレオジーナ。
開けた場所、荒れ地と言ってもいいような場所で邂逅する。
蒼い髪がまるで静かな夜の海の波ように騒めいた。
腰に差してあるのは一本の剣だ。
……思い出の――彼からもらった一本の剣であった。
「久しいなレオジーナ」
「今まで何処に、という質問は無しにしましょう。聞きたいのは何故ここに来たと言う一点のみです」
若い声に答えるのはレオジーナ。
そして剣を抜いた。
上を向く男はため息をつきながら、いつの間にか剣を抜く。
合図は要らない。その背中はレオジーナにとって憧れであり、追いかけていたもの。彼のことが心配で仕方がなかった彼女は確認するように挑んだ。
突然仕掛けるのはレオジーナだ。
「〈ファング〉!」
上下の斬撃を放つ。
けれども、それだけでは男を倒すことが出来ない。
「〈風牙〉!〈散花斬撃〉!」
緑色の風を纏う斬撃、そしてその次に続くのは彼女が持つ最強の技。
花びらが散るエフェクトと共に無数の斬撃を浴びせる技であるが――
「〈善剣の裁き(バニッシュオブソード)〉」
男のその一言で男の剣は白いオーラに包まれ、一閃する。
その剣筋は絶対の正義、光を備えたもの。
速く美しく、それ故に最強であった。
キン!
弾かれるのはレオジーナの剣。
彼女の腕はこの国でも名を轟かせるほどのものであるが、それでも彼に比べればその差は歴然。
この結果は当然のものであり、必然のものであった。
「癖が抜けていないな。それでは生き残れんぞ」
レオジーナのコンボは確かに強力なものであったが、それでも彼らにしか分からない隙と言うものがあった。
「やはり……あなただったのですね。リオンさん」
風に揺れる草木、その合間から零れる月の光は確かに男の顔を映した。
剣を構えたままのリオンはその剣先をレオジーナに向ける。
リオン・シュレイン。
銀髪の短い髪と金と黒のオッドアイが特徴の男だ。
そして――
「それで?〈王国最強〉、〈シュレインゴールの絶剣〉が何の用じゃ?」
月明かりがもう一人の登場人物を浮かび上がらせる。
岩に立つのは一人の少女。
「何者?」
落ち着いた声で尋ねるのはリオン。
月明かりに照らされるのは一人の珍客。いや、ここにいるのが予想外で想定していなかった故の発言。
「歴史と歩むもの、ベガじゃ。初めまして、と言っておいた方がいいかのぅ」
「初めまして、と言っておいた方がいいかのぅ」
大きな岩の上に月というスポットライトを浴びながら登場したのはベガという少女。月を背景に妖艶に微笑むさまは、女神のように美しかった。
簪でまとめた黒髪が揺れる。
「様子が変だと思いながらついてきたら……なんじゃ?男か?」
にやにやと笑うベガにレオジーナは苦く笑う。
「いい男でしょ?何なら紹介してあげてもいいのですが……」
レオジーナは剣を向けられている最中であるがそれくらいの余裕はあった。
そしてちょうどいい機会だと思った。
「代わりましょうか?」
「ほお?」
口元を扇子で隠すベガ。
何を思っているのか分からないが、それでも乗ってくれるだろうとレオジーナは思っていた。
「まあ、良いじゃろう。焔竜との戦いではあまり活躍していなかったからのぅ」
岩から飛び降りるベガはそのまま軽やかに着地する。
注視するのはリオンだ。
標的は既にベガへと移っている。
レオジーナはリオンを睨んだまま、後ろに下がる。
「さて、開始の合図はどうするか……」
ベガが呟き、レオジーナがその範囲から離れ、木の枝を踏んだ時。
「のぅ!」
ベガは短剣を投げた。
不意を衝くかのように投げられた短剣は簡単に防がれる。
一歩で剣の間合いへと捉えるリオン。
防ぐことも躱すこともできないベガはそのまま転移術で逃げる。
だが、その逃げる位置までも予測していたリオンはそのまま追撃をする。
岩の上に逃げたベガは目の前に迫っていたリオンと見つめ合う。
ザンと斬られるベガであるが――
「かかか!やりおるわ!」
髪留めが斬られ、髪を下ろすベガ。
転移術でさらに遠くへと逃げる。
ベガが纏う衣服は並の衣服ではない。防刃性に優れたその和服はリオンの斬撃を防いだ。
ベガは左手から小さな精霊、バスケットボールほどの小さな精霊を召喚する。
色とりどりに属性を宿す小さな精霊。
夜空の星にそれは幻想的に片や――
「移世に現れよ。兵どもの夢の跡、〈一夜城〉」
不気味に。
暗く小さな城が現れる。
和式の城は月明かりに照らされ、瓦が輝く。
黒いオーラを纏ったそれは冥界にあるはずの城。禍々しいと言う表現が似合うそこにベガはその天守閣でリオンを見下ろす。
その城門から〈スケルトン〉が現れる。
5体、10体と――
「死霊術か?」
「歴史と戦っておるのじゃよ。お主は」
リオンは剣を構えなおす。
城門の〈スケルトン〉は弓を構える、と同時に骨の馬に乗って出撃するのは別の〈スケルトン〉たち。一斉に襲い掛かってくる彼らだが――
矢も刃も届かない位置。けれどもリオンはその剣を横に一閃する。
「〈聖なる衝撃〉」
白い衝撃波が波紋のように広がった。
馬に乗っている〈スケルトン〉はよけることが出来ずまともに食らい塵へと返る。光で照らされるように放たれるその聖なる光はベガを、〈一夜城〉をも襲う。
「かかか」
白い斬撃が城を揺らす。
けれどもベガには無傷。
それもそのはず、精霊が彼女を守っていたのだ。
斬撃を受けた精霊は消えるが、その間ベガは詠唱を終えていた。
「御旗を立てる乙女よ。我と共に戦場を彩ろう〈御旗の乙女 ジャンヌ〉」
召喚されたのは旗を持つ騎士の恰好をした乙女。
土埃が舞う戦場を背景に召喚される。
「御用を」
エフェクトが消え、現れるのは少女と言っても差し支えないほどの若い女性。
片膝をつき、命令を待つのは精霊聖騎士の異名を持つ〈ジャンヌ〉。
「黒の旗を頼む」
完結に命令するベガ。
見上げる〈ジャンヌ〉は嬉しそうにその任を実行する。
ドン!
〈ジャンヌ〉は黒い狼の旗を立てた。
それだけで、〈スケルトン〉の纏うオーラが変わり簡単に言うならば禍々しさが増したと言うところ。
「……領域系エンチャント、媒介はあの旗か」
聖術に耐性を得たのだ。
城の上で悠々と風に金髪をなびかせる〈ジャンヌ〉。白銀の鎧は城と不釣り合いなほど輝いており、彼女が聖者であるのを示す。
鋭い目線でにらみ合う。
「ベガ様、あの者は?」
「この国最強の騎士じゃよ」
たったそれだけしか情報を与えていないが、それでも〈ジャンヌ〉は理解を得たようで、城門へと降りる。
とは言ってもそれは天守閣から飛び降りると言ったもの、落下すると同時にもう一本の旗を地面に深く突き立てた。
「〈猛火の御旗〉」
異空間から取り出す、燃え盛るもう一本の旗を立てることで、〈スケルトン〉の攻撃力が上がる。
重複するその効果にリオンは厄介さを覚える。
「これより先は私たちの領域。入りたくば、この私〈ジャンヌ〉がお相手しよう」
答える〈ジャンヌ〉にリオンは顔をしかめる。
一目見て〈ジャンヌ〉の強さを感じてしまったからだ。
リオンは幾多の戦場で召喚術者と戦ってきたが、ここまで異質で厄介な相手は初めて出会った。
そして――
「!」
一足で接近した〈ジャンヌ〉はそのまま、ただ旗を振る。
筋力任せのその一振りはリオンを撲殺すべく振られたもの。
防ぐリオンはそのまま勢いにより遠くまで運ばれる。
「基本も分かっているようだ」
土煙を上げ、飛ばされるリオン。
〈ジャンヌ〉は領域系に属するエンチャント。
それはつまり守りにうってつけな能力である。召喚術士に時間を与えてはいけないのは勿論基本で――
「百対一じゃ。お主、どうやって戦う?」
扇子を広げるベガ。
眼前に広がるのは黒い城とその下にいる数百の兵士たち。
先頭に立つジャンヌは旗を突き刺したまま、立ちふさがる。
圧倒的物量が、リオンを圧迫するが――
「単騎での城攻めか……ま、不可能ではない」
呟いたリオンに気迫の衰えは一切ない。それどころかこちらへ歩いてくる。まるで、百の兵など物の数ではないと言っているように。
〈ジャンヌ〉は腕を振り下ろす。
それは突撃の合図。
走る〈スケルトン〉たちは黒い濁流のようにリオンに殺到するが――
ザン!
首が飛ぶのは〈スケルトン〉。リオンは雑草を狩るように、屠殺するようにその流れに逆らいながら進む。
「引きなさい」
「そちらこそな」
再び相対するのは〈ジャンヌ〉とリオン。
降る旗が――
振るう剣が――
激突し、風を巻き起こす。
轟音が数回響き――
――左腕が舞う。
パシン。
「――やるのぅ」
呟いたベガの扇子は閉じていた。
ベガの近くに膝をつくのは……。
「申し訳ございません」
転移召喚した。左腕を失った〈ジャンヌ〉である。
エンチャンターであり、その能力値は同レベルの戦士には負けるものの、エンチャントされたステータス値はそこまで低くはない。
苦虫をかみつぶした顔をする〈ジャンヌ〉。
落ちた腕は光の粒子となって消えていた。
「なに、敵が強かった。それだけじゃよ。それに――ちょうどいい時間じゃ」
呟くと同時に城の背後から魔法陣が描かれた。
矛盾していたので説明します。
初代王が焔竜と戦ったのはハーフエルフの里防衛戦のときと竜鳴きの谷での決戦の二度です。




