違った正義
リオンの強さを書きました。
青い空に羊雲と紫色の煙が流れる。
閑散とした街並みで、そこにいる住人たちは昼間なのに家にいた。
普段であれば活気にぎわう王都であるのだが、今は戦時中である。空き家が目立ち、巡回する兵士たちもどこか暗い表情。
スラム街にいる餓死者や公開処刑された者たちをカラスは啄んでいた。
王都、リニエスタにて白く巨大な王城がある。
白亜の城と例えることが出来るそれは、建国の記念に建てられたもので長い歴史を感じさせた。住まうのは王と王紀、加えて避難してきた貴族たち。
幾多の馬車が玄関付近にて待機していた。
「……」
一階の長い廊下を――無言で歩くのは銀髪とオッドアイが特徴の青年。
すれ違うたびに頭を下げる人は兵士やメイド、執務官に至り彼の位が如何に高いのかを示した。
それは彼の纏う衣装にも反映される。
軍服に近い――蒼と金を使った巧みな服と青の磨かれたブーツ。
飾る宝石はピアスにあるダイヤと……“王家の者”である証拠のサファイアの指輪だけ。
それら全てが彼を飾るためのものだが――その中で唯一違うものがあった。
「厄介なものだ……」
リオンは自身が持つ聖剣を煩わし見つめた。
聖剣〈ジークフリート〉は王が振るう剣である。
初代王が使っていた愛刀で有事の際に国王自らが振るう剣であるのだが、今は王の容態が優れず代わりにリオンが使っているのだ。
――王位継承権、第一位であるリオンが。
コツン。コツ。
クツの音は止まり、今も警備と敬礼をとる兵士にリオンは尋ねる。
「容体は?」
「相も変わらずです。……お入りください」
リオンは兵士から許可を得て一室に入った。
来客をもてなす際の部屋なのだが、今は軟禁所として使われている。
豪華展覧とはいいがたいが高級な雰囲気を纏っているのは言うまでもない。
ポツンと。
疲れを見せる白髪の男は上等な白い服で身を纏い、清廉とした佇まいでベッドに横になっていた。
「ゴホゴホ、元気そうで何よりだよ。リオン」
「義父様こそ……」
元気そうというには言葉が詰まった。
以前より痩せた手足と抜け落ちた髪が目立つ。
言葉に詰まったリオンは何を言おうか慌てるが、大して気に留めていない義父は。
「自分の体のことは分かっている。それよりもまだ、私のことをそう呼んでいたのか」
嬉しそうに笑うのはメルの実の父親にして領主であるトリスタン・リ・シュレインゴール。
リオンの育ての親にして、戦争を止めるよう王に直接交渉をしにきた者である。
そして、そんな彼がここにいるのは――。
「それで……ゴホゴホ、国の様子は?」
「変わらず……。今もまだ、アイネが国の舵を取っている状態です」
「そうか……そうか」
蒼い顔のまま、トリスタンは王城の外を見た。
トリスタンがここに軟禁されているのは単にアイネがそう仕向けたから。
王に直接の交渉をしようとしていたトリスタンは第四王紀――今は王の代理人アイネによって妨害された。
王の容体が優れないのを理由に、今は彼女と王専属の薬師と聖術者しか入れない状態であった。
「聡明な王がこんな戦争を望むはずがない……ゴホ! 王が病に伏しているのを理由にアイネが勝手に……グム!」
胸を押さえ咳き込むトリスタンにリオンが介抱しようとするが、手を突き出し来るなと伝える。
――机に置いてあるキセルが日にあたる。
「それで……ゴホゴホ。“極楽の霧”の出どころは分かったか?」
「……はい。やはりアイネが贔屓にしている商会から出ているようです。ですが」
「ああ、分かっている。既に合法化され、貴族たちに渡っているのだな」
「はい」
それは麻薬に似た成分を持つ煙草であった。
これによってアイネは自らの地盤を固め、王都内の貴族たちを纏め上げたのだ。
王都で当たり前に吸われているそれは表の名で“極楽の霧”、裏の名前で“傾国の狼煙”と呼ばれている。
「これは毒だ。国も体も……ゴホ! 侵す毒だ」
チラリと机に置いてあるキセルに目を向ける。
トリスタンは無理やり一服吸わされて“これ”なのだ。
中毒性が高く、定期的に摂取しなければ狂う。
抗うように胸を押さえるトリスタンにリオンは何もできない。
「すまないリオン。お前まで……ゴホゴホ! ここにいる必要は無い。メルと共に逃げてくれればいい……」
会うたびに繰り返してきたこの問答は彼らが別れ際に交わす言葉でもあった。
答えは決まっており、この会話が続いていると言うことはリオンが――。
「すいません。義父様。私は王族であり、今はリオン・リニエスタです。ここで逃げるわけにはいかないのです。そして――祖国を捨てるわけにもいきません」
「……」
決まっていた答えを再び口にする。
リオンは未だに国に、トリスタンに縛られていたのだ。
唯一生き残った王子だから、トリスタンを見殺しにするわけにもいかないから。自分一人ではこの戦争を終わらせることができないから。
リオンを縛る鎖はきつくリオンに巻き付いている。たんにこれはトリスタンだけのせいではなく、リオン自身の性格もあった。
「すまないな……リオン」
「……」
分かっていてトリスタンは尋ねたのだ。
自分がリオンの枷になっている事実を否定してほしくて、けれども何度尋ねてもリオンはトリスタンを捨てないだろう。
「お前は……やっぱりお前は〈最強の騎士〉だ」
リオンは守るべきものの為に今日も悪と共に戦う。
己が間違っていてもそこに残るのが自分の正義と反するものであったとしても、彼は守るべきものの為に剣を振り続けるのだろう。
リオン・リニエスタは今日も今日とて、間違いを貫く。
ありきたりですいません。




