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華甲二年の再会  作者: 有嶺 哲史
第一章 春、夏、秋
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第14話 前夜の仕掛け

 明日の午前中最後は老女弓美子の内視鏡検査となっている。

有嶺は前日から検査室に仕掛けを設置した。

比良野には陰謀と対抗策の詳細を言っていない。

言えば彼のことだ。

すぐに敵側の誰かを捕まえて直接詰問し、それが敵側に知れてしまいかねない。

美矢子にもらった資料によれば、敵側は病院の据え付けカメラの記録を都合よく改変して不祥事の証拠としてでっちあげてしまうつもりだ。

病院の当時のカメラは人の顔も不鮮明なビデオカメラだということは有嶺も知っていた。

 比良野の使う検査・処置スペースは病院の端にあり比較的孤立していて、いくつかの小部屋に区切られていた。

仕切りは天井まで塞いでいない突っ張り間仕切りだったので、隣室から覗くことは出来た。

敵の仕掛けに対抗する有嶺の策とは検査室の隣の部屋からこっそりスコープを覗かせて、明日の検査時に起こる本当の事を独自に録画する。

そして敵の映像が都合よく編集された不正なものだということを示して彼らの主張を覆すのだ。

こんな単純な策のために大金をかける有嶺はひょっとして大勘違いしているのではないか、という考えがチラチラ浮かんだ。

それで何度も考え直したがこの方法しか思いつかない。

設置場所を探していたら先客がいたようだ。

彼らはファイバースコープ付の性能の良いビデオカメラを設置していて、カメラ本体に記憶メディアは無く、線を辿ると別室に録画装置が目立たないように設置されていた。

偶然有嶺の装置とよく似た構成だった。

ただし彼らはタイマーで自動録画するらしい。

これに美矢子とおれが一緒にいる所を写されるとまずい。

敵のカメラに映りそうな範囲を確認した。

美矢子から渡された資料によれば、敵は始め病院の設置していたカメラの映像を利用するはずだった。

しかし途中で変えたのだろう。

断りなしに撮影した映像が裁判に証拠として使えるのかどうか、当時そのことははっきりしていなかった。


 元の部屋に戻ろうとしたとき突然暗い背景に白い服が出現し、幽霊かと思って総毛が立った。

それは見慣れない長身のスマートな鼻の高い美人ナースで、驚いて大きな目を見張っていた。

有嶺も驚いたのだがとっさの機転でえらそうにハッタリを効かせて睨みつけながら大声で叱りつけた。


「ここで何をしていた!」


「ひぇ~っ!」


本当は部外者である有嶺の方が叱られるべきだ。

しかし動転して有嶺を病院のおえらいさんと勘違いした、この病院に来たばかりで不慣れなおっぱいナースはびっくりして長い脚で駝鳥のごとく逃げ帰った。

有嶺にはホームランをかっ飛ばしたような快感があった。


 有嶺の装置は工業用のファイバースコープで、別の隣接部屋に設置した。

内視鏡と同じように向きを変えることが出来るもので、彼らの装置のある隣室も見える。

それで明確な陰謀の証拠がとれる。

スコープとのインタフェースには医療用も工業用も接続できるものを使った。

 有嶺の潜む隣室には大きなベッドがあった。

モニターと録画機を置いた。しばらくすると敵の一味が彼らの使う隣室にやってきた。

音や声は筒抜けなので何者かすぐ判った。

彼らは装置の位置を変え動作などを確認していた。


 彼らがいなくなりこちらの装置の設置とテストが終わると小松女医を呼んだ。

彼女に協力してもらうため昔の我々の関係を説明しておこうと思ったのだ。

気付かないうちに幽霊のように立っていた女医は涼しい空気に包まれていた。

比良野にはまだ言ってはならないと釘を刺し、明日の彼らの陰謀と我々の対策を話した。

彼女はいつもの無表情から興味芯々になってきた。


「さようでございましたの。世間知らずのこんな私など、お役に立ちましょうか?」


「なに、ちっとも恐れることも恥ずかしいこともない。ごく普通のことをしてもらうだけなのだ」


今の弓美子の容貌は有嶺も見ていなかったので比良野の説明どおりに言ったら顔が浮かばないという。

比良野の表現力は元々貧弱で大雑把だ。

そこで有嶺は、待合室にいたら一目見ただけで只者ではないと誰もが思う、それが弓美子だ、と言った。

篤子を帰らせてから検査室ベッドの近くにあった使われていないベッドの中に〝ある物〟を隠した。

それからスコープを外してテーブルに置いて帰った。

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