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華甲二年の再会  作者: 有嶺 哲史
第一章 春、夏、秋
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第13話 前日の怪しいミーティング

 老女の初診日から約一か月後、季節は進み十一月の始めになった。

風が相当涼しい。

酷暑の夏もすっかり忘れ果てた。

ナナカマドの紅葉と赤い実は季節の進みを知らせた。

コスモスが最後の盛りだった。


 明日の午前中最後は老女の内視鏡検査である。

布沢グループの中心メンバーが打ち合わせをしていた。

このところしばらく不在の布沢副院長室に男女十数名が集まっていた。

外部の人の来ない病院医局は倉庫かと思うほど机や機材・資料がびっしり置かれていてものすごく狭かったからだ。

 以前こども理事長に驚いたフリーター女医が、ある幹部医師と純粋に医療の話をしながら歩いてきた。

その幹部医師は布沢グループの中心メンバーの一人だった。

彼女は話に夢中になって一緒にこの副院長室に入ってしまった。

途端にそこの殺気を孕んだ異様な雰囲気に気づいてサッと物陰に隠れた。


 以前から病院に入り込んでいた中年の男が明日の行動計画を説明した。

彼はオジキ一味の幹部、石川である。


「姐さんの内視鏡検査が明日行われる。検査をするのは比良野だ。我々は仕掛けをする。でっちあげた疑惑で記者会見を行い、立候補した比良野にダメージを与える。検査室の隣に今日、昼に録画装置を置いた。始め病院の据え付けカメラの録画記録を使うつもりだったが、ボスは画角が悪い、画質も酷すぎるというので追加した。録画データは後で我々の目的に都合よく編集される。我々の陰謀が事前に漏れているなら比良野とその一味がここで妨害工作をするだろう。この中の三人がそれぞれ明日の比良野副院長、小松女医、高岡医師の行動を病院内で監視するのだ。他の一人が姐さんを監視する。なぜなら今回の標的は姐さんが生まれて初めて惚れた男だから、心残りがあれば我々を裏切るかもしれない。女中のカバも付き添い人として明日病院に来させる。ボスはカバを信頼しているがおれは疑っている。だから今後の計画はカバ女には絶対教えるな。カバに内緒で親戚の小学四年生の利口な少女を呼んでカバを監視させる。カバがスパイなら計画実行の明日比良野側の工作仲間と必ず接触する。子どもだと思って油断して尻尾を出すだろう。他の者達はおれと一緒に病院内の要所を巡って……おいっ! 何だ手に持っているのは」


気の散りやすい手下を前に、いささか一気にしゃべりすぎた。


「これでっか?」


布沢副院長の椅子にあつかましくドッカと座っている、ぼんやりした男がそれを出した途端全員慌てて身を伏せた。

本物か? 


 皆が震えている間にフリーター女医がこっそり出て行った。


 中年の男は恐々立ち上がり


「パイナップルやないか。このあほんだら! すぐ持って帰れ!」


彼は元々関東弁である。

下の者を叱る時不慣れな関西弁が出ることがある。


 そこには布沢の新旧愛人二人もいた。

赤鼻ナースは、布沢が何を思ったか判らないが美人でもないのに愛人にしていた。

昔ならナースキャップに黒線二本が入っていた看護師長である。

大学出たての若い医者などはいつ怒鳴られるかと戦々恐々としていた。

布沢と長く付き合っているうちに彼の邪悪さに染まっていた。

既に寵愛が薄れていて、今回の働きで挽回したいと思いつめた表情である。

比良野副院長の愛人と陰で言われていた篤子を以前から意識し嫉んでいた。

彼女は篤子を監視するという。

 おっぱいナースはごく最近こちらの病院に転職したばかりで、明日弓美子を検査する比良野の補助をすることになっていた。

二人のナースは初対面なのに既に反目しあっていた。


「明日の部屋の様子を確認してこい」


と、男はおっぱいナースに命令した。



 そのころオジキの自宅では〝(あね)〟と呼ばれることもある弓美子が鏡の前で浮かぬ顔をしていた。

オジキの指示で髪の毛を真っ黒に染め、四十年前の大阪万博の頃に流行った髪型と服装で身を固め、若々しい化粧をしてみた。

あの頃輝いていた、かつての自分がいるか。

僅かに期待もしたが鏡を見ると逆に自信は打ち砕かれた。

なんと古臭くてアンバランスなのかしら……かつての輝くような若々しい美しさは片鱗も無かった。

鏡を見れば見るほど思い知らされる自分が嫌でたまらなかった。

しかし昔を知らない人から見れば女盛りの四十才に見えるほどの若返りだった。

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