第9話 ギルドが弱り始めたのでギルドを乗っ取って不労所得を目指します④
2本投稿はきつかったんでやめようと思います夜19時のみ
「……本日の分の『特効薬』は、以上で全て完売となります」
私がすました顔でそう告げた瞬間、最高級サロンは悲鳴に似たどよめきに包まれた。
「そんな馬鹿な! まだ私が行き渡っていないぞ!」
「金貨3枚出すと言っているんだ、頼む、あの脳が震えるような感覚をもう一度……!」
魔酔から劇的に回復した高ランク魔法使いたちが、色めき立ってワゴンに詰め寄ってくる。その背後では、現金なことに、これまでパルフェを鼻で笑っていた保守派の貴族たちまでもが「我が家お抱えの魔導師たちにもぜひ……」と、熱い視線を送っていた。
(うわーーー! 飢えたエリートたちに一瞬でリピーターの導線が繋がったわ!! ちょろい、ちょろすぎるわ高級プリンの魔力……!)
私は内心のガッツポーズを完璧に隠蔽し、最高にエレガントな一礼を繰り出した。
「皆様、ご安心を。今回は急なサーブでしたので数が限られておりましたが……我が相談室『パルフェ』は、本日をもちまして『アインスワース公爵家』の特任厨房と正式に業務提携を結びました。明日以降、ギルド一階の相談室にて、優先提供枠の『先行予約』を受け付けますわ」
「な、何だと……!? アインスワース家公認の薬効菓子なのか!」
「明日の一番に予約へ向かうぞ!」
隣でチサトちゃんが「(えっ……そうだっけ?)」みたいな顔で目を丸くしているが、これはビジネスだ。使えるハコ(旦那の実家)の名前は最大限に盛って使うのが鉄則である。
チサトちゃんには、翌日アインスワース家にその旨を伝えてもらおう。
妻だから、業務連携も簡単だろう。恐らく。
これで、夜会の主役は完全に私たち『パルフェ』のものとなった。
──と、なれば。次に行うべきは、戦場の「お掃除」だ。
私は、会場の隅で泡を吹いてぶっ倒れているブラック事務主任へと、冷たい視線を向けた。
「……さて。皆様、大変素晴らしい夜会でございますが、一つだけ、ギルドの運営に関わる重大な『不祥事』をこの場でご報告せねばなりません」
私の凛とした声がサロンに響き渡り、私は彼を見下ろす。貴族たちの視線が倒れた主任へと集まる。
「そこの事務主任ですが。彼は私怨により、今夜のデザートに関わる重要資材の発注書を独断で握り潰し、ギルドの公式行事を意図的に妨害いたしました」
「何だと……!?」
貴族たちから不穏な声が漏れる。彼らにしてみれば、自分たちの脳を救うはずだった特効薬が、一味方のくだらない嫉妬で危うく闇に葬られるところだったのだ。怒りの矛先が変わるのは一瞬だった。
「さらに言えば、現在、ギルド一階の窓口が暴動寸前の大パンクを起こしているのも、彼が有能な人員をクビにし、適切な業務を放棄した結果です。前月比で事務処理効率は四割低下、現場の冒険者たちの命に関わる重大なポーション申請の紛失まで発生しております。これらは全て、彼の『管理不足(無能)』が招いた数字上の事実ですわ」
言い逃れのできない具体的な数字とロジック。
さっきまで主任と談笑していた後ろ盾の貴族が、真っ青な顔でフンと不快そうに鼻を鳴らした。
「……フン、我が派閥の推薦枠で引き上げてやったというのに、私怨でギルドの行事を汚し、あまつさえ我が家に泥を塗るとは。見損なったぞ、無能め」
その一言で、ブラック主任の社会的な死亡宣告が確定した。彼はもう二度と、このギルドで這い上がることはできない。完全なるパージ(排除)の完了である。
パチ、パチ、パチ、と。
小気味いい拍手の音が、会場の最奥から近づいてきた。
出席者たちが一斉に道をあける。
眼鏡の奥の切れ長の目を三日月のように細めた男──ギルドマスター、バルドル・クライドだった。
「実に見事だ、ミオちゃん。私のギルドを、お砂糖の力と知恵だけでここまで完璧にひっくり返すとはね……」
正直、と彼は続けた。
「君の持ち味は人を見る目だけだと思ってたけど……そうじゃないのかな?」
「いえ、私にできるのは人を見ることだけですよ」
私には、才能がない。
「────でも、人を正しいポジションに誘導すれば、誰かの力を120パーセント引き出せるんですあなたはそれが出来なかった」
静まる観衆の前で、私は微笑んだ。
驚くほど緊張していない。
「なるほど、また1つ、学んだよ。……君は面白い。君と戦うために、残りの人生で新しくギルドをやるのもいいかもしれないね」
バルドルさんはワゴンの前に立つと、不敵でセクシーな笑みを浮かべ、手に持っていた古いギルドの全権章を私へと差し出してきた。
「約束通り、私の負けだ。お腹いっぱいだと言ったが、君の注ぎ足した新しい味は、私の想像を遥かに超えていた。……さあ、このギルドマスターの座を君に譲ろう。今日から君が、このバルド本部のトップだ」
会場が、静寂に包まれる。
誰もが、一介のアドバイザーが王国最大の巨大組織の頂点に立つ瞬間を、息を呑んで見つめていた。
だが。
「いいえ、それは結構です」
私は差し出された全権章を、すっと綺麗な動作で押し返した。
「……おや?」
バルドルさんが片眉を上げる。
「勘違いしないでください、バルドルさん。私は『ギルドを乗っ取る』とは言いましたが、『ギルドマスターの面倒な実務を引き受ける』とは一言も言っていませんわ」
私はふっと口角を上げ、用意していた一枚の新しい契約書を彼のマグカップの横に滑り込ませた。
「日々の膨大な管理業務、予算の責任、他国や王族との面倒な政治交渉、それら全ての『コストとリスクの高い仕事』は、これまで通りバルドル様が責任を持ってやってください。……私たちが欲しいのは、ギルドの最高決定権に対する拒否権、そしてパルフェの提案を100%通す『経営最高顧問』のポジションだけです」
「…………」
バルドルさんは一瞬、呆気に取られたように目を見開き、それから────ククク、と肩を震わせて笑い出した。
「ハハハハハ! なるほど、参ったな! 実務と責任という重荷は私に丸投げしたまま、美味しい特権と権力だけをノーリスクでハックするつもりか。私に逆転のチャンスも与えずに。……でも、君とさらに近くで仕事をするのは……ふふ。本当に……最高に悪魔のようなビジネスパートナーだ」
「お褒めに預かり光栄です、元ギルドマスター」
バルドルさんは迷うことなく、自らの魔法印を契約書にポンと捺した。
(よっしゃあああああ完了ーーー!! 面倒な管理実務は全部おじさんに押し付けつつ、ギルドの権力だけを合法的にハック完了!! これ以上ない最強のホワイト勝ち組ポジションキターーー!!)
周囲の職員や貴族たちも、今のパルフェの圧倒的な実績と支持、そしてバルドル自身が楽しそうにそれを受け入れている姿を見て、もはや誰も反対の声すら上げられなかった。
翌朝。
一階奥の相談室『パルフェ』の窓からは、いつも通り、いや、いつも以上に活気を取り戻したギルドホールの様子が見えていた。
昨夜のうちにバルドルさんの陣頭指揮のもと、事務室の適正化(無能の排除とチサト式マニュアルの導入)が始まり、大パンクしていた窓口は驚くほどの速度で書類を捌き始めている。
チサトも、元先輩として新しく入ってきた後輩達に直接指導をしているようだった。
ほぼOBだが。
私は彼女が大変じゃないかと心配したが、イキイキしてる彼女をみて安心していた。
「……ふぅ。ミオさん、結局ギルドの管理はギルマス様がやってくれるんですね。なんだか、私たちが全部やるものだと思ってドキドキしていました」
チサトちゃんが愛用の回転椅子に座り、淹れ立てのお茶を飲みながらホッとしたように微笑む。
「当然でしょ、チサトちゃん。あんな巨大な組織の事務管理なんて、まともにやったら私たちのプライベートな時間が消えちゃうじゃない」
私は窓の外、ギルドの境界線を越えて広がる、王国最大の王都の街並みを見つめた。
「それにね、チサトちゃん。ギルドの適正化なんて、私たちにとってはただの『インフラ整備』……ただの通過点に過ぎないのよ」
「通過点、ですか?」
「そう」
私は振り返り、チサトちゃんに向かって、これまでにないほど不敵な、そしてワクワクした笑みを浮かべた。
「ようやく手に入れたこの強大なギルド。育てれば育てるほどうま味が溢れて止まらないわ……私のアドバイザーの才能と、あなたの管理能力を生かして、もっと大きくして、そのうち不労所得でウハウハになれるくらいには育てるわよ」
私たちの相談室『パルフェ』の、本当の快進撃(本番)は、今この瞬間から始まるのだから。
(次回 新章)




