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第8話ギルドが弱り始めたのでギルドを乗っ取って不労所得を目指します③

計画を考え始めてから4日後。


あれから、1つ問題が起こった。ブラック主任の妨害だ。


まず、私達がギルドの経費を利用してプリンを大量生産しようという話。私達が事務所に「夜会のデザート備品」という名目で、市場で最も高価な「純度の高いお砂糖(銀貨クラス)」で、最高級の卵・牛乳を大量に合法発注。────しようと思ったのだが。


一向に届かないないので、私が問い詰めに行くと、主任は


『えぇ?夜会のデザート備品の発注書?すまないけれど、今、私達は忙しいんだ。そんなことより、事務仕事の書類を捌くのが大変でね。すまないが、君たちで勝手にしてくれたまえ』


────なんて、ありえない返しをしてきた。

でも、この問題はすぐ解決した。

絶望する私に、チサトちゃんが


『なら、私がアインスワース家の厨房と、材料を使えるように頼んでみます!……一応、妻ですし!!』


と言ってくれた。



王国最大の巨大複合施設、中央ギルド「バルド本部」二階の最高級サロン。


今夜、この場所で、名だたる大商人や保守派の貴族、そして高ランク冒険者たちが一堂に会する『ギルド夜会』の幕が上がろうとしていた。


会場内は、絢爛豪華な魔導具のシャンデリアに照らされ、きらびやかな衣装を纏った出席者たちの談笑で溢れかえっている。


「……ふん、お前たちのような新参の相談室『パルフェ』には、その残り物のデザート給仕がお似合いだ」


会場の隅、給仕用のワゴンを前にした私たちを見下ろして、ブラック主任が品のない笑みを浮かべていた。


チサトちゃんを失って大パンク中の一階事務室を放置して、後ろ盾の貴族にゴマをすりに来たらしい。彼の手配によって、私たちは完全に「雑用」である一番最後のデザート担当に押し付けられていた。


「大恥をかいてギルドから叩き出されるのを、特等席で見せてもらうとしよう」


勝ち誇ったように鼻で笑い、会場の奥へと消えていく主任。


主任は、私達のデザート備品の発注を切っているので、おそらく私たちには何も出来ないとおもっているのだろう。


シルクのドレスを纏った私は、表面上はどこまでも冷徹で理知的な「すました美人顔」を完璧にキープしていた。

「その程度の嫌味、効いてないぞ」と。


しかし、その内側はといえば────。

(あ、ブラック主任いつもご無沙汰です!マジで最高の爆弾設置ポイントをありがとうございます!! 脳みそヘロヘロでイライラ度マックスになる夜会終盤の魔法使いたちの前に、糖分を爆速で脳に届ける『冷たいお砂糖の塊』を投入するとか、ビジネスの視点で完全な『勝ち確』じゃん!!)


脳の騒ぎををプロの表情筋で封印し、私は隣のチサトちゃんにそっと目配せをした。ワゴンの上には、白い布に隠されたチサトちゃん特製の特大「濃厚カスタードプリン」が、出番をじっと待っている。


「チサトちゃん、まずは夜会を楽しもう。バルザックさんが用意してくれた最高の舞台なんだから」


「はい、ミオさん! 私たちの仕掛けた罠が爆発するのを、のんびり待つとします!」


夜会が始まってから、数時間が経過した。

最初は華やかだった会場の空気は、時間が経つにつれて徐々にドロドロとした重苦しいものへと変わっていく。

花形である派手な属性魔法の演舞は大盛況だった。


だが、それを終えた強力な魔法使いたちは、今は裏手に消え、額に大粒の汗を浮かべて不機嫌そうに呻いている。


「……くそ、頭が割れそうに痛むな」


「政治的な議論と、先ほどの魔力の消費が重なったせいだ。視界がチカチカする……」


これこそが、この世界で言う重度の「魔酔ますい」。

だが、その正体は単なる【急激な低血糖症】だ。

脳を異次元の速度でフル回転させたことで、脳のエネルギー────つまり『糖分』が一瞬で枯渇し、彼らは極限まで飢えているのだ。お腹には脂っこい魔獣の肉が詰まっているのに、脳だけがスカスカ。会場中が一触即発のピリピリとした空気に包まれていく。


遠くでブラック主任が、ニヤニヤしながらこちらを指差した。時計の針は二十二時。

いよいよ、私たちの担当であるデザートの時間がやってきた。


私はチサトちゃんと共に、ゆっくりとワゴンを押して会場の中央へと進み出た。

チサトちゃんが不敵に微笑み、ワゴンの上の白い布をバサリと取り外す。

現れたのは、ガラスの器の中でツヤツヤと美しく輝く、キンキンに冷えたプリンだ。


「おい、なんだあの安っぽい菓子は。こんな夜会の最後に、子供の食うようなものを……」


怪訝そうな顔でこちらを睨む、一人の高ランク魔法使い。

私はすかさず、ガラスの小皿にそのプリンを美しくすくい取り、贅沢にカラメルを回しかけて彼の前にすっと差し出した。


「お疲れの皆様に、脳の特効薬でございます。どうぞ」


「……ふん、無駄だとは思うが……」


男は不機嫌そうにスプーンを握り、プリンをひと口、口へと運んだ。

その瞬間────男の動きが、ピキリと凝固した。


「な……なんだ、これは……っ!?」


口の中でとろけるような卵の圧倒的なコク。それを引き締めるカラメルの絶妙な苦味。

何より、のどを通り過ぎた直後、彼の脳内に異次元の速度で何かがパチパチと染み渡っていく感覚。


(ふふん、そうよ。前世のIT企業で毎日終電までエクセルを叩き狂い、低血糖の恐怖を知り尽くしたチサトちゃんのお砂糖プリン。脳が最も欲しがっている高純度のブドウ糖が、今、あなたのヘロヘロな脳細胞に爆速でチャージされたのよ!)


わずか数十秒後。男の額から汗が引き、濁っていた瞳に、パッと明瞭な光が戻った。


「き、霧が晴れた……! 割れるように痛んでいた頭痛が、嘘のように消え去っていく……! 頭が、魔力が冴え渡るぞ!! おい、これを作ったのは誰だ!?」


男のその絶叫が、静まり返っていた会場の引き金となった。


「何だと!? 魔酔が治っただと!?」

「私にもくれ!」

「おい、そこの給仕、早く皿に盛れ!」


一瞬にして、私たちのワゴンの前に、きらびやかな貴族や高ランクの魔法使いたちがプライドをかなぐり捨てて殺到した。押し合いへし合いの大パニック、完全な暴動状態である。


「ひゃっ、あ、順番にお願いします……!」


チサトちゃんは目を丸くしながらも、元プロ事務員の超高速の手際で、次々とプリンを小皿に盛り付けていく。


「美味い……! なんだこの滑らかな食感は!」

「これほどの効果を持つ魔導薬、聞いたことがない! 中身はなんだ!?金貨1枚(約10万円)だ、この皿を私に譲れ!」

「いや、私は金貨2枚出す!」


ただのデザートだったはずのプリンが、完全に「最強のデバフ解除アイテム」としてハックされ、信じられない高値で奪い合いになっていく。


これこそがチサトちゃんの『お料理技術』というポータブルスキルが、世界の需要とガチリと噛み合った瞬間だった。


「ば、馬鹿な……! なぜだ! 雑用を押し付けたはずなのに、発注もしなかったのに……なぜ奴らが夜会の中心にいるんだぁぁ!」


会場の端で、ブラック事務主任が血走った目を剥き、泡を吹いてその場にバタリと卒倒した。

自分が仕掛けた「嫌がらせの雑用係」が、最も効果的な「勝ち確ポジション」として利用され、自分の後ろ盾だった保守派の貴族たちすらプリンの列に並んでいる現実。


その狂乱の渦を、会場の最奥のVIP席から静かに見つめている男がいた。


ギルドマスター、バルドル・クライド。

彼は、眼鏡の奥の切れ長の目を細め、私に向かってニヤリと最高に不敵な、セクシーな笑みを送っていた。

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