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第6話 ギルドが弱り始めたのでギルドを乗っ取って不労所得を目指します①

「おい!査定はどうなってんだ!三日も待たされてるぞ!」


「医療室のポーションが切れてるってどういうことだ!」


正面玄関の重い鉄扉をくぐった瞬間、怒号と熱気が広いホールを揺らしていた。私とチサトちゃんはその大混乱を横目に、すいすいと階段を上がっていく。


王国最大の冒険者ギルド「バルド本部」は、今や完全に機能不全(大パンク)に陥っていた。


ここはただの仲介所ではない。巨大な酒場、魔物の解体場、医療室に資料室、訓練場までが密集する国家規模の複合要塞。

そして、これら全ての現場から日々吐き出される膨大な金と、山のような書類の処理は、すべて一階奥の事務室に集約されている。


────そう、チサトちゃんという「超有能なワンオペExcel頭脳」を失った、あの事務室に。


「なぜだ……!なぜ書類が減らない……!チサトがいなくても、私が本気を出せば一日で終わるはずなのにぃぃ!」


事務室のガラス窓の向こうでは、あのブラック主任が血走った目で白目を剥き、書類の山に埋もれてリアルに泡を吹いていた。


(そりゃそうでしょ。チサトちゃんは前世のIT知識をフル活用してマクロ並みの速度で処理してたんだから。無能なあなたに代わりが務まるわけないじゃない)


私は心の中で盛大に草を生やしながら、チサトちゃんと共に最上階のVIPゾーンへと向かった。重厚な扉をノックする。


「入りたまえ」


低く、心地よく響くバリトンボイス。

部屋の主に座るのは、ギルドマスター、バルドル・クライド。


上質な三つ揃えのスーツを纏っているが、190センチ近い巨躯からは、元凄腕冒険者としての圧倒的な威圧感が滲み出ている。冷徹な知略家である彼は、パイプの煙越しに窓外の大混乱を退屈そうに見下ろしていた。


「バルドルさん、これ。現在のギルドの機能不全に関するレポートです」


私はチサトちゃんと事前に爆速でまとめ上げた『ギルド構造改革プレゼンシート』を、彼のデスクにドンと叩きつけた。


「一人の天才に依存した属人化業務、現場を無視して書類の数だけで職員を評価する古いシステム。これが今のギルドの最大の問題です。このままだと、国一番の組織が内側から腐り落ちますよ」


バルドルさんは、眼鏡のブリッジを太い指先でクイと直し、書類に目を落とした。万年筆の先でトントンと机を叩く、長い沈黙。


チサトちゃんは私の横で怯えて縮こまっているが、私は1ミリも怯まない。


なぜなら、この瞬間こそ、私がずっと待っていた**【ギルドを乗っ取る完璧なタイミング】**だからだ。


チサトちゃんが抜けたギルドという船は、事務という穴から確実に沈み始めている。そして、その穴を塞ぐ唯一のプラグ(チサトちゃん)は、今、私の手の中にある。


バルドルさんはフッと不敵に、最高にセクシーに唇を歪めた。


「……相変わらず、私の度肝を抜くのが美味いな、ミオちゃん。ギルドを狙うハイエナのような嗅覚じゃないか。……それとも、この騒ぎも君が引き起こしたものなのかな?」


彼は挑発的に唇を舐め、楽しそうに言葉を続けた。


「君はイチノセ君を事務室から引き抜いてこの状況を作り出した。ギルドを乗っ取るために、彼女を美味〜く利用したわけだ。実に見事な人間投資だよ」


チサトちゃんがハッと唇を噛む。

「……っ、違います!彼女は私の友達で────」


「それは感情論だろう?」

バルドルが冷酷に切り捨てた。一瞬で部屋の空気が凍りつく。


だが、私はその凍りついた空気を、笑顔のまま踏み潰した。


「貴方が言ってることも、ただの『結果論』でしかありませんよ、バルドルさん?」


私が割り込むと、バルドルさんは実に嬉しそうに目を細めた。彼は私が喋るとこうする。


「攻め手に欠けるからって、女の子同士の仲を引き裂こうなんて、トップのする紳士的な交渉じゃないでしょう?」


「全く、手厳しいな。……だが君には期待して、これまでいろいろ手助けしてやっただろう?相談室も、広告も、すべて私のおかげではないのかな?」


彼はすっかり冷めたコーヒーを、さも美味そうに啜った。


────その通り。私には彼に大きな恩がある。


2年前、どこに行っても門前払いだった私の「キャリアアドバイザー」というふざけた提案を、面白がって拾い上げてくれたのは、間違いなくこの男だ。


普通なら、ここで「恩人を裏切る罪悪感」に潰されるかもしれない。


だが、前世でビジネスの荒波を生き抜いた元社畜を舐めないでほしい。


(恩は恩。ビジネスはビジネス。あなたのことは大好きだし感謝もしてます。……だからこそ、あなたの創ったこの生ぬるい組織ごと、綺麗に全部奪い取ってアップデートしてあげますね)


私の瞳に一切のブレがないことを見て取り、バルドルさんは眉尻を下げた。どこか諦念の混ざった、気怠げな苦笑を浮かべる。


「……私は、君が力を蓄えて、いつか私の力を奪いにやってくる日をずっと楽しみにしていたんだ。君なら、私の後ろにいる頭の固い保守派の老人どもを黙らせるブレインになれると、信じていた。……まさか、こんなに早いとはね。嬉しいよ。……契約を移譲しよう」


彼は、最後の一口のコーヒーを苦そうに飲み干し、マグカップを置いた。


「……いいえ、結構です」


「えっ」


チサトちゃんの動きが止まった。

バルドルさんも、さすがに目を見開いている。

私はデスクの上のコーヒーピッチャーを平然と掴むと、彼の空になったマグカップに、なみなみとコーヒーを注ぎ足した。

彼はそれを見つめた。


「え……っと、君は、私の座を奪うつもりでここへ来たんじゃないのかい?」


「そうです。100%奪い取ります」


「じゃあ、なぜ契約を拒むんだ?」


「もちろん、あなたの座は私が頂きます。でも、そんな寂しそうな顔で自主引退されて、後々『あの時は譲ってやった』なんて師匠面をされたら、私のプライド的にすっごくムカつくので。──まずはこの状況で、あなたを完膚なきまでに叩き潰してから、王座を引きずり下ろします」


私は最高に凶悪で、最高に愛らしい笑みを浮かべた。

チサトちゃんが顎が外れそうなほど愕然としている。


「……はぁ、全く。おじさんをそこまで徹底的にイジめたいのかな?」


バルドルさんは動揺を隠すように、やれやれと肩をすくめて皮肉な冗談を言った。


「主語はおじさんじゃなくて、敗北者、です」


「おいおい、ショックだなミオちゃん〜」


言葉とは裏腹に、バルドルさんの瞳には、元最高峰の冒険者としての「極上の闘志」がバチバチと再点火されていた。


「それじゃ、また、楽しみにさせてもらうよ。君がどうやって()を絶望させてくれるのかをね」

彼はわざわざ注ぎ足されたコーヒーを掴んで、獰猛に、低く笑って、呟いた


「……正直、もうお腹いっぱいだけどね」


(次回:チサトの覚醒、プライベート・ギルドの全貌へ続く)

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