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さよなら、オリーブビーチ  作者: 花守郁
第一章:夏の色彩
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04.

 数日後、夏休みを目前に控えた三限目の学活の時間。担任の太田先生が、味気ないプリントを配った。

 一番上に、でかでかとそして黒々と印刷されている文字が目を突く。第一回進路希望調査票。

 クラス中がざわざわと騒がしくなった。ついに来年、最終学年なのだとにわかに実感が生まれてくる。

「みんな。まだ中二、だと思うなよ。このまま島の高校希望者はいいが、島の外の高校を受ける人は、冬の船のスケジュールや受験手続きも変わってくる。通学なのか寮生活なのかとか、いろいろご家族と相談することも多い。真剣に話し合うように」

 考えるまでもなかった。俺は第一志望の欄に島の高校の名前を書いて、その他の希望欄は空白のまますぐに机の中に突っ込んだ。親父のオリーブ園を早く手伝いたいくらいだし、この島から出る理由なんて、俺にはひとつも見当たらなかったからだ。


 放課後、部活に入っていない俺たちは、いつものように教室の居残りで駄弁っていた。

 窓の外からは、運動部の掛け声と、遠くの波の音が聞こえる。蝉の声が、ねっとりと張り付くような暑い夕刻だった。

「なあ、二人とも何て書いた?」

 俺は机に顎を乗せたまま、まぁ同じことを書いているだろうなと軽い気持ちで尋ねた。

 澪は、シャープペンシルの後ろについている消しゴムをいじりながら、調査票に視線を落とした。

「……わたし、高松の高校を受けるつもり」

「え?」聞き間違いかと思った。

 高松。ここからフェリーで一時間半ほどかかる、海の向こうの街だった。

「高松の、食品科学科がある農業高校。私、やっぱりあっちの専門的な学校で、ちゃんと食品開発の勉強がしたい。お母さんにも、島を出て慣れないとこで暮らすのは大変だから、行くなら早いほうがいいって言われたし。…向こうで、寮に入るつもり」

 澪の声は、驚くほど静かで、固かった。冗談を言っている目じゃなかった。

 親とも話して、もう方針は決まっているという口調だった。いつから、そんなことを考えていたのだろう。

「高松って…。じゃあ、もうこの島には帰ってこないのかよ?」

「そんな将来のことまだ分からないよ。とりあえず、高校からは出ていくってだけ。でもすぐ帰ってこられる距離だし」

 脳を直接殴られたような衝撃だった。なんてことないこととのように言ってきている。

 澪が、この島からいなくなる?

 急に目の前が暗くなったような気がした。焦った俺は、助けを求めるように隣の航を見た。

 航なら、同じ気持ちで澪を引き留めるようなことを言って、もう少し考えるように諭してくれると思った。

 だけど、航は窓の外の瀬戸内海をじっと見つめたまま、ぼうっとしていた。ぼんやりと遠くを眺めて、海の向こうの場所に思いを馳せているように見えた。

 手元では、プリントを綺麗に四つ折りにしていた。内容が目に入らないよう、隠すかのように。

「…航?」

「…………」返事はなかった。

その指先は、かすかに震えていた。その意味を、俺は汲み取れなかった。

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