バレンタインの話
中学二年生。二月頭。
目をキラキラさせた同級生の女の子たちに、話しかけられた。あまり会話をしたことがない女の子たちで、何の用だろうかとすこし、身構えた。
「ねえねえ、岡田さん」
「…な、なんでしょう…」
ドキドキする。相手が悪意なく、ワクワクした様子で話しかけてくるものだから、警戒はゆるんでいた。
「岡田さんってお菓子作りが趣味なんだよね?」
「う、うん。そうだね」
「じゃあさ、じゃあさ。来週バレンタインでしょ?」
二月十四日。そういえば、そんな祭典があったような。普段、あまりイベントごとを意識せずに、趣味としてお菓子作りをしているので、改めて言われるとピンとこなかった。
「そうだったね」
「大西くんと、吉田くんに渡すの?」
毎週なにかしら渡していますが、と言うとめんどくさそうなので、とりあえず頷いておく。
「うん。そのつもりではいるよ」
そう答えると、女子たちがきゃーと黄色い声を上げた。
あ、これ女の子が恋バナを求めているときの反応だ、と遅ればせながら察する。
どう対応しようか、と頭を悩ませた。こういう時はとりあえず事実のみを羅列するに限る、か。
「岡田さんって、二人のどっちが好きとかあるの?」
「ないね」
冷静に淡々と返すつもりが、真っ先に出てきた質問に食い気味でかぶせてしまった。その勢いに、女の子たちがすこし怯んだように見えた。
「え…」
「で、でも大西くんも吉田くんもかっこいいじゃん…?」
「そうそう。大西くんは冷静沈着で、頭良くて紳士的だし。吉田くんは優しくて顔かっこいいし」
「へー…」
そこまで深く関わることがない人からすると、あの二人はそう見えるのかと静かな驚きだった。
私からすれば、そんなこと思えなかった。
航はそりゃ普段は優しくて面倒見もいいけど、腹黒くて怖いし。
水斗に関しては論外である。ほとんど生まれたときから一緒にいたせいで、親族の一部と化している。顔はいいかもしれないけど、水斗のお父さんとそっくりすぎてなんにも思わないのだ。親子がふたり揃っているのを見ると、歴代吉田家の顔展覧会、みたいに思えるほどだ。
「付き合い長いから、そんな感じじゃないかなー…」
これは偽らざる本音だった。そういう目で見たことがなさすぎて分からない。ママと弟みたいなものなのだ。
「えー…そうなの?」
「ご期待に沿えず申し訳ないです」
頭を下げ、これでこの話題が終わってくれたらな、と思った。
女の子たちは見るからに落胆していた、少しかわいかった。関係性だけを見たら、少女漫画のようだものなと思いはする。
「まあ、でもそうだよね」
「だねー。三人のうち誰かが恋なんてしちゃったら、もういっしょにいられないよね」
「好きになっちゃったらもうそれから見る目変わっちゃうだろうしね」
うわぁお。女子中学生の生々しい恋愛解説を聞いて、引いてしまった。
でも確かに一理ある。この関係はあくまで親愛や家族愛のようなものだからこそ成り立つのだろうな と。
誰かが下心なんて抱いてしまったら、感情のコントロールが未熟な私たちなら、すぐに分かってしまう。気まずくなって、すぐに壊れてしまうだろう。
改めて思うと、そんな危なっかしい関係が成り立っているのかと、感心する勢いだった。
「…そうだね、だったらなおのこと、大切にしないといけないね」
十四の春。私は、二つの気づきを得た。
一つは、私たちの関係が、いつ壊れてもおかしくないはかないものであるということで、
二つは、二人は意外に女子からの受けがいいということだった。




