14.
夕暮れ。俺は一人、西村の海岸の端にある、あの砂浜に立っていた。
夏にはあんなに眩しく俺たちの笑い声が響いていた砂浜は、今は春の静かであたたかな波が、寄せては返すだけになっていた。
俺は革靴を脱ぎ捨てて、塩水に浸かった冷たい砂を踏みしめる。爪先が水に触れると、あの夏の日。
岩に引っかかってしまった澪のルアーを外すため、二人で海に飛び込んだあの日。水飛沫を上げながら笑い合っていたときの記憶が、昨日のことのように鮮明に蘇ってくる。
そしてあのとき、俺たちを防波堤の上から眩しそうに見ていた航の、瞳。
思い返せば、一枚の進路調査票から俺たちのすれ違いが始まっていた。あれから俺たちはそれぞれに違う価値観を持ち、境遇を持ち、目標を持っていると認識しあった。
同じ場所で生きていたけれど、ほかには何も同じものはなかった。ただ、同じ気持ちだけは、共有していた。
ふと、砂浜に目を落とすと、夕陽の光を浴びて、きらりと光るものがあった。
しゃがみ込んで拾い上げると、それは淡い青色の小さなシーグラスの破片だった。彼女が見たら、喜びそうだなと思った。
俺はその破片をぎゅっと握りしめ、海の向こうを見上げた。遠い空があった。
もう、ここに、誰もいない。
春からの通学路に二人の影はない。だけど、二人がいつでも帰ってこられるように、俺はここで、この綺麗な海と、オリーブの木々を守り続けようと決意する。
冷たくなってきた春の風を胸いっぱいに吸い込み、砂浜を踏みしめた。
それぞれの航路を進む、俺たちの新しい未来へ向かって。
(第四章・了)




