12.
卒業式、当日。
僕たちはそれぞれ両親と一緒に登校した。僕たちは教室へ、両親は体育館へと移動した。
校門前で合流した僕たちは、お互いの姿に気恥ずかしさを覚えた。髪に整髪料を付けたり、普段よりも身なりをきっちりしているお互いに、照れくささがあった。
昇降口で靴を履き替え、階段を登って、二階の教室まで歩いた。机の上には胸につけるための造花の飾りと卒業記念の品が置いてあった。
本当に、今日で卒業なのかと、実感がわいてくる。小学校から移住してきて9年間、この島で過ごした。それが、ついに、一幕を終えるのだ。
「つけ方が分からん」
「安全ピンでとめるだけだよ」
水斗と澪の普通のやり取り。これも、今日で最後なのだというのに、なんて静かな日常なのだろう。
昨日、今日、明日。すべては繋がっている。劇的な終わりはなく、ゆっくりと収束して、無かったことのように、次の幕が上がるのだ。
そう、感じた。
体育館へ移動して、入場した。着席すると、すぐに校長のありがたく長い祝辞。これは聞きかねて、少し寝てしまった。
そして、卒業証書授与へと移った。一人ひとり、名前を読み上げられて、壇上へと上がっていく。校長から受け取り、降りる。一連の作業だが、自分の番になるとさすがに緊張した。
大西航。体育館に響き渡る自分の名前に、返事をして起立する。壇上で校長と向き合い、祝いの言葉とともに証書を受け取る。墨汁の独特のにおいがかすかに漂い、鼻をかすめた。背後で拍手が鳴る。
受け取ったのは、卒業を証明する、ただの厚紙の書類。だが、これは、僕にとって、とても大切なものな気がした。
僕が降段した後、澪の名前が呼ばれた。目をやると、澪は目を潤ませていた。彼女はここで泣くと思っていた。予想が当たって、ふふと笑みがこぼれる。証書を受け取ったタイミングで、僕も惜しみなく拍手を送った。
そして、最後の生徒。吉田水斗。太田先生がひと際大きな声で読み上げる。最後の教え子として、感情が乗っていた。水斗は動きがおかしかった。緊張でがちがちになっているようだ。身長が高いから、すごく目立っっていた。校長と呼吸が合っていなかったが、かろうじて証書を受け取る。水斗が深々とお時期すると、あふれんばかりの拍手が送られていた。
これで卒業生全員への授与が、終了したのだった。
「正直、俺は寂しい」
教室に戻された僕らは担当教師から、真顔で泣きながらの愛を紡がれていた。
「おまえらいい子すぎたから、寂しい」
内心、納得する。島の人は、穏やかな反面、個性というかこだわりが強い人が結構いる。マイルールというか、一般常識がちょっと通じない人。そういう人は問題児とまでいかなくても、手がかかる子としていたのだろう。
三者面談の時の対応を思い出して、太田先生の苦労を偲んだ。
先生はずびっと鼻をすすると、今度は真面目な顔をして、僕たちに向き直った。
「…誰一人欠けることなく、可能な限り望む道に進める未来を掴めたこと、先生は誇りに思います。まだまだ君たちは子どもですが、卒業して三年もすれば世間からは成人として扱われます。どうか、それまでに、どんな大人になりたいかということを想像しておいてください。憧れに思える人を見つけたりでも、なんでもいい。人生の経験を積んでおいてください。それが、未来の糧となります」
太田先生が、言い切ったというような満足げな表情を浮かべていた。
僕たちは、なるほどこれが太田先生の理想の大人像か、とさっそくサンプルを手に入れることが出来たのだった。
あ、と太田先生が何かを思い出したように、話を続けた。
「あと、成人するまでにどんなことが犯罪にあたるのかとか、そういう社会勉強も積んどきなさいね。知らなかったじゃすまされない世の中になってきているので。先生、犯罪者の中学校時代の担任…とかで取材受けたくないので、お願いします!」
以上!と、太田先生は言い切った。
とんでもなく、独創性と柔軟性がある担任だったなぁと、先生との思い出を振り返って、結論付けた。




